労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第44号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年9月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   会社は、高圧受変電設備を常時監視する装置の販売等や同設備の保安管理業務などを業とし、会社と業務提携契約を締結した電気管理技術者(個人事業者。以下「協力会技術者」)は、顧客を会社から紹介されて業務委託契約を締結し、顧客が有する高圧受変電設備の保安管理業務を行っている。
 平成30年1月頃、協力会技術者のうち業務提携契約の内容に不満を持つ者が組合に加入して分会を結成し、会社に対し、同契約について競業避止義務の撤廃、業務提携契約及びC協力会(会社が運営し、協力会技術者が加入を義務付けられている任意団体。以下「協力会」)の会員規則を変更する場合は組合と十分に協議し合意の上で行うこと等を議題とする団体交渉を申し入れ、3月16日以降4回の話し合いが行われた。
 本件は、組合の1月31日付団体交渉申入れ及び6月8日付要求書に対する会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、会員規則に係る団体交渉申入れに対する対応について、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が協力会の会員規則を議題とする団体交渉を申し入れたときはこれに誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書の交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が、C協力会の会員規則を議題とする団体交渉を申し入れたときは、これに誠実に応じなければならない。
2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
委員長 A殿
Y会社        
代表取締役 B
 貴組合の平成30年1月31日付団体交渉申入れ及び同年6月8日付「業務提携契約締結に向けた要求書」のうち、C協力会の会員規則の議題に対する当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は交付した日を記載すること。) 
3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 協力会技術者が労組法上の労働者に当たるか否かについて(争点1)

(1)会社は、協力会技術者について、会社と業務提携契約を締結する個人事業主であり、会社から具体的な業務の依頼を受けて会社に対して仕事を行なっているわけではなく、会社が紹介する顧客との業務委託契約に基づいて当該顧客に対して仕事を行い、当該顧客から報酬を受け取っているのであるから、労組法上の労働者に該当しないと主張する。
 しかし、労働法第1条の条文の趣旨からすれば、労組法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かについては、契約の名称等の形式にのみとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
 そして、本件においては、協力会技術者と会社が締結する業務提携契約に、協力会技術者は、会社への支援事項として、会社から紹介された顧客との業務委託契約の締結や、顧客との業務委託契約等に基づいた保安管理業務の誠実な履行について定められていること、会社は、ESシステム〔高圧受変電設備を常時監視する装置〕と保安管理業務とを一体の電気保安サービスとして販売提供しており、会社のESシステムを導入する顧客に対し、保安管理業務のサービスの提供も提案し、業務委託契約の相手方として協力会技術者を紹介していることなどの、会社が顧客に対してESシステムと保安管理業務と一体の電気保安サービスとして販売提供することにより、ESシステムの利便性を高め、自らの収益を拡大するために協力会技術者の保安管理業務を利用している側面があることをうかがわせる事情が存することが認められる。

(2)協力会技術者が労組法上の労働者に当たるか否かについては、上記の点も踏まえつつ、労組法の趣旨及び性格に照らし、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。

ア 事業組織への組入れ
 会社は、主な事業の一つとして、ESシステムと保安管理業務とを一体の電気保安サービスとして販売提供しており、このような事業に関して締結される業務提携契約及び業務委託契約は全体としてみると上記の会社の事業に必要な労働力を確保する目的を持つものといえるところ、ESシステムと併せて保安管理業務を委託している顧客のうち95%以上が協力会技術者と業務委託契約を締結するなど、保安管理業務の大半は、協力会技術者が担っている。会社は、協力会技術者を、会社名を冠した協力会に所属させて管理し、研修を実施して保安管理業務に係る能力の維持向上を図っており、協力会技術者は、業務管理契約を会社の顧客とのみ専属的に締結しており、また、会社は、協力会技術者を自己の組織の一部として扱っていることなどから、協力会技術者は、実質的には、会社の保安管理業務を遂行するために不可欠な労働力として、会社の事業組織に組み入れられて業務を行っているということができる。

イ 契約内容の一方的・定型的決定
 協力会技術者は、会社と業務提携契約を締結し、顧客との間では委託契約を締結しているところ、会社は、いずれの契約についても、契約の内容を一方的・定型的に決定しているといえる。

ウ 報酬の労務対価性
 協力会技術者は、業務提携契約に基づく支援報酬及び業務委託契約に基づく保安管理業務に係る月次点検手数料等を会社から受け取っているところ、協力会技術者の得る報酬は、会社事業としての保安管理業務に対する労務の提供の対価としての性格を有するものということができる。

エ 業務の依頼に応ずべき関係
 協力会技術者は、会社からの顧客の紹介に対して業務委託契約を拒否する自由があり、依頼に応ずべき関係にあったとはいえないが、緊急応動の要請に対しては、これに応ずべき関係にあったといえる。

オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
 協力会技術者は、法令や点検マニュアルに基づいて保安管理業務を行うが、会社から具体的な業務の指示や指導等を受けることはなく、自己の裁量によって業務を行っており、また、保安管理業務の実施日時やデータ保管業務を行う日時についても、自ら決定しており、会社が業務の日時や場所等の決定に関与している事実は認められないから、協力会技術者が具体的業務遂行の方法や日時等について受ける拘束の程度は、会社から広い意味での指揮監督下に置かれているとか、一定の時間的場所的拘束を受けていると認めるに足りるものとはいえない。

カ 顕著な事業者性
 協力会技術者には、独自に営業活動を行って自己の才覚で利得する機会は極めて限られており、保安管理業務に必要な機械機材は、協力会技術者が費用負担して購入するが、業務委託契約に伴う各種事務手続の代行費用は、個別有料業務に係るもの以外は負担しておらず、業務における損失の全てを協力会技術者が負担しているとはいえないことからすれば、事業者性が顕著であるとまではいえない。

