労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成31年(不)第11号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年10月19日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、2つの労働組合が併存する状況において、会社が、申立外C組合との間でユニオン・ショップ協定とチェック・オフ協定を主な内容とする「基本労働協約」(以下「本件協約」)を締結したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書の交付及び掲示等を命じた。 
命令主文  1 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社の本社内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
 X組合
 執行委員長 A殿
Y会社        
代表取締役 B
 当社内に貴組合とC組合の二つの労働組合が併存する状況において、当社が、令和元年8月16日、C組合との間でユニオン・ショップ協定を含む基本労働協約を締結したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
  (注:年月日は、文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
2 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 組合及び会社の主張
(1)組合は、後から要求したC組合とのみユニオン・ショップ協定及びチェック・オフ協定を含む本件協約を締結し、先行して要求した組合に対しては全ての協約締結を拒否したことなどの会社の対応は、会社内に併存する二つの労働組合に対する中立保持義務に違反するものであり、支配介入に当たるなどと主張する。

(2)これに対し、会社は、そもそも組合はC組合と異なり過半数組合に該当しないからユニオン・ショップ協定の締結資格を有しないなどとし、会社の対応は中立義務に反するものではないなどと主張する。

2 判断
 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者には中立保持義務があることから、使用者は、二つの労働組合から労働協約の締結を求められたときは、それぞれの労働組合について平等に尊重して対応する必要がある。
 本件では、会社がC組合と締結した本件協約の主な内容が、ユニオン・ショップ協定とチェック・オフ協定であるところ、これらの協定にはそれぞれ特有の事情があることから、以下、その点も踏まえて検討する。

(1)ユニオン・ショップ協定

ア 組合は、支部の結成後、平成31年1月14日、会社に対し、支部の結成や支部組合員の人数を通知し、一部の組合員について公然化するとともに、今後過半数組合を目指すことなども通知した上で、ユニオン・ショップ協定を含む労働協約の締結を要求したが、会社は、2月14日の第1回団体交渉では、先月組合から加入通知を受けたばかりで直ちにパートナーシップを結んでという話には容易にはならないのではないか、などと述べ、4月26日の「回答書」では、現時点において要求に応じることはできないと拒否の回答をし、その後の4回の団体交渉においても応じる姿勢を見せることはなかった。
 一方、会社内に新たにC組合が結成され、令和元年7月2日にC組合がユニオン・ショップ協定を含む基本労働協約の締結を要求すると、会社は、2回の団体交渉を経てC組合の要求から約一か月半弱後の8月16日には、本件協約を締結した。
 会社は、C組合に過半数の従業員が加入していることを確認して本件協約の締結に至ったと主張する。しかし、会社は、組合に対しては、加入通知を受けたばかりで直ちにパートナーシップを結ぶことにはならないなどと述べ、団体交渉を重ねてもユニオン・ショップ協定を含む労働協約の締結に応じる姿勢を見せなかった一方で、C組合とは、結成から短期間のうちに2回の団体交渉で本件協約の締結に至っており、このような、組合とC組合に対する会社の対応の違いは不自然であって、組合を疎んじてC組合を優遇する会社の姿勢がうかがわれる。

イ そして、ユニオン・ショップ協定とは、元来、当該使用者に雇用された労働者は必ず協定締結先の労働組合に加入しなければならず、当該労働組合に加入しなかったり、当該労働組合を脱退したり又は除名されたりした労働者について、その労働者を解雇することを使用者に義務付ける労働協約である。本件協約のユニオン・ショップ協定においても、第1条に「会社に雇用された従業員は次に該当する者以外は組合員とする。」と、第2条に「前条各号に定める者を除き、組合に加入しない者並びに組合より除名された者及び組合から脱退した者は、従業員の資格を失う。」と定められている。
 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合に、使用者が特定の労働組合とユニオン・ショップ協定を締結しても、実際には、使用者が、ユニオン・ショップ協定を締結した労働組合とは別の労働組合に加入している従業員を同協定に基づき解雇することはできないという判例が確立しているため、本件協約が締結されることによって、組合の組合員が、会社から本件協約第2条による解雇をされるおそれがあるとはいえない。しかし、従業員は、同協定の文言上は、同協約の締結先の労働組合への加入が義務付けられることになるのであるから、同協定の締結先の労働組合は、組織率の向上を図ることができるものの、それ以外の労働組合は、新規組合員の獲得を妨げられ、組織の維持拡大に深刻な影響を受けることになる。
 また、会社は、組合員以外の、C組合に加入していない非組合員や新規採用の従業員に対しても、本件協約第2条に基づく解雇を実施してはいない。しかし、C組合との間でユニオン・ショップ協定が締結されていれば、それだけで、非組合員や新規採用の従業員は、事実上、同協定によりC組合への加入を促されるように受け取り、組合への加入をためらうことになるといわざるを得ないから、組合の新規組合員の獲得を阻害し、組合組織の維持拡大という組合の組織運営に深刻な影響を及ぼすものであることは明らかである。

