概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成30年(不)第95号 |
申立人 |
X1組合・X2組合 |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和3年11月2日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、法人が、①X2組合の組合員A3に対して平成30年2月26日付訓告書の措置を行ったこと、②同年3月31日にA3を雇止めにしたこと、③組合員A4を定年退職後に継続雇用しなかったこと、④組合員A5、A6、A2、A7及びA8の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、これらが労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)A3に係る平成30年2月26日付訓告書の措置がなかったものとしての取扱い、(ii)A3との雇用契約を30年4月1日以降更新したものとしての取扱い、原職又は原職相当職への復帰及びバックペイ、(iii)A4を31年2月20日付けで再雇用し、令和2年2月20日付け及び3年2月20日付けで再雇用契約を更新したものとしての取扱い、同人の復帰及びバックペイ、(iv)A5、A6、A2、A7及びA8の各担当教科の授業時間の割当てについて、非組合員と差別的な取扱いをすることにより、同人らを不利益に取り扱い、組合の運営に支配介入してはならないこと、(v)文書の交付及び掲示等を命じた。 |
命令主文 |
1 法人は、X2組合の組合員A3に対する平成30年2月26日付「訓告書の措置」をなかったものとして取り扱わなければならない。
2 法人は、A3との雇用契約を30年4月1日以降更新したものとして取り扱い、同人を原職又は原職相当職へ復帰させるとともに、30年4月1日から原職又は原職相当職に復帰させるまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。
3 法人は、X2組合の組合員A4を、31年2月20日付けで再雇用し、令和2年2月20日付け及び3年2月20日付けで雇用契約を更新したものとして取り扱い、同人を復帰させるとともに、平成31年2月20日から同人が復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。
4 法人は、X2組合の組合員A5、同A6、同A2、同A7及び同A8の各担当教科の授業時間の割当てについて、非組合員と差別的な取り扱いをすることにより、同人らを不利益に取り扱い、X2組合の運営に支配介入してはならない。
5 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1組合及びX2組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、C高等学校にある全ての教職員室(HR指導教員室を含む。)の教職員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記 年 月 日
X1組合
中央執行委員長 A1殿
X2組合
執行委員長 A2殿
学校法人Y
理事長 B
当法人が、平成30年2月26日に貴X2組合の組合員A3氏を「訓告書の措置」としたこと、同年3月31日にA3氏を雇止めにしたこと、貴組合の組合員A4氏を継続雇用しなかったこと、貴組合の組合員A5氏、A6氏、A2氏、A7氏、及びA8氏の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれより削減したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
6 法人は、第1項ないし第3項及び前項を履行した時は、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 法人が、A3に対して平成30年2月26日付訓告書の措置を行ったことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び支配介入に当たるか。
(1)平成30年2月26日、C高校校長は、A3に対して、訓告書を交付した。この訓告書には、非違行為とされる具体的事実として六つの事由を挙げているところ、うち、①〔担任するクラスの生徒の〕携帯電話盗難の件、②放課後の件〔放課後に行われていたいじめ事件への対応〕、③〔担任するクラスの生徒の〕衣類盗難の件、④クラス担任としての態度の件及び⑤他のクラス担任との関係の件の五つについては、対象となるA3の行為(対応)があったとは認められない。
(2)期末試験の件〔期末試験監督時における解答用紙に名前の書かれていないものがあったことへの対応〕について、A3は、無記名であることを気付かずに解答用紙を回収しており、試験監督を行う教員として職務上の過誤を犯したといえ、この行為は、29年度契約職員就業規則の第37条第1項第5号〔注意書の措置・訓告書の措置〕の「業務上の義務に違反した場合」や第6号の「義務を怠った場合」に該当する可能性がある。