(2)結論
 以上のとおり、協力会技術者は、①会社からの顧客の紹介に対しては依頼に応ずべき関係にあったとはいえず、また、②業務遂行の方法や日時等について受ける拘束の程度は、広い意味での指揮監督下に置かれているとか、一定の時間的場所的拘束を受けていると認めるに足りるものとはいえない。
 しかし、協力会技術者は、③会社の事業遂行に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み入れられており、④会社が業務提携契約の内容及び委託契約の内容を一方的・定型的に決定しているということができ、⑤協力会技術者が得る支援報酬及び月次点検手数料は、会社への労務の提供に対する対価としての性格を有するものということができ、⑥緊急応動については、業務の依頼に応ずべき関係にあったといえる一方、⑦顕著な事業者性は認められない。
 以上の事情を総合的に勘案すれば、本件協力会技術者は、会社との関係において、労働法上の労働者に当たると解するのが相当である。

2 1月31日付団体交渉申入れ及び6月8日付要求書に対する会社の対応について(争点2及び争点3)

(1)本件の審査対象について
 組合が1月31日付団体交渉申入れ及び6月8日付要求書で会社に要求している事項は一連のものであり、第1回話合いから第4回話合いまで上記事項について継続して協議が行われているので、争点2と争点3を一括して判断する。

(2)協力会技術者が、労組法上の労働者に当たることは、前記1の判断のとおりであり、会社が組合からの団体交渉申入れに対し、協力会技術者が労組法上の労働者に当たらないとする対応を執ることに正当な根拠はない。もっとも、会社は、「話合い」と称して協議を重ねているので、これらの具体的な状況も踏まえて、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか否かを以下検討する。

ア 競業避止義務について
 会社は、組合が競業避止義務の撤廃を求めたことに対し、これを拒否する回答している。しかし、その際、会社は、応じられない理由を具体的に説明しているのに対し、組合は、それ以上の追求をすることなく、6月8日付要求書を提出し、同じ要求を繰り返すのみであったものといえる。

イ ES契約終了後の業務委託契約の扱いについて
 組合が、ES契約終了後に協力会技術者と顧客との業務委託契約の解除を求めないことを要求したことに対し、会社はこれを拒否する回答をしている。しかし、その際、会社は、組合の要求に応じられない理由を説明しているのに対し、組合は、それ以上の追求をすることなく6月8日付要求書には上記要求を明示していない。

ウ 報酬について
 組合は、緊急応動や年次点検に対する正当な報酬を支払うことを求めているが、交渉の経過をみると、会社は、必ずしも十分であるとはいえないまでも、自らの見解について一応の説明をし、これに対し組合は、この説明に対し質問や更なる追求をしたり、自らの要求の根拠を具体的に示したりしていない。

エ 保安管理業務の報酬の請求について
 結局組合は、自らの具体的な要求内容やそれを求める理由を明らかにすることなく、その後も6月8日付要求書で要求を繰り返すのみであったのであるから、保安管理業務の報酬の請求を議題とする協議が進展しなかったとしても、その一因は組合の交渉を態度にあるといわざるを得ない。

 これらからすると、上記のアからエまでに係る会社の対応は、会社が、協力会技術者は労組法上の労働者に当たらないとの立場をとっていたことを考慮しても、不誠実な対応に当たるとまではいえない。

オ 会則について
 組合は、契約及び会則の変更を行う場合は、組合と十分に協議し合意の上行うことを求めるなどし、これに対し会社は、協力会は会社が作った団体なので、協力会技術者の意見は聞いて、反映できるものは反映させるが、労働契約とは違うので変更について組合と話合いをする必要はないと考えると述べるなどした。
 会社と組合のやり取りをみれば、組合は、具体的に自らの要求内容と現状の問題点を会社に示しているのに対し、会社は、技術セミナーで1時間あるいは2時間、時間を割いていくことは考えていくと回答する程度であった。業務提携契約締結後に一方的に内容を変更されるかもしれないという組合の不安やそのことが不合理であるとの組合の指摘などに対し、会社は、協力会の趣旨がそうなっている、同意を求める作りになっていない、と現状を述べるだけの発言をしたり、嫌なら契約をしなければよいと突き放すような発言をしたりしており、このような会社の対応は、組合の理解を得るべく協議を尽くしたとは、到底評価し得ない。
 会社は、会則は労働契約ではないので組合と話し合う必要はないものとも述べているが、会則は、会員である協力会技術者の服務規律、報酬、表彰・懲戒、研修等について定めているのであるから、組合員の労働条件に関わるものであり、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。そして、会則を議題とする協議は十分に尽くされたとはいえないのであるから、会社の対応は不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。

(3)以上のとおり、会社の対応は、競業制限、ES契約終了後の業務委託契約、報酬及び保安管理業務の報酬の請求を議題とする協議は、不誠実な団体交渉に当たるとはいえないが、会則については、会社は十分に説明を尽くしたとはいえないのであるから、こうした会社の対応は不誠実な団体交渉であるといわざるを得ない。
 なお、組合は、会社が組合員たる協力会技術者が労組法上の労働者でないことを理由として団体交渉を拒否し、労働組合活動を否認し、組合としての集団的意思表示を無視しているから、本件団体交渉の拒否は、組合の運営に対する支配介入にも該当すると主張するが、会社は、「話合い」と称しながらも実質的に協議には応じており、他の議題においては相応の対応をしているといえるから、組合を無視しているとまでは必ずしもいい難く、会則に係る協議を十分に尽くしていなかったとしても、このことが組合の運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。
 以上の次第であるから、会則を議題とする話合いにおける会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当するが、その余の事実は、同条に該当しない。 
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