労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  静岡県労委令和2年(不)第1号
ユニフーズ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年11月24日 
命令区分  却下及び棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合の執行委員長Aに対し、平成30年12月以降、賞与を支給しなかったこと、②Aに対し、同年10月30日以降、就労時間を短縮したこと、勤務日数を削減したこと及び帰宅命令を行ったこと、③第2回団体交渉以降、期日の間隔を合理的な理由なく空け、交渉時間を1時間と設定したこと、④組合に対し、掲示板の設置を許可しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 静岡県労働委員会は、①及び②の一部について申立期間を経過したものとして却下するとともに、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 平成30年12月時の賞与がAに対し支給されなかったことを不利益取扱いとする申立て及び平成30年10月30日から令和元年5月15日までの間の就業の対価として令和元年5月26日までにAに対し支払われた賃金の減額を不利益取扱いとする申立てを却下する。
2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 不利益取扱いについて
(1)賞与の不支給について

ア 本件申立てが平成30年12月賞与の不支給から労働組合法第27条第2項の除斥期間の1年を経過しているとの主張について
 会社において、例年パート従業員に対する賞与の支給は、毎年7月と12月に2回、各工場長が勤務状況等の評価を行い、その内容を人事担当の部署に報告し、決裁権者が支給の有無や具体的な支給額を決定していることがうかがわれる。そうすると、各期の賞与の支給はそれぞれ独立したものと解さざるを得ず、平成30年12月分賞与のAに対する不支給が令和元年7月以降の分の不支給と関わっていると見ることはできないし、全体として継続する行為と評価することも相当ではない。
 したがって、本件申立てより1年以上前となる平成30年12月時のAに対する賞与の不支給を不利益取扱いとする申立ては、却下せざるを得ない。

イ 賞与の不支給が不利益取扱いに当たるか
 会社のパートタイマー就業規則から、Aについて、雇用契約上は賞与の支払が確実に約束されていたものと見ることはできない。会社においては少なくとも平成22年以降現在まで、Aを含めたパート従業員について賞与を支給することが労働慣行となっていたことがうかがわれるが、具体的な支給額や算出基準が定められていたと認めるに足りる証拠はないから、賞与の有無及び金額が確定するのは、原則として会社の業績等に基づき算出基準が定まり、個々の従業員への成績査定がなされたか、または金額の合意が従業員との間で成立したときに具体的な賞与請求権が発生するものと考えられる。ただし、それまでの賞与の支給実績や他の労働者に対する支給の有無や額に照らして、当然に支給が見込まれるにもかかわらず、会社が客観的かつ合理的な理由なく賞与を支給しないような場合には、賞与不支給が違法となり得る。
 そこで、Aの賞与を不支給とした理由、及び当該不支給に関する不当労働行為意思の存否について検討するに、Aについては、問題行動の累積により会社の工場長から平成30年7月20日付けで警告書を発せられ、その後も勤務態度や勤務成績等に関し会社からの評価を下げられてもやむを得ないと考えられる出来事が続いてきており、賞与の不支給の期間とほぼ時期的に符合している。したがって、Aへの賞与の不支給は、同人の服装の乱れ、衛生管理、作業のスピード、作業の質、同僚との協調性、上司の指示遵守に問題があったからであるとする会社の主張には合理性がある。
 この点に関し、不当労働行為意思に係る組合の主張を裏付けたり、具体的に会社若しくはその代表者らが組合そのものを嫌悪していたことをうかがわせるに足りる証拠等はない。
 したがって、令和元年7月以降のAに対する賞与の不支給をもって、不利益取扱いによる不当労働行為に当たるとする組合の主張は採用することができない。

(2)勤務日数の削減及び就労時間の短縮について
ア 本件申立てのうち令和元年5月26日以前の賃金支払に関する部分が行為から除斥期間の1年を経過しているとの主張について
 会社の〔各時期の賃金の算定額・算定方法等の変更を定めた〕命令に基づいてそれ以降に支払われる一連の賃金は、全体として継続する一個の行為と評価することができるものと解され、一方、その後会社の命令により就労条件が変更される場合には、その変更命令及びそれ以降に支払われる賃金の減額は、以前の賃金支払とは別個の行為として捉えられるものと解される。
 したがって、平成30年10月30日から令和元年5月15日までの間の就業の対価として同年5月26日までにAに対し支払われた賃金はC会社への出向命令及び会社異動命令(D工場での夜勤)に基づくものであり、当該賃金の減額が本件申立てより1年以上前の行為となることは明らかであり、この期間に関する組合の不利益取扱いの主張は却下すべきこととなる。

