労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県令和2年(不)第11号
大進工業等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社(会社ら) 
命令年月日  令和4年1月21日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、申立外C会社からY2会社に派遣され、Y1会社の工場内で業務に従事していた組合員Aの労働災害及び損害賠償に関し、Y1会社及びY2会社が組合の申し入れた団体交渉に応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社は、Aとの関係において、労組法上の使用者に当たるか否か。また使用者に当たる場合、組合の令和2年7月6日付け団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、正当な理由がない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点①)

(1)Y1会社の使用者性について
ア Aは申立外C会社に雇用され、Y1会社に勤務していたのであり、AとY1会社との間には直接の雇用関係がない。
 もっとも、労組法第7条の趣旨に照らせば、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に、基本的な労働条件等を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあると認められる場合には、その限りにおいて、労組法第7条の使用者として団体交渉に応ずる義務があると解すべきである。
 令和2年4月6日に組合がY1会社、Y2会社、C会社らに送付した「要請書及び団体交渉要求書」(以下「2.4.6要求書」)に「団体交渉内容」として記載された事項は「2017年12月18日労災後遺障害第12級による損害賠償」であり、同要求書の記載からは、労災保険給付がなされている中で損害賠償を要求していることが確認できることなどを踏まえれば、本件団体交渉事項には、損害賠償の根拠となる安全配慮義務違反や労働安全衛生法規違反の有無の解明、すなわち本件労災事故の原因・背景となる安全管理のあり方の究明も含まれていたとの解釈が可能である。

イ 以上によれば、Y1会社が労組法上の使用者と認められるか否かの判断に際しては、同社が本件労災事故の原因・背景となる安全管理について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったか否かが問題となるところ、
①Y1会社がクレーンを使用する作業場における事故防止のためにどのような指示・周知をしていたかは必ずしも明らかではないが、派遣契約においては、同社はC会社の労働者の安全衛生の確保に努めるべき旨規定されていること、
②Y1会社のBは、現場責任者として本件労災事故に関する報告を受け、Y2会社が実施する災害防止協議会の出席者として位置付けられていたことから、Y1会社は、本件労災事故の原因・背景となる安全管理について、現実的かつ具体的に支配決定することができる地位にあったと認められること、
などから、Y1会社は、労組法上の使用者に当たり、団体交渉に応じる義務があるといえる。
 なお、労働安全衛生法第20条第1号によると事業者は機械等による危険を防止するための必要な措置を講じなければならないとされているが、同条は、労働者派遣法第45条第3項により、派遣先の事業者にも適用されることから、こうした点からも、Y1会社は、本件労災事故の原因・背景となる安全管理について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるものと解するのが相当である。

(2)団体交渉拒否について
 Y1会社は本件団体交渉申入れに対して何ら応答していないため、団体交渉を拒否したと認められ、これに正当な理由があったといえるかが問題となるところ、
①2.4.6要求書において、Y1会社の安全配慮義務違反又は労働安全衛生法規違反を問題視する記述はなく、本件労災事故の原因・背景となる安全管理が団体交渉事項であることは必ずしも明瞭ではなかったといえること、
②同要求書には、A受傷に関する損害賠償請求書を別途送付する予定である旨記載されていたが、その後送付されていないことなどからすれば、Y1会社が損害賠償請求の根拠が明らかとなった段階で本件団体交渉申入れに対する態度を決めようとすることについても相応の理由があったといえること。現に、同社は、損害賠償請求の根拠となる安全配慮義務違反及び労働安全衛生法規違反の具体的内容を明らかにする形でなされた令和2年12月5日付け団体交渉申入れには応じていること、
などから、Y1会社の団体交渉拒否については正当な理由が認められ、組合の令和2年4月6日付け団体交渉申入れに対する同社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

2 Y2会社は、Aとの関係において、労組法上の使用者に当たるか否か。また使用者に当たる場合、組合の令和2年4月6日付け団体交渉申入れに対するY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点②)

 AはC会社に雇用され、Y1会社へ派遣され勤務していたのであり、Y1会社の注文者であるY2会社とAとの間には直接の雇用関係がない。
 また、本件については、
①Aはプレキャストコンクリートの製造に携わる作業員等全員を対象とするY2会社の朝礼に参加していたことが認められるものの、Y2会社は、受注者の指揮命令下にある労働者の安全衛生について一般的な指示をしていたに留まり、Aをはじめとする受注者の労働者に対し、具体的な機器の操作について指示をしていたとは認められないこと、
②Y2会社が作成した製造作業標準はY2会社が発注するプレキャストコンクリート製造の一般的な手順を受注者たるY 1会社に対して示したものであり、Y1会社の指揮命令下にある労働者に対する業務指示は、Y1会社がこれを行うことが想定されていたといえること、
③Y2会社が毎月行なっている災害防止協議会は、受注者の責任者等の参加を得て安全衛生事項に関する協議等を行うものであり、これを実施したからといって、受注者の指揮命令下にある労働者に対して安全管理に関する具体的な指示を行ったとは認められないこと、
から、Y2会社は、本件労災事故の原因・背景となる安全管理のあり方について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとはいえない。
 したがって、Aとの関係において、Y2会社は労組法上の使用者には当たらず、その余を検討するまでもなく、Y2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。 
掲載文献   

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