労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第53号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年11月2日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、解雇した組合中央執行委員長A2の未払残業代等に係る団体交渉申入れ(「本件団体交渉申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、誠実団体交渉応諾、文書掲示等を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和元年6月24日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を、55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書にて明瞭に墨書して、会社の本社入口付近の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 中央執行委員長 A1殿
Y会社        
代表取締役 B
 当社が、令和元年6月24日付けで貴組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
  (注:年月日は、文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件申立てが労組法に適合する労働組合の意思に基づいて行われた、同法の趣旨に沿う申立てであるといえるか否かについて

 会社は、本件申立てが不適法であるとして却下を求めているので、以下、会社の主張に沿って判断する。

(1)組合が労組法第5条第2項第7号に適合していないとの主張について
 当委員会による組合の資格審査の結果、組合は、労組法第2条の要件を満たし、また、組合規約は、同法第5第2項各号に適合していると認められる。
 本件申立時には、組合規約に不備があったものの、その後、組合は規約を改正し、本件審査手続と並行して改正された組合規約を当委員会に提出し、改正後の規約は労組法第5条第2項各号の規定を含み、組合は同条同項の要件を全て満たすこととなったものである。
 なお、会社は、規約改正を行った組合の第23回定期大会が無効である旨主張するが、大会の運営が規約に沿ったものであるか否かは組合自治の問題であり、本件では、組合内で大会決議や決定事項が問題とされておらず、これらの法適合性が疑われるような事情はうかがわれないことから、上記会社の主張は採用することができない。

(2)本件が代表権を有する者による申立てではないとの主張について
 本件申立時、A2は懲戒解雇となっているが、組合員の資格の有無は組合自身が決めることであり、会社から解雇された組合員が当該解雇の効力を争っている場合に、組合が当該組合員の資格を認めることは不自然ではない。
 本件労働協約第64条では、「組合員が就業規則の解雇事由に抵触した時は、会社は組合の同意を得て解雇する。」と規定されているところ、会社がA2の懲戒解雇に当たり、組合の同意を得たという事情はうかがわれず、組合は、A2の懲戒解雇を無効と考え、解雇された後も同人の組合員資格を認めることを会社に通知していた。そして、本件申立ての前後で、A2が組合の中央執行委員長であることは、組合内において問題となっていなかったのであるから、本件が代表権を有する者による申立てではないとの会社の主張は採用することができない。
 会社は定期大会〔2年9月17日〕においてA1が組合の代表者に選出されたことが無効であるとも主張するが、役員の選出が組合規約に従ったものであるか否かは組合自治の問題であることなどから、会社の主張は採用することができない。
 なお、会社は、組合が本件継続中にA2が代表者であるという主張を撤回したとも主張するが、不当労働行為救済申立事件継続中に申立人の代表者が変更されても、そのことは、申立人の申立適格に影響するものではない。

(3)本件申立て自体が権利濫用であるとの主張について
 団体交渉が行われないことについて、組合が本件申立てを行い、会社による団体交渉応諾等の救済を求めることは、労組法の趣旨に沿ったものであること等から、A1を中核とする恣意的な目的に基づく組合運営の一環としてなされた申立てであるとの会社の主張は採用することができず、本件申立ては権利濫用には該当しない。

(4)よって、本件の却下を求める会社の主張は、いずれも採用することができない。

2 本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて

(1)会社は、懲戒解雇によりA2は会社従業員の身分を喪失し、組合員及び中央執行委員の身分を喪失したとして、組合の中央執行委員長であるA2名義による本件団体交渉申入れを拒否している。
 しかし、組合内において懲戒解雇後の組合員資格やA2が中央執行委員長であることが特段問題視されていなかった本件団体交渉申入れの時点で、組合がA2を代表者として団体交渉を行う立場にあることを疑うに足りる具体的な事情はないから、本件団体交渉申入れが中央執行委員長A2名義でなされたことは、会社が団体交渉を拒否する正当な理由にはならない。

(2)会社は、組合の代表者ではない者との間で労使交渉、労働協約や協定の締結を行った場合にその法的な効力に疑義が生ずるとも主張するが、組合内においてA2の組合員資格が問題とされていなかった状況で、それ以外に同人が組合の代表者としての立場にあったことを疑うに足りる具体的な事情があったということはできず、会社の主張は採用することができない。

(3)会社は、A1らによって行われた本件団体交渉申入れは、A1を中核とする恣意的な目的に基づく組合運営の一環としてなされたものであり、それ自体、権利濫用であるとも主張する。
 しかし、本件団体交渉申入れで組合が求めたのは、「組合に対する不当労働行為の件」と「未払い残業代に関する件」であり、その理由として、「組合に対する度重なる不当労働行為に対しての抗議の為」、「未払い残業代について確認する為」としており、これらの要求事項は、組合と会社との集団的労使関係に関わることや組合員の労働条件に関わることであって、会社が処分可能なことであるから、義務的団体交渉事項に該当する。
 そして、本件団体交渉申入れの時点で、A1は、A1の配転訴訟で会社と争っており、A3は同訴訟の書面作成等でA1に協力していたという事情があったとしても、組合が団体交渉をA1の配転訴訟に利用しようとしている、すなわち、組合の上記要求事項が「A1の恣意的な目的」を具現化していると認めるに足りる具体的な事実の疎明はないから、会社の上記主張は採用することができない。

(4)以上のとおり、会社が、本件団体交渉申入れに応じなかったことに正当な理由は認められないのであるから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。 
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