労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和元年(不)第24号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年8月18日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、歯科医院を営む法人が、①組合の組合員A1に対し、令和元年7月1日付けで雇止めとする旨意思表示したこと、②組合員A2に対し、同月7日付けで雇止めとする旨意思表示したこと、③組合員A3を同年8月25日付けで雇止めとしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人がA1に対して行った懲戒解雇処分(平成30年11月5日付け)の係争中に、同人との間の雇用契約が継続している場合であっても、令和元年7月1日付けで雇止めとする旨意思表示したことは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)A1の雇止めの理由について
 A1が職場内の秩序を乱した旨の法人の主張について、A1は、勤務を開始して間もなく、歯科医院の衛生管理に関し、数々の事項を変更し、B(法人理事長・歯科医師)やC1(歯科衛生士)の困惑を招いたこと等が認められるが、BがA1を注意指導した事実は見当たらず、注意指導によって言動を改める余地があったから、A1が職場内の秩序を乱したと評価することは相当ではない。
 A1が業務上の指示に従わなかった旨の法人の主張について、A1ら3名は、Bが従業員全員の意向を調整したシフトの作成を指示したにもかかわらず、C1の意向を確認しないまま、同人ら限りで、意図的にシフトを作成したといえ、業務上の指示に従わなかったものと認められる。
 A2及びA3は、C2(アルバイト)が正社員として採用されることを憂慮し、これを阻止することを目的として、外注先のD会計事務所宛ての書簡を作成した。本件書簡には、C2を正社員とすることで人件費が増額することやBがC1及びC2だけに肩入れする恐れがあること、C1及びC2に関する否定的な事実や評価、経営改善にBの気概が感じられないこと、C2の正社員登用と引き替えにC1の退職を求めること等が記載され、A1ら3名の連名の署名がなされていた。さらに、A1ら3名は、平成30年10月24日、D会計事務所の職員に本件書簡の受領を拒否されたため、Bに対し、本件書簡を手渡し、その際に、A1及びA2において、30分以上にわたり、Bを非難した。以上からすれば、本件書簡に関するA1ら3名の一連の言動は、顕在化していた従業員間の軋れきを決定的なものにするものであったといわざるを得ない。
 以上によると、A1には業務指示違反が認められ、また、本件書簡をめぐる不適切な行為により、従業員間に軋れきを生じさせ、Bとの信頼関係も損なわれていた。
 加えて、歯科医院はBを除いて7人という少数の従業員で構成される職場である上、A1の雇用契約を更新した実績がないことに鑑みると、A1を雇止めとすることに一応の理由はあったといえる。

(2)不当労働行為該当性について
 A1が組合加入を公然化する前に、BはA1との雇用関係を解消する意思を有していたのであるから、A1が組合員であることが、A1雇止め通知に影響を与えたとは考え難く、その他、A1が組合員であることが、雇止め通知の動機となったことを示す事情は証拠上認められない。したがって、A1雇止め通知は、組合が主張するような反組合的な意思ないし動機に基づく行為であるとは認められない。
 よって、法人が、A1雇止め通知をしたことは、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらず、また、同行為は、組合の団結権を侵害しうるものではないから、労組法第7条第3号の支配介入にも当たらない。

2 法人がA2に対して行った懲戒解雇処分(平成30年11月20日付け)の係争中に、同人との間の雇用契約が継続している場合であっても、令和元年7月7日付けで雇止めとする旨意思表示したことは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか否か(争点2)

(1)A2の雇止めの理由について
 A2には、業務指示違反が認められ、また、本件書簡をめぐる不適切な行為により、従業員間に軋れきを生じさせ、Bとの信頼関係も損なわれていた。
 加えて、歯科医院はBを除いて7人という少数の従業員で構成される職場であったことからすれば、A2の雇用契約が1度は更新されていることを考慮しても、A2を雇止めとすることに一応の理由はあったといえる。

(2)不当労働行為該当性について
 組合の30.11.5団交申入れにより、A1ら3名の組合加入が公然化され、平成30年11月29日に団体交渉が開催されることとなった。しかしながら、Bは、同月20日、A2に対し、懲戒解雇とする旨記載された通知をしたことが認められる。以上によると、Bは、A1ら3名の組合加入や組合活動を牽制するために、A2宛て通知を行ったとも考えられる。
 しかしながら、Bは、30.11.5団交申入れ前に、A2に対し、A2及びA3宛て手紙により、C1に対する態度を改めるよう伝え、平成30年11月1日及び同月19日に、A2との間で2回の面談を行った上で、かかる面談でのA2の態度や語調から改善の見込みがないと判断して、A2との雇用関係を解消する意思を有したといえる。
 また、A2の雇止めには一応の理由が存することに鑑みると、A2雇止め通知は、組合が主張するような反組合的意思ないし動機に基づく行為であるとは認められない。

(3)よって、法人が、A2雇止め通知をしたことは、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらず、また、同行為は、組合の団結権を侵害しうるものではないから、労組法第7条第3号の支配介入にも当たらない。

3 法人が、A3を令和元年8月25日付けで雇止めとしたことは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)A3の雇止めの理由について
 A3について、Bとの信頼関係が損なわれており、また、A1らが退職した後、勤務態度に問題があったのであるから、法人がA3を雇止めとしたことには一応の理由があるといえる。

(2)A3を雇止めした当時の法人の認識について
 組合は団体交渉、訴訟、ビラの配布およびあっせん申請と組合活動を展開し、徐々にその活動を活発化させていったことを法人は認識していた。平成30年11月20日にA1及びA2が退職して以降、法人に勤務する組合員はA3一人であり、法人内に唯一残された組合員であるA3を雇止めして退職させれば、法人における組合の影響力を減殺することができたといえる。
 しかし、Bは、令和元年7月初めにはA3との雇用関係を終了させる意思を有していたところ、第2回あっせんを経て、組合の主張を踏まえてA3の雇止めについて再度検討したものの、上記意思が変わらなかったことが推認される。
 歯科医院はBを除いて7人という少数の従業員で構成される職場であることからすれば、従業員間の信頼関係が業務の円滑さ等に与える影響は極めて大きく、A3を雇止めした当時、法人にとって、悪化した従業員間の人間関係の改善が喫緊の課題であったことは想像に難くない。
 そして、A3について、Bとの信頼関係が損なわれており、また、本件書簡の作成に深く関与しているから、職場環境を改善して法人の業務を円滑にするため、法人がA3を退職させると判断したことも、やむを得ないといえる。
 以上を総合して判断すると、法人内の従業員の軋れきを決定的にし、A1及びA2が退職した後、他の従業員と問題を起こすA3について、少数の従業員で構成される歯科医院の秩序を維持するため、法人がA3との雇用契約を更新しないと判断したものといえる。
 
(3)よって、法人によるA3の雇止めは、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらず、また、同行為は、組合の団結権を侵害しうるものではないから、労組法第7条第3号の支配介入にも当たらない。
 
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