労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜県労委令和2年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年10月29日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合との間で締結されたユニオン・ショップ制などを含む労働協約について改訂を申し入れ有効期間を満了させたこと、②その後の労使事務折衝や団体交渉において労働協約が失効しているとの態度を取り続けたこと、及びユニオン・ショップ制の廃止の理由について合理的な理由を示していないこと、③会社従業員2名について、従前と処遇を変えることは一切考えていない旨を回答したこと、④メーリングリストを用いて、労働協約が失効しているという見解を全従業員に向けて発信したこと、⑤C従業員に対し組合に入っても入らなくてもよいとの説明をしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岐阜県労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、②について同条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)労働協約について会社が申し入れた改訂に関する事項を交渉事項とする団体交渉が妥結するまでの間、改訂の申入れ前と同様の扱いをしなければならないこと、(ⅱ)組合との間で(ⅰ)の労働協約の改訂に関する団体交渉を行うに当たり(ⅰ)のとおり取り扱うとともに、改訂の理由について必要に応じて資料を提供するなどした上で具体的に説明し、誠実に対応しなければならないこと、(ⅲ)文書の交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
 
命令主文  1 会社は、組合に対し、組合と会社間で締結された労働協約について会社が平成29年12月22日及び同30年1月17日に申し入れた改訂に関する団体交渉が妥結するまでの間、同労働協約の各条項について改訂の申入れ前と同様の取扱いをしなければならない。
2 会社は、組合との間で前項の労働協約の改訂に関する団体交渉を行うに当たり前項のとおり取り扱うとともに、同労働協約の改訂の理由について必要に応じて資料を提示するなどした上で具体的に説明し、誠実に対応しなければならない。
3 会社は、本命令書写しの受領の日から10日以内に、組合に対して、下記の内容の文書を交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A殿
Y会社     
代表取締役B

 当社が、貴組合に対して、貴組合と当社の間で締結された労働協約について平成29年12月22日に行なった改訂の申出によって貴組合に十分な検討や当社との協議交渉の機会を与えないまま有効期間満了に至らしめたこと及び以後の労使事務折衝や団体交渉において同労働協約が有効期間満了によって失効したとの態度を取り続けたことについて、岐阜県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 また、上記改訂の申出に関する労使事務折衝及び団体交渉において、その理由を十分説明せず同労働協約が有効期間満了により失効したとの態度を取り続けたこと及び上記改訂の理由について必要に応じて資料を提示するなどして具体的に説明しなかったことについても、同委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後再び、上記のような不当労働行為を行わないことを約束し、貴組合の運営に支配介入を行わないことを約束します。
4 組合は、前項の文書交付義務を履行したときは、速やかに、当委員会に対し、文書でその旨を報告しなければならない。
5 組合のその余の救済申立ては、これを棄却する。
 
判断の要旨  1 本件協約について、会社が平成29年12月22日に改訂を申し入れ同30年1月25日に有効期間を満了させたことに係る救済申立ては、除斥期間経過後になされたものであるか否か(争点1)

(1)除斥期間について

 本件申立ては、令和2年4月17日になされているから平成31年4月16日以前の行為については既に除斥期間を徒過していることになる。
 しかるに本件申立てにおいて不当労働行為に当たるとされている行為は、①会社が平成29年12月22日に本件改訂申出をし、30年1月25日に本件協約の有効期間を満了させた行為、②平成30年2月5日から令和2年2月19日までに行われた本件改訂申出に関する労使事務折衝及び団体交渉において本件協約が失効しているとの態度を取り続けた行為、③令和元年9月20日付け回答書において従業員2名の処遇について従前と変えることは一切考えていない旨回答した行為、④令和元年9月20日にメーリングリストを用いて全従業員に対し本件協約が有効期間満了によって失効しているという見解を発信した行為、⑤令和2年1月17日頃、C従業員に対して組合に入っても入らなくてもよいとの説明をした行為、⑥労使事務折衝や団体交渉において本件協約が失効しているとの態度を取り続け、ユニオン・ショップ制(以下「ユ・シ制」)の廃止の理由について合理的な理由を示さなかった行為である。
 これらの行為のうち、③ないし⑤の各行為については、いずれも本件申立て時において除斥期間が経過しているとは認められない。
 そして、①と②の各行為は一体となってユ・シ制の廃止を実現するためになされた一連の行為であったと評価すべきである。また、②の行為及び⑥の行為についても、それぞれ、会社が各労使事務折衝及び団体交渉において本件協約が失効しているとの態度を変わらずに取り続けたこと全体が継続する行為に当たることになるから、本件申立ての1年前に終了していたとはいえない。
 よって、①ないし⑥の全ての行為について労組法第27条第2項の除斥期間の適用はないと判断する。

