労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和3年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  個人X 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年3月14日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、申立外組合の組合員2名を昇等級させたことが組合専従者に対する人事優遇であって不当労働行為に当たる、として同組合の組合員である個人Xから救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 申立外C組合の組合員である申立人は、争点3に係る不当労働行為の救済を求める申立適格を有するといえるか(争点1)

(1)不当労働行為救済制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労働組合法第7条の規定の実効性を担保するために設けられたものである。この趣旨に照らせば、使用者が同条第3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをすることについては、当該労働組合のほか、その組合員も申立適格を有すると解される。

(2)この点について、会社は、労働組合法第7条第3号で「支配介入」が禁止されている趣旨は、労働組合の自主性や組織力が使用者の干渉行為により弱体化させられることを防止するところにあることから、不当労働行為救済申立ては当該労働組合がするものである旨、労働者個人が申立適格を有しないのは自明である旨、ただ、労働組合がいわゆる御用化しているような場合で、組合員個人に救済申立てを認めなければならない特段の事情がある場合には組合員個人による申立てを認めるべきであるかもしれないが、申立外C組合(以下「組合」)にはそのような特段の事情はない旨、組合員個人に支配介入の申立適格を認めた最高裁判所判決〔平成16年7月12日〕は、直接又は間接的な利害関係の存在がある場合のものと解釈されるところ、本件申立てはそれに該当しない旨等を主張する。
 確かに、申立人とD組合員及びE組合員の昇等級との間には、直接的な利害関係は認められない。しかしながら、本件申立てについてみると、申立人はまさに会社が組合の専従者に対する人事優遇により組合の懐柔が行われたとして支配介入を主張しているのであるから、このような事案については、組合自身が支配介入を主張して救済申立てをすることは期待できない以上、その点からしても組合の組合員である申立人にも個人として申立適格を認めるべきといえる。

2 本件申立ては、労働委員会規則第33条第1項第1号若しくは同項第6号又はその両方に該当するといえるか(争点2)

(1)本件申立ては、労働委員会規則第33条第1項第1号〔申立てが第32条に定める要件を欠き補正されないとき〕に該当するといえるかについて、以下検討する。
 申立書の「不当労働行為を構成する具体的事実」の記載においては、多少不明確な点があったとしても、「専従者への人事優遇」が支配介入である旨の記載及び「請求する救済の内容」として専従者2名に対する昇等級辞令の取消し等を求める記載があったことが認められ、このことからすれば、「不当労働行為を構成する具体的事実」が、本件申立てを却下しなければならないほど不明確であったとはいえない。
 よって本件申立ては、労働委員会規則第33条第1項第1号に該当しない。
 なお、会社も最終陳述書提出の時点においては、この点に関する問題は解消されたとして、主張を撤回する旨を述べているところである。

(2)次に、本件申立ては、労働委員会規則第33条第1項第6号〔請求する救済の内容が、法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかなとき〕に該当するといえるかについて、以下検討する。
 会社は、申立人の請求する救済の内容は、既に実施されている昇等級の撤回ないし取消しであり、労働条件の不利益変更となることから、当該労働者の同意なしに実現することはできず、実現することが不可能である旨主張する。しかし、既に実施されている昇等級の撤回ないし取消しは、少なくとも当該労働者の同意があればできるのであり、また、本件申立てに理由がある場合には、労働委員会は、昇等級の撤回ないし取消しに限定せず、事情等を考慮したうえで適切な救済方法を定めることができるのであるから、本件申立ての請求する救済の内容は、必ずしも法令上又は事実上実現することが不可能ではないというべきである。
 したがって、本件申立ては、労働委員会規則第33条第1項第6号に該当しない。

3 会社が、令和2年8月1日付で、D組合員を指導職2級A等級に、E組合員を指導職3級A等級にする辞令を発令したことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為に当たるか(争点3)

(1)これらの昇等級辞令に関し、申立人は、基本労働協約や人事評価制度に反した専従者に対する人事優遇であり、使用者による組合懐柔なので組合活動への支配介入である旨主張するので、以下検討する。

