労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知労委令和2年(不)第8号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年3月15日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、組合及び組合の分会からの①令和2年6月24日付けの団体交渉申入れ及び②同年7月2日付けの団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、誠実団体交渉応諾(ただし、①に係る議題は②に係るものに包含されるとして、②についてのみ)及び文書交付を命じた。
 
命令主文  1 会社は、組合が令和2年7月2日付で申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記内容の文書を本命令書の交付の日から7日以内に交付しなければならない。
 当社が、貴組合からの令和2年6月24日付及び同年7月2日付の団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると愛知県労働委員会によって認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします
 年 月 日
 X組合
  執行委員長 A1様
Y会社          
代表取締役 B1 
判断の要旨  1 本件において、組合からの令和2年6月24日付け及び同年7月2日付けの団交の申入れについて、会社が、これを拒否したことに争いはないところ、会社は、①これら申入れに先立つ第1回団交〔同年5月29日〕から第3回団交〔同年6月23日〕までの3回にわたる団交において、組合が申し入れた事項や議題に対し、説明・交渉を尽くしてきたが、組合・会社双方において、進展・妥結の見込みはなかった、②組合が団交の席上、会社の出席者に対し、「黙っていろ」などと発言したり、机を叩くなどの粗暴な言動を行い、会社の出席者からの説明を暴力的な発言で高圧的・一方的に遮り、説明をさせようとしない態度を繰り返し、そうした交渉態度を改めようとしなかったことから、到底、正常な団交を実施することができない、として当該団交申入れを拒否したことに正当な理由があったと主張するので、検討する。

2 組合が令和2年6月24日付け及び同年7月2日付けで申し入れた事項や議題について、第1回団交から第3回団交までの3回にわたる団交において、会社からの説明・交渉が尽くされ、組合・会社双方において、進展・妥結の見込みがなかったといえるかについて

(1)「決算書等の開示・説明」について
 組合からの決算書等の資料開示・説明の要求に対する会社の拒否の姿勢や態度は一貫し強固なものであって団交を継続しても進展・妥結の見込みはなかったとはいえるものの、拒否する理由について説明・交渉が尽くされたとはいえない。

(2)「夏季一時金を基本給の1.2か月分以上支給すること及び総原資・平均金額を示すこと」について
 会社は、夏季一時金の回答の説明に当たり、納入数量や売上額等を一方的に述べて「ご理解ください」と繰り返すだけで、原価や販売管理費の総額や内訳、または経常利益その他利益のうち一つも口頭で説明することすらなかったことが認められる。
 決算書等の開示については、再審査申立て〔令和2年3月4日付け〕に係る中労委の判断を待ちたいとの考えがあったとしても、会社は、決算書等を示さずとも、経常利益や純利益等の具体的な金額を開示することにより会社の経営状況を示して組合の理解を得ることは可能であったはずである。しかし、会社の態度は上記のとおりであり、これでは、組合は会社の経営状況を理解することも、また会社の回答の妥当性を検討し判断することも困難であったというべきである。
 したがって、夏季一時金の支給に関して、会社が組合の理解を得るために説明を尽くしたとはいえない。

(3)「保障給制度を導入するため、組合の要求ランクごとの賃金実態を明らかにすること」について
 これは、要求書に記載した、年齢・勤続年数ごとの賃金実態のことであり、組合が求めてきた保障給制度の導入に関する議論の前提となる情報の開示を求めたものであると解されるところ、会社がこれに対して説明・交渉を尽くしたとはいえない。

(4)「年間休日を2日増やすことに伴う不利益変更の是正」について
 会社は、組合員については、休日を増加する前の状態に戻すという方法について、第2回団交では、「新しい申入れがあったと理解して、検討する」と述べたのだから、議論を整理した上で、組合からの提案について受入れの可否を検討し回答すべきであったし、それによりこの問題については、進展・妥結の可能性はあったというべきであるところ、会社はそれをしなかったものといわざるを得ない。そうすると、会社からの説明・交渉が尽くされ、組合・会社双方において、進展・妥結の見込みはなかったとはいえない。

(5)「平成30年春闘及び夏期一時金と令和元年春闘及び夏・冬の一時金の再協議を図り、合意した内容で実施すること」について
 この要求項目は、令和2年7月2日付け団体交渉申入書において初めて議題として記載されたものであって、組合が、これまで要求しなかったこの要求項目をこの時議題とした理由は明らかではない。
 この要求項目に対して、会社は、同月9日付け書面において、既に交渉を尽くした過年度の内容について再協議を行う意思はなく、よって団交を繰り返す必要性・相当性は認められないと回答している。しかし、上記(1)から(4)までの事項について会社が組合に対して説明・交渉を尽くしたとはいえないと判断できる状況においては、会社は、この要求項目を議題として新たに追加した理由を聞いた上で、協議に応じるか否かを判断すべきで、組合に対して理由を尋ねることもなく、上記のとおり回答するだけでは、説明・交渉を尽くしたとはいえないというべきである。
 よって、会社には組合からの団交の申入れを拒否するに正当な理由があったとはいえない。

3 団交における組合の態度により、正常な団交を実施することができない状況に至っていたかについて
 
 会社は、組合が団交の席上、会社の出席者に対し、「黙っていろ」などと発言したり、机を叩くなど粗暴な言動を行い、会社の出席者からの説明を暴力的な発言で高圧的・一方的に遮り、説明をさせようとしない態度を繰り返し、そうした交渉態度を改めようとしなかったことから、到底、正常な団交を実施することができない旨主張する。
 仮に会社の回答に不満があったとしても、机を叩く等の組合の態度は決して望ましいものではないが、これらの言動があった後も、交渉を継続しており、反論しているのであって、組合のそれら言動によって団交の実施が困難になったとはいえない。また、交渉態度を改めるよう会社が求めたにもかかわらず組合が開き直ったために、会社が交渉を打ち切るほかなかったという事情は見受けられない。
 これらのことから、第3回団交が、組合の態度により正常な団交を実施することができない状況に至ったとは認められない中で、会社が一方的に団交を打ち切ったものといわざるを得ず、会社が団交を拒否する正当な理由は認められない。

4 したがって、会社が、組合からの令和2年6月24日付け及び同年7月2日付けの団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

5 救済方法について
 組合は、令和2年6月24日付け申入書による申入れに対する団交応諾をも求めているが、同申入書に記載された団交議題は、令和2年7月2日付け申入書に記載されたものに包含されるから、主文第1項のとおり命じることをもって相当と判断する。 
掲載文献   

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