労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第18号
松戸市不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2分会 
被申立人  Y市(市) 
命令年月日  令和3年10月5日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、市が事業を行っている病院が、組合及びその分会(組合ら)に対し、平成31年4月1日から再任用短時間勤務職員の週当たりの勤務時間数を見直す案(「本件提案」)を提案するに当たって、病院内で本件提案を正式決定するまでは組合員以外の職員に対してその内容について秘密を保持することについての同意書(以下「本件同意書」)の提出を求めたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨   30年11月21日、病院は、組合らに対し、同月26日付けで本件提案を行うに当たり、本件提案が正式決定されるまでその内容を他言しないことに同意する本件合意書の提出を求めた。組合らは、このことが組合運営に対する支配介入に当たると主張するので、以下、組合らの主張に沿って検討する。

(1) 組合らは、病院が本件同意書の提出を求めたことに合理的な理由がないと主張し、その根拠として、①本件同意書の提出を求めた際、団体交渉議題を明らかにせず、事務折衝で組合等の質問に答えないなど病院の対応に問題があったこと、②これまで病院の提案が口外禁止となったことはなく、それで職場が混乱したこともないことを挙げているので、これらについて検討する。

ア 本件同意書の提出を求めた際の病院の対応
 病院は、組合らに対し、団体交渉において本件提案の内容がこれまで組合らとやり取りしてきた再任用制度についてのものであることを明かし、再三にわたって組合らの理解を得るべく説明に努めている。そして、仮に、本件同意書の提出が得られなくても、情報管理の解除後には本件提案と同趣旨の提案を行うと述べており、実際にそのとおりにしていることも考えれば、病院の対応に問題があったということはできない。
 
イ 本件提案についての情報管理の必要性
 本件提案は、11月初旬、病院が、市の市長部局と調整して31年度から施行する案として策定したものであり、松戸市病院事業平成31年4月1日付人事異動基本方針(以下「基本方針」)の一部でもある。基本方針は、31年度の配置換えや昇任昇格など病院の人事に係る重要な方針であり、病院内部の正式決定後、上位職層に限って示した上、病院職員には各所属長を通じてその内容を知らせるなど、周知方法にも配慮がなされていたものであるから、病院が、本件提案について、基本方針が31年1月4日に正式に決定されるまで、情報管理に慎重な対応を期したことは十分理解できるところである。
 そうすると病院が、本件提案の内容を正式決定するよりも前に3つの労働組合に対して情報提供しようとする際、病院内部における情報管理が必要であるとして、3つの労働組合に等しく本件同意書の提出を求めたことが不合理であるとはいえないし、病院がこれまで本件同意書のような形で情報管理を依頼したことがなかったとしても、今回の本件同意書による情報管理が不要であったということはできない。