(2)D組合員らの昇等級が基本労働協約違反である旨の主張について、基本労働協約第180条覚書第5号には、「会社は、専従者の原職は、原則として保障し、専従期間終了後は、その職に復帰させる。」と規定されていることが認められる。これについて、申立人は、当該規定は、専従者を専従前の職に復帰させると定めており、専従期間中に昇等級させることを禁ずる協約である旨、よって、会社が専従者を専従期間中に昇等級させたことは当該規定に抵触している旨主張する。一方、会社は、当該規定は、専従者に対して、復職時の職階や業務の不利益にならないように、「現職」の原則保障をしているものに過ぎず、専従者の昇職等を禁ずるものではない旨主張している。
 一般的に、労使間で締結された労働協約の解釈については、締結当事者間の推定される意思を重視し、その解明を図るべきものであると考えられる。会社は上記で主張するとおりの意思であることは当然であるところ、組合の意思は、専従者の昇職等について長年にわたって受け入れていることからすれば、会社と同様の意思をもっていたと推認すべきである。そして、条文の文言においても、原職を「保障し」とある以上、専従者の現職保障を定めているにとどまるといえ、専従者の昇職等を禁ずることを定めているとまで解釈するのは困難である。
 そうであるとすれば、同規定の趣旨は、専従者が復職する際、職階や業務の不利益変更を防止するために、「原職」が「原則として保障」されること、すなわち専従者の身分保障であり、同規定を、専従者をその専従期間中に昇職等させることまで禁ずるものと解するのは無理があるといえる。

(2)次に、D組合員らの昇等級が人事処遇制度に反している旨の主張について、申立人は、同制度において、昇等級については、「期待像」を満たすか否かをはかるために、現職階の業務を行った上での評価基準を設けているのにもかかわらず、専従者は、現職階の業務を行っておらず、組合専従期間前の固定された人事考課により在職年数のみで昇職させるという一般従業員と比べて優遇した扱いを受けている旨主張する。
 これに対し、会社は、組合専従期間についても「勤続年数」が通算され、組合専従前の人事考課において特段の問題のなかった者は専従期間中であるか否かを問わず、昇職とすることがある旨、これは組合専従の期間が長期間にわたる者について昇職を認めない場合の弊害に鑑み、他の従業員とのバランスを失しない程度で昇職を行う取扱いを構築した旨主張する。
 そこで、会社における取扱いについてみるに、会社の昇職等取扱要領、人事処遇制度説明文書、就業規則及び基本労働協約の定めからすれば、専従者が組合専従中であったとしても各職階における在職年数は通算され、各職階の在職年数の要件を満たせば昇職対象者となることについては、これらの規定上問題はないといえ、それは、昇等級の対象者についても同様であるといえる。
 確かに、会社の就業規則及び基本労働協約には、専従者の人事考課について、組合専従前の人事考課を適用する旨の規定はないが、そもそも、昇職基準等の運用については使用者に一定裁量があると考えられ、専従者の昇職等に当たり、組合専従期間中は人事考課ができない以上、組合専従期間前の人事考課を適用するとの扱いについては、使用者の裁量内であるというべきであり、また、人事処遇制度説明文書に記載された「期待像」は、具体的な業務内容の遂行や達成を期待するような厳密な定量的基準とはみられないことからしても、会社の当該取扱いについては、一定の合理性があるといえる。

(3)したがって、D組合員らの昇等級が基本労働協約違反ではなく、人事処遇制度に反しているともいえず、その他不合理な事情も認められないことから、その余を判断するまでもなく、同人らの昇等級を支配介入の不当労働行為ということはできない。
 なお、会社が当該専従者2名に昇等級辞令を発令することによって組合の自主性を消失させ、ひいては会社が組合を御用組合化している旨の主張については、申立人の具体的な事実の疎明はないといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、会社が、令和2年8月1日付けで、D組合員を指導職2級A等級に、E組合員を指導職3級A等級にする辞令を発令したことは、組合に対する支配介入には当たらず、本件申立ては棄却する。 
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