しかし、「訓告書の措置」を受けた者は昇給や継続雇用の対象から除外されるのであるから、それがやむを得ない重大な違反行為でない限り、「訓告書の措置」とすることは相当とはいえない。当該解答用紙には生徒の出席番号は記載されており、どの生徒のものか特定は可能で、結果的に実害が発生したという疎明もない。また、この見落としは1回限りのものであるから、過誤の態様としては軽微であったといえる。加えて、校長から呼出しを受けた際、A3は謝罪し、反省の姿勢も見せていたのであるから、期末試験の件について「訓告書の措置」とすることは相当とはいえない。
(3)この点に関連して、同様の事由が認められる非組合員の教員を「訓告書の措置」とした事案があったと認めるに足りる疎明はない。また、法人は、六つの措置事由についてA3に事実関係を聴取したり、指導、注意したりすることもなく、A3に与えた弁明の機会も形式的なものにすぎなかった。
このように、「訓告書の措置」を出すまでの法人の対応は不自然であり、「訓告書の措置」を出すために、それまでは問題にしてこなかったA3の過去の言動を持ち出して処分したと疑わざるを得ない。加えて、組合が結成されてから法人が30年2月26日付訓告書の措置を出すまでの20年以上の長期に渡り、A3ら組合員及び組合と法人とが常に対立関係にあり、法人が組合及びA3を含めた組合員に対して不当労働行為を繰り返してきたことを考慮すれば、同訓告書の措置は、法人が、組合を嫌悪し、A3が組合員であることを理由に不利益に取り扱い、同時に組合の弱体化を企図して行なったものであったといわざるを得ない。
よって、法人が、A3に対して30年2月26日付訓告書の措置を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 法人が、30年3月31日にA3を雇止めにしたことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び支配介入に当たるか。
A3は、法人と長年対立関係にある組合の組合員であり、個人としてもC高校における待遇改善等を求めて法人を相手に訴訟を提起していた。そのA3に、雇用契約が更新されれば無期転換申込権が発生することになる契約更新の直前のタイミングで、法人は、「訓告書の措置」を出すべき事由が認められないにもかかわらず、それまでA3に事実確認や指導等をしてこなかった同人の必ずしも重大な過誤はいえない行為を取り上げて同人を「訓告書の措置」に付し、その上で、同人が「訓告書の措置」を受けたこと等を理由に雇止めとした。かかる経緯からすれば、法人は、組合員であるA3を嫌悪し、同人が無期転換申込権を行使して無期雇用の教員となる前にC高校から排除し、同人や組合の影響力を弱体化させるために同人を雇止めにしたとみざるを得ない。
したがって、法人が30年3月31日をもってA3を雇い止めとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
3 法人が、A4を継続雇用しなかったことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び支配介入に当たるか。
法人は、組合員であるA4から継続雇用の申出がなされると、従前は専任教諭から継続雇用の申出があればあれば拒否したことがなかったにもかかわらず、過去の「訓告書の措置」発出の事実等を持ち出して継続雇用を拒否した。拒否する過程では、法人の説明が変遷したり継続雇用拒否の事由を明らかにしなかったりするなど不自然な対応をし、本件手続で法人が主張した継続雇用拒否の事由で「訓告書の措置」又は戒告の懲戒処分の対象となった行為〔注 ①(体育実技の授業における)生徒のけがの件、②試験問題の誤配付の件、③朝の挨拶活動の件、④来訪者対応の件(以上「訓告書の措置」)、⑤再試験問題の誤配付の件(戒告)〕も、継続雇用拒否の事由としては合理的理由が認められないものであった。加えて、A4を含む組合員及び組合と法人が長年対立関係にあり、法人が不当労働行為を繰り返していることも考慮すると、法人がA4の継続雇用の申し入れを拒否したのは、組合員である同人を嫌悪し、同人をC高校から排除し、同人や組合の影響力を排除するためであったといえる。
したがって、法人がA4を継続雇用としなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
4 法人が、A5、A6、A2、A7及びA8の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したことが、それぞれ組合員であるが故の不利益取扱い及び支配介入に当たるか。
法人が、組合員の担当教科の授業時間数を前年度から減らしたことは、組合員を嫌悪し、組合員が生徒と接する機会を減らすために行ったものと認められる。教員にとって、生徒と接し、授業を行い、生徒指導をすることは、重要な教育活動であり、組合員からこの教育活動の場を奪うことは、組合員を不利益に取り扱い、組合の弱体化を図るものであるといえる。
よって、法人が、A5ら5名の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。
5 以上の次第であるから、法人が、①A3に対して平成30年2月26日付訓告書の措置を行ったこと、②30年3月31日にA3を雇い止めにしたこと、③A4を定年退職後に継続雇用しなかったこと、④A5ら5名の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する。 |
掲載文献 |
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