(2) 組合らは、病院が、組合らの30年11月30日、12月13日及び17日の団体交渉を申入れに対し、本件同意書の提出を求め、それを団体交渉開催の前提としたことは、組合らとの再任用短時間勤務職員の勤務時間に係る交渉事項(以下「本件交渉事項」)についての団体交渉の経過を無視したものであると主張する。
 しかし、本件交渉事項についての団体交渉の経過をみると、病院は、29年2月7日、3月15日及び29日の3回の団体交渉において、再短3日職員の勤務時間を月12日勤務から4週12日勤務に変更した考え方とその根拠を説明し、組合らとのやり取りも相当程度行った上で、この変更を撤回する意思のないことを示していたのであるから、病院が本件交渉事項について事情の変更が生じない限りこれ以上の交渉の余地はないと回答したことは、病院の対応として無理からぬことである。
 組合らは、30年11月30日、12月13日及び17日に、本件提案及び当該交渉事項についての団体交渉を申し入れ、これに対し病院は、改めて本件同意書の提出に理解を求めるとともに、次回の団体交渉を、12月26日に行うことを打診するなどしたが、結局、組合等は、12月25日までに本件同意書を提出せず、病院は26日の団体交渉を延期したため、これらの議題に係る団体交渉は、31年1月7日に病院が組合等に本件提案を行った後の2月4日に開催された。
 こうした事実経過の下で、組合らは、病院が組合等との間で本件提案に係る団体交渉を行えば、これまで再任用制度の不備を放置してきた病院の責任が明らかになることから、病院は、組合らに本件同意書の提出を求め、それを団体交渉の前提とすることにより、組合らを本件提案に係る団体交渉から排除したと主張する。しかし、上記事実経過については、病院が正式決定前に本件提案を行った上で組合らと団体交渉を行おうとして、本件同意書を提出するように調整していたとみるのが相当である。
 また、本件交渉事項については、29年3月29日の団体交渉が決裂したことを踏まえて、5月17日、病院が組合に対し、事情の変更が生じない限りこれ以上の交渉の余地はないと回答しているが、本件提案は再任用制度に関わるものであるから、病院が、本件提案をこの交渉事項に対して「事情の変更」をもたらすものと捉え、交渉を再開するためには先に本件提案を団体交渉の議題とすることが必要であるとの認識を持ったことがうかがえる。この認識の下、病院が、組合らに対し、本件同意書の提出及び本件提案を議題とした団体交渉の開催に向けての調整を行うとともに、本件提案を行った後の団体交渉の中で、本件交渉事項についての組合らの質問等に応じようとしたことには相応の理由があったということができる。
 その後、病院は、組合らから本件同意書の提出を受けられず正式決定前に本件提案及びそれを議題とする団体交渉を行うことはできなかったが、それに至るまでの対応は、組合らと病院との間で締結されている団体交渉ルールに係る覚書を踏まえた対応であると認められるし、結局のところ、病院は、正式決定後には本件提案を行った上で、31年2月4日に団体交渉に応じたのであるから、病院が組合らを本件提案に係る団体交渉から排除したということはできない。
 また、組合らは、病院に対し、本件同意書なしで本件提案を行うことを求めているが、本件提案について本件同意書による情報管理が不要であったとはいえず、また、病院が正式決定前の提案に当たって、本件同意書という形で一定の条件を付けることが、組合らに対して応じることが困難な条件を強いるものであったともいい難い。一方で、組合らに本件同意書を提出することについて何らかの支障があったとも認められない。そして、病院は、3つの労働組合に等しく本件同意書の提出を求めていたのであるから、病院と組合らとの間に当該交渉事項についての団体交渉の経過があったことを考慮しても、病院が組合らに対し、本件同意書なしで本件提案を行うべきであったとまでいうこともできない。

(3) 組合らは、病院が本件提案及びそれについての団体交渉を行うとき、既にそれが正式決定されているとしたら、そのこと自体が組合らを無視することであるから、病院が本件合意書の提出を求め、それを本件提案に係る団体交渉の前提としたことは支配介入に当たるとも主張する。
 しかし、31年1月7日に組合等に交付された本件提案は、提案から施行日の4月1日まで約3か月の期間があり、その間に団体交渉を行うことは可能であった。そうすると、病院が本件同意書で正式決定するまで他言しないよう求めたときの正式決定とは、労働組合及び病院職員に提示する前段階としての病院内部の意思決定にとどまるものであって、病院は、その後、団体交渉等の調整過程を経て、施策として確定し職場に通知(施行)することを予定していたとみるのが相当である。
 これらから、組合の主張は、採用することができない。

(4) 組合らは、病院が唯一、正式決定前に本件提案を行ったC組合との間で合意することなく本件提案を正式決定することはあり得ないのであるから、病院はC組合の先行妥結をもって本件提案を正式決定したのであり、本件同意書を組合等との団体交渉開催の前提にしたのは、組合らを団体交渉から排除して、C組合との合意による本件提案の決定を正当化するためであると主張する。
 しかし、病院が、本件提案について、C組合との間で1月4日の正式決定前に合意したことを示す事実は認められない。
 そして、病院は、3つの労働組合に等しく本件同意書の提出を求め、組合らに対しても理解を得るべく説明し、組合らが本件同意書を提出すれば、正式決定前に本件提案に係る団体交渉を行う姿勢を示していたのであるから、病院が、組合らに対し、C組合と異なる取扱いをしていたということはできない。

(5) 以上のとおり、病院が、組合らに対し、本件合意書の提出を求めたことには、相応の理由があったということができる。加えて、病院は、再任用短時間勤務職員の勤務時間についての交渉経過を踏まえて、本件提案を病院内部で正式決定するより前に組合らとの団体交渉の機会を持とうとしていたとみるのが相当であり、そのような対応が、組合らを無視したり、組合らを団体交渉から排除したなどと評価することはできない。
 したがって、病院が、組合らに対し、本件提案に当たって本件同意書の提出を求めたことは、組合運営に対する支配介入に当たるということはできず、労働組合法第7条には該当しない。 
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