(2)本件協約第40条の解釈と有効期間満了後の効力

 本件協約第40条は、「有効期間1ヶ月前までに会社と組合のいずれか一方より改訂の申出がない場合は、さらに1ヵ年間更新されるものとする。」と規定しているが、この「改訂の申出」とは改訂案を伴うものを指していると解すべき余地がある。しかるに、会社から改訂案の提示がなされたのは平成30年1月17日であって既に有効期間満了の前1か月を切っていたことから、本件協約が平成30年1月25日の経過とともに議論の余地なく当然に失効したとは言い切れない状況にあったと認めるのが相当である。

(3)会社が本件改訂申出により本件協約を有効期間満了に至らせた行為が支配介入に当たるか否か

ア 労働協約が現在の社会経済情勢や労使状況に適合しなくなったと認められるか否か、適合しなくなった場合にどのように改訂すればよいかについては、労使の自主的判断に委ねられることになるから、使用者側が改訂の申出をすることそれ自体はユ・シ制の廃止を伴うようなものであったとしても労使自治及び協約締結の自由の範囲内のことであって、そのことが直ちに支配介入に当たるものということはできない。
 他方、労組法の趣旨に照らして労働協約の改訂過程においても労使の実質的対等は保障されなければならない。
 特に労働組合の存立の基盤となっているような重要な規定を改廃する場合には、組合にその改廃による不利益を与えてもなお改廃せざるを得ないという相当な理由が必要であるとともに、その理由を必要に応じて資料等をもって具体的に説明し、労使間において十分な協議・交渉を尽くすのに必要な時間的猶予を設けるとともに、直ちに労働協約が失効して無協約状態になることを回避するために経過措置を講じる等の手続的配慮が必要であるというべきである。
 使用者側からの労働協約の改訂の申出がこれらの要件を欠き、①申出の動機・目的、②その時期や状況、③労働組合の運営・活動に及ぼし得る不利益、労使関係に与える影響等の諸要素を総合考慮した結果、労働組合の弱体化や運営・活動に対する妨害の効果を伴うと認められる場合は、もはや労使自治あるいは労働協約の締結・改訂の自由の範囲を逸脱し、労使の実質的対等を侵害するものとして支配介入に当たることになる。

イ 本件については、ユ・シ制を改廃せざるを得ない特段の必要性や緊急性を認めることができず、この点について会社から十分な説明がなされたとも認められない。また、労使間において十分な協議や交渉を重ねるのに必要な時間的猶予を設けるとともに本件協約が失効して無協約規状態になって直ちに本件ユ・シ制が行われなくなることを回避するための十分な手続的配慮が講じられたとも認められない。したがって、本件ユ・シ制の廃止等が認められるための要件を欠いているというべきである。
 その上で上記①から③までを総合的に考慮すると、何らの事前協議もなく、本件ユ・シ制等を改廃すべき相当な理由について十分な説明を尽くすことも、何等かの経過措置を講じる等の手続的配慮をすることもなく、有効期間満了が切迫した時期に改訂案を伴わない本件改訂申出をすることによって組合に十分な検討や実質的な労使事務折衝や団体交渉を経る時間的な猶予を与えずに有効期間満了に至らしめた行為は、労働協約の改訂過程における労使の実質的対等を侵害するものであって支配介入に当たる。

2 会社が、平成30年2月5日から令和2年2月19日までに行われた本件協約に係る労使事務折衝及び団体交渉において、本件協約が失効しているとの態度を取り続けたことは、労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否か(争点2)

