労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第87号
キツタカ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年10月5日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   畳や襖の製作等を業とする会社から業務を請け負うA1(自らもC社の屋号で多数の下請業者(会社からみると孫請業者)を使用)、A2、A3、A2の子で同人が使用するA4、C社の下請業者らによって組織されていた申立外D組合は、平成27年8月の会社T店の閉鎖は組合員排除のために行われたと考え、28年10月18日に団体交渉を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。29年7月8日、D組合は組合の分会となり、組合は、同年7月13日などにT店閉鎖等に関する団体交渉を申し入れ、同月13日以降会社との話し合いが行われたが、会社は、これを団体交渉ではないと主張するなどした。
 本件は、①会社が、T店閉鎖後など5回にわたり、A1及びC社の下請業者並びにA2・A4親子に発注する業務量を減少させたこと、②組合が同年7月13日、8月11日及び30年2月7日付けで行った団体交渉の申入れに対する会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 A1、C社の孫請業者、A2・A4親子及びA3が、会社との関係で、労組法上の労働者といえるか否か(争点1)

 A1、A2及びA3は、会社と請負契約を締結した下請業者であり、C社〔注 A1が営む個人事業の屋号〕の孫請業者及びA4は、会社から見て孫請業者に当たることから、以下、A1、A2及びA3の労働者性と、C社の孫請業者及びA4に対する会社の使用者性について検討する。

(1)A1、A2及びA3
 A 1、A2及びA3は、会社との間で下請取引基本契約を締結しているが、労組法の趣旨からすれば、同法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かは、契約の名称等の形式にとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
 そして、その該当性の判断は、法の趣旨に照らし、下請事業者の業務実態に即して、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。

ア 事業組織への組入れ
 会社は、下請業者を、量的にも質的にも量的にも不可欠かつ枢要な役割を果たす労働力として事業組織内に位置付け、下請業者の活用による中核業務の外製化を事業モデルとしていたといえる。
 しかし、一方で、会社の下請取引基本契約は、下請業者が孫請業者などの他人労働力を利用することについて会社の承諾を得ることを求めていたが、実態としては、会社はこれにほとんど関与せず、下請業者の事業規模の拡大や縮小は下請業者のほぼ自由な意思に任されている。

イ 契約の内容の一方的・定型的決定
 会社と下請業者との契約の内容は、おおむね、会社が一方的、定型的に決定しているということができる。

ウ 報酬の労務対価性
 会社が下請業者に対して、報酬の最低保障額を定めていたとか、時間外手当や評価に基づく報奨金等に類するものを支払っていたという事情は存在しない。会社が発注する業務は主として一般住宅の畳や襖等の製作、配送であり、業務の報酬は単価表において計算されているが、単価表は労務対価的な色彩が濃いものといえる。
 しかしながら、会社は、契約上も、実態においても、下請業者に労務の提供を義務付けておらず、また、下請業者は孫請業者などの他人労働力を利用したとき、会社から一括して支払われる報酬をどのように分配するかは自由で、会社は全く関知していない。
 これらの点を総合すると、本件下請契約に基づき支払われる報酬の労務対価性は、かなり希薄であるといわざるを得ない。

エ 業務の依頼に応ずべき関係
 本件事情に鑑みると、A1は、会社との交渉において、自己の労働力とC会社の孫請業者の労働力をどこまで会社に提供するかという選択がある程度可能であったと考えられ、会社からの業務の依頼に応ずるか否かの裁量を一定程度、有していたと認められる。

オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
 組合は、各マニュアル〔注 配送マニュアル、畳製作マニュアル及び襖製作マニュアル〕が使用されていると主張するところ、各マニュアルは、各業務ごとの基本的な注意点、心構え、接客態度といった顧客に対するマナーや一般的な留意事項が中心で、下請業者に裁量的な業務遂行を許さない強固な指示、指導等を加えているとまではいい難い。
 また、組合は、会社による時間的拘束があった旨主張するところ、翌日の業務の確認とC社の孫請業者間の業務の割り振りのため、孫請業者を各店舗に待機させ、又は、時には自らが待機していたのが実態であり、こうしなくては、業務を円滑に遂行できなかったといえる。
 しかし、A1はC社の孫請業者が業務を行う店舗を自らの裁量で指定し、その孫請業者の間でも融通を利かせ業務の割り振りをしていたのであるから、業務の中核部分での時間的拘束性は緩やかだったといえる。
 これらから、時間的場所的な拘束は一定程度認められるとしても、A1やC社の孫請業者が会社の指揮監督下で労務を提供していたとみるのは困難である。

