労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第77号
東京銀座法律事務所不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  B事務所 こと Y 
命令年月日  令和3年11月16日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が申し入れた団体交渉申入れに対するB事務所ことYの対応、②Yが、組合員Aに対し、書類(2日後に予定されていた団体交渉の資料)が出来ていないなら団体交渉をキャンセルするなどと述べたこと、③団体交渉におけるYの対応、④YがAに対して夏期賞与の支給に関する文書通知を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②及び④について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、Yに対し、(ⅰ)組合が団体交渉を申し入れたときは、開始時間や開催場所に固執せず、速やかに応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 B事務所ことYは、組合が団体交渉を申し入れたときは、開始時間や開催場所に固執せず、速やかに応じなければならない。
2 Yは、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1 殿
B事務所こと 

 当方が、①貴組合から平成30年4月26日付けで申入れのあった団体交渉に速やかに応じなかったこと、②同年6月27日、貴組合の組合員A2氏に対し、書類が出来ていないなら団体交渉をキャンセルする旨発言したこと、及び③同年7月30日、A2氏に対し、新しい解決方法がないうちは今後も夏期賞与を1か月分しか支給せず、このことについて協議するつもりはない旨文書で通知したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 Yは、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団体交渉申入れへの対応について
(1)労働組合から団体交渉の申入れがあれば、使用者は、正当な理由がない限り、速やかにこれに応ずべきものであるところ、Yは、①4月26日の本件団体交渉申入れに対し、開催候補日として定時された5月8日までに何ら回答せず、②組合から回答を催促された後、5月15日になって、組合に回答したが、既に過ぎた候補日である同日は都合がつかないと回答するのみで、回答が遅れた理由を全く説明せず、③さらに、団体交渉に応ずるとの回答はしたものの、開催可能な期日を、特に理由を示すことなく、そこからさらに1か月以上先の6月29日又は7月6日とした。
 このようなYの対応は、団体交渉の開催を先延ばしにした行為であるといわざるを得ない。

(2)Yは、朝に喫茶店で行うという団体交渉ルールがあったにもかかわらず、本件団体交渉申入れで、組合は、突然、午後6時30分開始で、Yの事務所で行うことを申し入れており、その強硬姿勢に納得できず、回答を留保したと主張する。しかし、開催時間帯と場所について、組合とYとの間で双方の希望が会わない状況の中で、何回かYの希望する朝の時間帯に喫茶店で団体交渉が行われたことのみをもって、Yが主張するような団体交渉ルールがあったとは、およそ認めることができない。
 また、組合の申入れについては、29年7月28日付団体交渉申入れに関し、Yが夜の時間帯での開催と事務所の会議室での開催に応じず、組合が譲歩するなどのやり取りなどを踏まえたものであるから、突然のことではないし、強硬姿勢であると評価することもできない。

(3)したがって、本件団体交渉申入れに対してYが回答を留保したことに正当な理由があるとはいえず、Yの主張を採用することはできない。
 加えて、組合とYとの間において、本件団体交渉以前で最後に開催された団体交渉は、団体交渉の開催時間帯と場所をめぐって両者の間でやり取りがあり、29年7月28日の団体交渉申入れから2か月以上経過した10月17日に開催された経緯がある。
 これらのことを考慮すると、本件団体交渉申入れに対して何ら回答せず、組合から回答を催促された後に、特に理由を示すことなくさらに1か月以上先を開催可能期日とし、団体交渉の開催を先延ばししたYの一連の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

2 Yの30年6月27日の言動について
 組合とYとの間で団体交渉開催日がなかなか決定しない経緯がある中で、30年6月29日の団体交渉の開催がようやく確定した状況下において、その2日前の6月27日に、YがA2に対し、提出期限が未到来の書類であったにもかかわらず、出来ていないなら団体交渉をキャンセルする旨の発言をしたことは、その発言の時期、内容及び態様からして、組合に対し、ようやく決まった団体交渉の機会を失うおそれを抱かせるものであり、かねてから団体交渉開催を希望する組合を威嚇、けん制し、動揺、弱体化させるものであるといえる。
 さらに、このような発言を、組合を通さずにA2に対して直接発言したことは、残業代の支払等を要求する同人の組合活動に動揺を与え、組合活動を萎縮させるものであるといえる。
 したがって、Yの上記発言は、組合の運営に対する支配介入に当たる。

3 本件団体交渉について
 本件審査において、Yが不誠実な交渉態度であったことを認めるに足りる組合からの具体的な疎明がないといわざるを得ない。したがって、本件団体交渉におけるYの対応が不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。

4 本件通知について
 A2の夏季賞与についての規定や26年9月29日付協定書をみるに、A2の賞与は、Yの事業実績及びA2の勤務成績によってその支給水準が確定するものであり、その支給時期にならないと支給水準が確定しないものとされている。
 したがって、組合が、各年に夏季賞与の支給水準について要求していたことには相応の理由があり、それにもかかわらず、Yが、今後の夏季賞与について1か月分しか支給しない方針を一方的に表明し、新しい解決方法がないうちは協議するつもりがないとあらかじめ意志表示することは、組合が夏季賞与について団体交渉を行うことを抑制し、否定するものであるといえる。また、時間の無駄となるので年中行事のような同じ繰り返しをしないよう求めたことは、団体交渉の中でA2の賞与について協議するという組合活動を非難するものであるといえる。
 さらに、この文書を組合ではなくA2に直接通知したことは、同人の組合活動に動揺を与え、組合活動を委縮させるものであるといえる。
 したがって、Yが、A2に対し、本件通知を行ったことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。

5 法律上の根拠
 以上の次第であるから、本件団体交渉申入れに対するYの一連の対応は、労働組合法第7条第2号に該当し、YがA2に対し、平成30年6月27日に書類が出来ていないなら団体交渉をキャンセルするなどと述べたこと及び7月30日に本件通知を行ったことは、同法同条第3号に該当するが、その余の事実は、同法同条に該当しない。 
掲載文献   

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