イ 勤務日数の削減及び就労時間の短縮が不利益取扱いに当たるか
 Aの勤務日数の削減及び就労時間の短縮は、工場の新設に伴い会社に生産体制を変更する必要性が生じ、これにより夜間の業務量が減少したことや、他の従業員とのシフト調整をバランス良く行う必要があったという要素が大きく、会社にとっては業務上やむを得ない措置であったというべきである。
 よって、令和元年6月以降にAに対し支払われた賃金の減額に関係する勤務日数の削減及び就労時間の短縮が不利益取扱いとして不当労働行為に該当するという組合の主張は採用できない。

2 不誠実団交(不誠実な団体交渉条件の設定)について
(1)第1回団体交渉期日と第2回団体交渉期日との間隔に関する不誠実団交の申立てが行為の日から除斥期間の1年を経過しているとの主張について
 第1回から第5回までの団体交渉は、いずれも交渉事項としてAの就労条件や賃金等に関する問題が含まれ、ほぼその内容は重複しており、同一性を有しているというべきであり、しかも、ちょうどほぼ1年間という短期間に繰り返されている状況に照らせば、各団体交渉は一体として連続性があり、継続する行為と見ることができる。したがって、除斥期間は経過していないというべきである。

(2)交渉時間を1時間と制限したことが不誠実団交に当たるか
 団体交渉における交渉時間は、交渉事項の内容や経過に応じて臨機応変に設定される必要があり、会社側も必要な時間はこれを確保すべき義務を負うものというべきである。
 しかし、本件の団体交渉事項の内容、団体交渉時における交渉の経過、関係者の数等を考慮すれば、交渉時間が2時間確保できなければ充実した協議ができなかったとまでは認め難いといわざるを得ず、会社が2時間の団体交渉に応じなかったからといって直ちにそれを不誠実団交と評価することはできない。

(3)団体交渉期日の間隔を長く空けたことが不誠実団交に当たるか
 第2回と第3回期日及び第4回と第5回期日については、団体交渉までの準備等を考慮すれば不当に長すぎる間隔を置いたとは解しがたく、また、第1回と第2回期日の間隔が約4か月空いたこと、及び第3回と第4回期日の間隔が約4か月半空いたことについては、それぞれの経過に照らせば、原因が会社側にあったとはいえない。
 団体交渉が継続される場合にその間隔をどの程度取るべきかについては、交渉事項の内容やその経過・進展状況に応じて判断されるべきであるが、本件においては、特に会社側が非難を受けるべきものとは解しがたく、よって、会社の団体交渉条件の設定が不誠実団交に当たり不当労働行為となるとする組合の主張は採用することができない。

3 支配介入(組合掲示板の設置不許可)について
 組合は、団体交渉においてC工場の食堂兼休憩室に組合の掲示板を設置するよう求めたが、会社はこれを許可しなかった。
 本件においては、会社が組合に対し掲示板の設置若しくは会社の掲示板を利用した掲示物の掲示を許諾していると是認できる労働協約や合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
 そこで、会社において組合からの掲示板の設置や掲示物の掲示の要求を拒否する行為が、使用者の有する企業施設の管理を行う権利の濫用に当たると認められるような特段の事情があるといえるかどうかについて検討する。
 組合活動としてチラシ等の文書を会社内で掲示する必要性は一般論としては認められるが、どのような掲示物を掲示する具体的な必要性があるかについては、組合の主張や提出証拠に照らしても明らかではない。また、組合に加入している会社の従業員は、令和2年2月27日の第5回団体交渉の当時にはA1名であり、令和3年6月29日の時点でもAを含めて2名だけであるから、組合に対する伝達の手段としての意味はそれほど大きいとは考えにくい。
 会社は、組合の主張するような活動はビラ配りによっても可能であり、あえて掲示を認める必要ないと主張しているところ、ビラ配りが許容されることにより掲示を認める必要性は相当程度低下するというべきである。
 これらの事情を考慮すると、あえて組合の文書の掲示を認めなければ権利の濫用に当たるとまでは解し難いところであり、他に特段の事情を認めるに足りる証拠もない。
 なお、食堂兼休憩室において組合の掲示を認めるかどうかについては、今後組合と会社の双方が、掲示文書の性質、組合活動の情報提供の必要性、代替手段の存否等を考慮し、検討すべきである。
 よって、会社が組合文書の掲示板への設置を容認していないことは違法とはいえず、支配介入に当たるとの主張は採用できない。 
掲載文献   

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