労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第69号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年12月21日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が組合員を含む新入職員に対し、組合加入の事実関係等について確認したこと、②組合がボートレーサー養成所に送付した職員宛ての郵便物に対する法人の対応、③平成29年11月 30日など6回の団体交渉における法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第3号、③について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合がベースアップ、定期昇給、賞与、手当等に関する団体交渉を申し入れたときは、財務資料を提示するなどして回答の根拠を具体的に説明し、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)組合が、業績に応じて支給される一時金に関する団体交渉を申し入れたときは、義務的団体交渉事項に当たらないとして拒否してはならず、誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)組合の組合員に対して組合加入の経緯等を確認したり、職員に対して同組合への加入意思の有無を確認したりするなどして組合の組織・運営に支配介入をしてはならないこと、(ⅳ)組合が養成所の職員に宛てて郵便物を送付したときは、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないとの対応を執ってはならないこと、(ⅴ)文書交付等を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合が、ベースアップ、定期昇給、賞与、手当等に関する団体交渉を申し入れたときは、財務資料を提示するなどして回答の根拠を具体的に説明し、誠実に応じなければならない。
2 法人は、組合が、業績に応じて支給される一時金に関する団体交渉を申し入れたときは、義務的団体交渉事項に当たらないとして拒否してはならず、誠実に応じなければならない。
3 法人は、組合の組合員に対して組合加入の経緯等を確認したり、職員に対して同組合への加入意思の有無を確認したりするなどして組合の組織・運営に支配介入をしてはならない。
4 法人は、組合がボートレーサー養成所の職員に宛てて郵便物を送付したときは、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないとの対応を執ってはならない。
5 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
  X組合
  執行委員長 A殿
Y法人       
代表理事 B
 当法人が、貴組合の組合員2名を含む平成29年度の新入職員7名に対し、貴組合への加入の経緯又は加入意思の有無等を確認したこと、貴組合が送付した郵便物について内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないとの対応を執ったこと及び平成29年11月30日から令和元年5月14日までの6回の団体交渉に誠実に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
6 法人は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 会計報告及び職業的会計監査人の証明書の提出がない限り本件は却下されるべきであるとの主張について

 労組法第5条第2項の要件は、労働組合の規約に同条各号の規定を含むことであって、組合規約の運用については組合員の責任に委ねられている。そして、当委員会の資格審査の結果、組合らは、労組法第5条第2項の要件を具備していることが認められる。
 したがって、本件申立ては申立人適格を欠き、却下されるべきであるという法人の主張は採用することができない。

2 法人が平成30年2月21日に組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことは、組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か

 法人は、組合からチェック・オフの申請がなされた以上、便宜供与をするかどうか、また、チェック・オフという便宜供与をする場合の要件の確認、その事情、本人の委任の意思を確認することは何ら不当労働行為に該当しないなどと主張する。しかしながら、組合と法人の間には、チェック・オフに係る協約があり、組合は契約に基づいてチェック・オフを申請しているのであるから、便宜供与の要件について法人が組合員に対して改めて確認する必要はない。確認する必要があるとすれば、組合への委任の意思であるが、法人は、組合加入の経緯やほかの職員の組合加入状況を質問するだけで、同人らに対してチェック・オフについて組合への委任の意思を確認したとは認められないことから、本件ヒアリングには、別の意図があったとみざるを得ない。
 本件ヒアリングの内容から、法人が、職員の組合加入の動向等について取り分け注視していたことは明らかである。そして、法人が職員7名を教官室に一斉に呼び出し、養成所の職員ではなく本部の人事課長が組合の勧誘方法、組合加入の経緯又は加入の意志、ほかの職員の組合加入状況などを詳細に質問すれば、新入職員は、法人が、職員の組合加入の動向等を取り分け注視していることを知るとともに、法人の対応に動揺することは容易に想像できるところである。
 そうだとすれば、本件ヒアリングは、組合加入者を動揺させ、組合未加入者に対しては、組合加入をちゅうちょさせるものであったといわざるを得ないことから、組合の組織運営に対して干渉する行為といえ、組合の組織・運営に対する支配介入に当たる。

3 組合が31年3月29日及び令和元年6月5日に養成所に送付した養成所職員宛の郵便物に対する法人の対応は、組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か

 法人における業務外の郵便物の取扱いについてみると、職場に届いた職員宛ての郵便物は、各々の事業所の責任者の判断でその取扱いを決めるという運用を行っている。
 31年3月29日及び令和元年6月5日に養成所に送付した養成所職員宛の郵便物について、法人は、A委員長に電話を掛け、内容物が組合活動に関するものかを確認したり、職員宛ての郵便物は職場内での組合活動として認められないと述べたりするなどして、その取次ぎを拒否した。
 法人は、A委員長からの郵便物について、その内容物が組合活動にするものか否かを確認するなどの対応を執っているが、組合又は組合役員以外からの郵便物について、法人がその差出人に対して内容物を確認するような対応を執っていたという事実があったとはうかがうことができないし、法人もそのような事実があるとは主張していない。
 以上の事実に加え、法人が組合の活動やその組織拡大に格段の注意を払っていたことも踏まえると、法人は、業務外の郵便物の中でも組合からの郵便物のみを殊更に警戒し、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないという特別な対応を執っていたものとみるべきである。
 この点、法人は、郵便物が組合関係の書類であれば組合活動に当たるので、その配布を認めないとしたことは、就業規則及び組合活動の原則からして適法であるなどと主張しているが、組合による印刷物の郵送が、就業規則第19条第10号の「職場内において・・・印刷物を配布し〔・・・ないこと。〕」に当たるかどうかは、その文言から必ずしも明らかとはいえず、法人の主張は採用することができない。
 法人は、組合からの郵便物について、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないという、ほかの業務外の郵便物とは異なる特別な対応を執っており、これは、組合活動の制約を企図したものとみざるを得ないから、組合が31年3月及び令和元年6月に送付した郵便物に対する法人の対応は、組合の組織ないし運営に対する支配介入に当たる。