ウ 会社は、そもそも組合はC組合とは異なり過半数組合に該当しないから締結資格を有しないし、会社が組合と異なり過半数組合であるC組合と本件協約を締結したとしても中立保持義務に反しないとも主張する。
 しかし、C組合が過半数組合であるか否かに関わらず、会社内に組合とC組合の二つの労働組合が併存する状況下で、C組合とユニオン・ショップ協定を締結すれば、組合の組織運営に深刻な影響が及ぶものであるといえる。そして、組合とC組合に対する会社の対応の違いは不自然であって、組合を疎んじてC組合を優遇する会社の姿勢がうかがわれることも併せ考えれば、会社は、組合とC組合とを等しく尊重する対応をせず、組合を疎んじてC組合を優遇する対応を取った結果、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼすC組合とのユニオン・ショップ協定の締結に至ったものとみることができ、このような会社の対応は、中立保持義務に反するとともに、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす支配介入に当たる。

(2)チェック・オフ協定

ア チェック・オフは、労働基準法第24条第1項ただし書の規定に基づき、当該事業場の過半数で組織する労働組合との労使協定により行うものである。
 組合が、会社にチェック・オフ協定の締結を求めた平成31年1月14日、組合は、今後過半数組合を目指すことを会社に通知しており、まだ過半数組合ではなかった。また、会社がC組合と本件協約を締結する日の2日前の令和元年8月14日、組合は会社に「組合加入通知書4」を送付して組合員を公然化しているが、この時も公然化された組合員は81名であり、組合は過半数組合ではなかった。
 一方、C組合は、会社と本件協約を締結した時期に、組合員の加入状況が従業員の過半数を超えていると公表していた。この点について、組合は、本件協約締結当時、C組合が過半数組合でなかった可能性が高いと主張するが、本件契約締結時に会社がこのことに疑いを抱くような事情があったとまで認めることはできない。
 そうすると、会社が、過半数組合に達していなかった組合とのチェック・オフ協定の締結に応じない一方、過半数組合であると公称していたC組合との間でチェック・オフ協定を締結したことは労働基準法第24条第1項ただし書の規定に沿った対応であるということができる。

イ しかしながら、会社内に組合とC組合との二つの労働組合が併存する中で、会社は、ユニオン・ショップ協定を含む本件協約の締結に当たり、組合に対しては、加入通知を受けたばかりで直ちには応じられないとして、その後団体交渉を重ねてもその姿勢を変えなかったが、一方のC組合とは、短期間に2度の団体交渉で本件協約を締結するなど、二つの組合を等しく尊重せず、組合を疎んじてC組合を優遇する対応を取ることにより、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼすC組合とのユニオン・ショップ協定の締結に至ったものである。そして、チェック・オフ協定も、ユニオン・ショップ協定と併せて交渉が行われ、同時に、本件協約の一部として締結されている。
 したがって、ユニオン・ショップ協定とチェック・オフ協定を含む本件協約の締結は、一体の行為とみるのが相当であり、チェック・オフ協定についてみれば労働基準法第24条第1項ただし書の規定に沿った対応であったとしても、会社が、組合を疎んじてC組合を優遇する対応により、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす本件協約を締結したことは、チェック・オフ協定の締結も含めて組合の組織運営に対する支配介入に当たるというべきである。
 なお、会社は、本件申立て後の9月30日、組合に対し、「貴組合との間でチェック・オフ協定締結に応じる準備がございます。」との申入れを行ったけれども、組合が応じなかったと主張するが、この申入れは、組合が本件を申し立てた後の事実であるから、上記判断を左右しない。

(3) 結論
 以上のとおりであるから、会社内に組合とC組合との二つの労働組合が併存する状況において、会社が、二つの組合を等しく尊重せず、組合を疎んじてC組合を優遇する対応により、令和元年8月16日、C組合との間でユニオン・ショップ協定を含む本件労働協約を締結したことは、組合の組織ないし運営に対する支配介入に当たる。

(4) 救済方法
 組合は、本件協約の破棄を求めているが、本件の救済としては、主文第1項のとおり命ずるのが相当である。 
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