 上記1の(3)のイのとおり、そもそも本件ユ・シ制等の改廃が認められるための要件を欠いているというべきである。
 その上で①会社が本件改訂申出によって本件契約が失効しているとの態度を取り続けた動機・目的、②その時期や当時の労使状況等、③組合の運営・活動等に及ぼし得る不利益及び労使関係に与える影響を総合的に考慮すると、本件改訂申出により本件協約の有効期間を満了させたことに引き続き労使事務折衝や団体交渉において本件契約が失効しているとの態度を保持し続けた行為は、組合に対して優位な立場に立って労使事務折衝や団体交渉を有利に運び、最終的にユ・シ制の廃止を実現しようとしたものであり、労働協約の改訂過程における労使の実質的対等を侵害するものであって支配介入に当たる。

3 会社が、従業員2名の処遇について、令和元年9月20日付け回答書において従前と処遇を変えることは一切考えていない旨を回答したことは、労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否か(争点3)

 会社の回答は、組合脱退届を出した従業員2名に対して解雇をする意思がないことを示したものと認められる。この会社の回答は、一見するとユ・シ制の趣旨に反するようにも思われるが、もともと本件協約第6条第2項が「組合を脱退または組合から除外された社員の取扱いについては、会社と組合は協議を行うものとする。」と規定するにとどまっており、脱退者や除名者を会社が解雇すべき義務を明確に定めているわけではない。そうすると会社が従業員2名を解雇する意志がないと述べたとしても、それ自体が直ちに本件協約第6条第2項に違反するものであるとは認められない。
 また、仮に本件協約が失効していないとしても本件協約違反にならないことに変わりはないから、この回答が本件協約が失効していることを前提としこれに基づいてなされたものであるとも認められない。

4 会社が、令和元年9月20日に会社の全従業員が登録しているメーリングリストを用いて、本件協約が有効期間満了により失効しているという会社の見解を全従業員に向けて発信したことは、労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否か(争点4)

 B2部長が送信した令和元年9月20日付け電子メールは、本件協約が有効期間満了により失効しているとの会社の立場を示したものではあるが、組合側の主張も併記しており、その内容が使用者側に許されている意見の表明や協力の要請の範囲を超えて、組合員らを威嚇したり、動揺させたり、組合への誹謗中傷等として組合間の離反や組合員の萎縮を招くものであるとは認められないから、支配介入には当たらない。

5 会社がC従業員に対し組合に入っても入らなくてもよいとの説明をしたことは、労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか(争点5)

(1)組合の加入・脱退に対する使用者の意見表明が支配介入に当たるか否かについては、①発言の内容、②それがなされた状況、③組合の運営や活動に与えた影響、④推認される使用者側の意図等を総合的に判断すべきである。

(2)本件の場合、
①B2部長のC従業員に対する説明においては、本件協約が有効期間満了によって失効しているとの立場が示されているが、同時に組合がこれと異なる見解であることも明らかにしていること、
②組合に加入しようとしている従業員に対して会社の方から加入しないように慫慂したものではなく、C従業員からの加入の義務の有無に関する質問に対して答えただけであって、最終的には加入について当該従業員の判断に委ねていると認められること、
③会社が組合に加入しないように慫慂したわけではない以上、C従業員が組合に加入しないのはあくまでその判断によるものと認めるのが相当であるから、上記B2部長の説明の内容が直ちに組合の運営や活動に大きな影響を及ぼすものとも認められないこと、
④確かに会社は、ユ・シ制を廃止することによってグループ会社内での労使関係の「均質化」を図るという基本方針を持っていたものの、B2部長の説明は、特に加入をしないように働きかけたものではなく、いわば両論併記をして最終的に従業員の判断に委ねているので、会社が本件協約が失効しているとの態度を取り続けている行為とは関係がなく、当該行為と一連の行為であるとも認められないこと、
から、B2部長のC従業員に対する上記説明が支配介入に当たるとは認められない。

6 会社が、本件協約に係る労使事務折衝及び団体交渉において本件協約が失効しているとの態度を取り続けたこと及びユ・シ制の廃止の理由について合理的な理由を示していないことは、労組法第7条第2号の不当労働行為(不誠実団交)に該当するか否か(争点6)
 会社がユ・シ制を廃止しなければならない相当な理由を十分に説明せずに、本件協約が有効期間満了によって失効しているとの態度を一貫して保持したまま労使事務折衝や団体交渉に臨んだことは、誠実交渉義務に違反する。 
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