4 平成29年11月30日、30年3月7日、6月6日、11月13日、31年2月13日及び令和元年5月14日に行われた団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か

ア 根拠説明、資料開示
 団体交渉において、使用者は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律上の開示義務のあるものだけを提示すればよいわけではなく、労組法の趣旨に照らして交渉に必要な資料を提示するなどして自らの回答や提案の根拠を具体的に説明して、労働組合の納得を得るよう努力する必要があるというべきである。
 本件において、売上や交付金が増えている中でゼロ回答や満額回答でないことに組合が疑問を抱くのはもっともである。加えて、組合は、〔宿舎の建設や設備改修の問題で内部留保が必要であるとの〕法人の説明を踏まえた具体的な要求を行っていたのである。これに対し、法人は、抽象的な回答をするにとどまり、組合の求める具体的な数字や資料の開示には応じず、法人が挙げる資料開示できない理由も、開示義務がない、法人の中の決めであるといったものにすぎない。
 こうしたことからすると、法人には、組合の理解、納得を得ようとする姿勢に著しく欠けており、団体交渉における法人の対応は不誠実であったといわざるを得ない。

イ 形式的な団体交渉
 法人は、組合が団体交渉事項として要求していたのに対し、支給するかしないかを含め検討中であるとして具体的な検討内容を示さず、その後諸規程の改正を組合に通知し、組合との団体交渉を経ることなく、改正を決定した。さらに、法人は、理事会における規程改正決定後の、3月7日の団体交渉において、協議を求める組合に対し、通勤手当支給規程等を変えたばかりなのですぐには応じられないと思うなどと述べ、その後の6月6日の団体交渉においても、手当の是正及び増額について、現時点では考えていないと回答し、実質的な協議に応じていない。
 このような法人の対応は、組合が団体交渉を求めた組合員の労働条件に関わる事項について、組合との協議を経て労働条件を決定するという姿勢に欠けており、団体交渉で具体的な交渉を行わずに一方的に決定するものであるから。組合との団体交渉を軽視する不誠実な交渉態度であるといわざるを得ない。

ウ 団体交渉の出席者
 組合は、法人が実質的な決定権限のないものを団体交渉に出席させ、持ち帰って検討をすることを繰り返しており、このことは、交渉権限のない者を団体交渉に出席させるに等しく、誠実な対応であると主張する。
 しかし、法人側の団体交渉の出席者をみると、理事、執行役員、人事部長、人事次長等の相応の役職にある者が出席しており、団体交渉において、法人側の出席者の交渉権限が原因で交渉が滞ったといった事情は特に認められない。したがって、組合の主張については、採用することができない。

エ 特例一時金について
 法人は、特例一時金は、労働協約や就業規則等に規定がなく、規定にある賞与等とは別に「特例」として支給するものであり、それを支給するかしないかは法人の裁量であるから、労働条件には該当しない恩恵的給付であり、義務的団体交渉事項に該当しないなどと主張する。
 しかし、特例一時金は、少なくとも平成26年から令和元年まで毎年継続して相当額が職員全員に対して一律に支給されており、また、特例一時金の支給に際して、法人は賃金と同様に社会保険料と所得税を控除していることも併せ考えれば、職員の労働条件その他の待遇に当たることは明らかであり、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。
 特例一時金に関する団体交渉でのやり取りをみると、平成29年11月30日、30年6月6日の団体交渉では、法人は特例一時金の金額の交渉には一切応じず、結果だけを回答していたのであるから、このことを議題とする団体交渉における法人の対応は不誠実であったといえる。

オ 救済利益
 法人はベースアップ等については組合との合意が成立しており、その後に不当労働行為を議論することは失当であり、救済の必要性もないと主張する。しかし、組合が妥結したのは、法人が組合との妥結なしに俸給表とレスキュー手当の増額改定を行い、組合員には増額改定が適用されないという状況における令和元年5月14日の団体交渉において、組合が、具体的な説明や資料の開示がないことには納得できないが、平成31年度(令和元年度)が始まっており、これ以上引き伸ばしても問題が拡大するだけであるとして、妥結を余儀なくされたからである。したがって、結果的に妥結に至ったとしても、救済利益が失われたということはできない。

カ 結論
 法人の団体交渉の出席者に実質的な交渉権限がなかったとはいえないものの、団体交渉における法人の対応は、不誠実であったといわざるを得ず、平成29年11月30日など6回の団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。 
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