カ 顕著な事業者性
 ①各下請業者がどの店舗の業務を受注するかについて会社が一方的に決定していたとまでは認められない。②下請業者が自ら労務を提供する必要はなく、孫請業者等の活用により受注額を増大させることが可能で、また、受注店舗から撤退してもペナルティーを科されることはなかった。③他人労働力の利用については自由な裁量に委ねられ、下請としての事業の拡張・縮小は下請業者の経営判断に広く委ねられており、実際に、会社の下請業者は、一人親方、個人事業主、法人と多種多彩で、A1は20名以上、A2は1名、A3は少なくとも1名の孫請業者等を利用して業務を受注していた。そして、会社からA1に支払われた報酬についてみると、26年から28年にかけては1億円を超える規模であった。
 さらに、④会社は、下請業者に会社との専属契約の締結も義務付けてはおらず、専属するか、複数の元請と契約するかも自由な経営判断による。
 加えて、⑤孫請業者を抱えた場合の報酬分配方法にも裁量権があり、その結果、A1にあっては、多い場合には報酬の21%もの額を拠出金として差し引き、17%以上の拠出金をC社の倉庫代、工具代、通信費の支払に充てるなどしていた。また、拠出金の一部を自らの収入としたり、生活に困る孫請業者に貸付けを行うなどし、会社の担当部長と業務の受注の有無、条件について一定の交渉力も有していた。
 このような実態に照らすと、会社の下請業者は高度に事業者性を発揮することが保障され、また、実際に発揮することが可能な状況の中で下請業務を行っていた。したがって、A1、A2及びA3の事業者性は顕著であると評価することができる。

キ 小括
 A1、A2、A3ら下請業者は、会社の事業モデルに組み込まれていたが、報酬の労務対価性は希薄なもので、孫請業者等を活用することにより自ら受注量を調整することが可能で、受注内容に従った納期等の時間的な拘束はあったにせよ、受注した業務を孫請業者等との間で自由に割り振りして時間を調整する自由もあり、受注しない自由もあった。また、会社からの報酬がこの種の業種の労働者の賃金と比較して低額といった事情もなく、自己の経営判断で活用した孫請業者等に対する報酬の分配方法について、会社から何の干渉も受けていなかった。
 以上のような諸事情を総合的に考慮するとA1、A2及びA3が、会社との関係で、労組法上の労働者に当たるとするのは困難である。

(2)C社の孫請業者及びA4
 
 組合は、C社の孫請業者やA4と会社との間に雇用関係はないが、同人らは、A1とA2と同様の条件で会社からの業務を行っているのであるから、同人らの使用者は会社であり、下請業者と同様に労組法上の労働者性が認められると主張している。
 孫請業者は、会社店舗の作業場で作業するものであるが、会社からの業務に関する指示、時間的、場所的拘束性は顕著なものではない。C社の孫請業者は、孫請業者間で業務を自由に割り振りし、時にその割り振りもA1の指示に従って行われており、A4はA2との協議により決定していることが認められる。
 また、報酬も、会社から下請業者に支払われ、会社は、その金額が下請業者と孫請業者、あるいは孫請業者間でどのように分配されているか全く関知していない。
 したがって、C社の孫請業者やA4の業務を支配、管理しているのはA1やA2であり、会社は孫請業者等の業務内容やその条件について部分的にも支配、管理を及ぼしているとはいえない。
 したがって、会社は、C社の孫請業者やA4との関係において、労組法上の使用者とは認め難いのであるから、本件において、C社の孫請業者やA4の労組法上の労働者性を論じるまでもない。

2 その余の争点

 A1、C社の孫請業者、A2・A4親子及びA3が、会社との関係で、労組法上の労働者といえる場合において、
①会社が、27年8月のT店閉鎖後などに、組合員であるA1及びC社の孫請業者並びにA2・A4親子に発注する業務量を減少させたことが、同人らの組合活動を理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か(争点2)
②組合が29年7月などに行った団体交渉の申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否ないし不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)

 上記1のとおり、A1、A2及びA3は、会社との関係で労組法上の労働者であるとは認め難く、また、会社は、C社の孫請業者及びA4の使用者ともいい難いのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件で不当労働行為が成立する余地はない。

3 以上の次第であるから、本件申立てに係る各事実は、いずれも労組法第7条に該当しない。
  
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約1141KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。