労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第46号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年1月7日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、令和2年6月9日の団体交渉において、団体交渉を終了する旨発言し、その後、団体交渉に応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合からの令和2年3月1日付けの団体交渉申入れに誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書手交を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合からの令和2年3月1日付けの団体交渉申入れに誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A殿
Y会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合との令和2年6月9日の団体交渉において、団体交渉を終了する旨発言し、その後、団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨   会社が、令和2年6月9日の団交において団交を終了する旨発言し、その後団交に応じないことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるかについて、以下判断する。

1 令和2年6月24日に会社が組合に送付したご回答と題する同日付けの文書には、①組合の不誠実な交渉姿勢やこれまでの不毛な交渉経過から、団交において誠実な議論が期待できない以上、団交応諾義務は消滅したと判断している、②今後一切の団交申入れに対応しかねる旨の記載があることが認められるので、団交における組合の対応について検討する。
 第1回団交の冒頭、組合は、本件試用期間満了通知書の事由は極めて抽象的なので、具体的に、いつ、どのようなことがあり、このように判断したということを説明してほしい旨述べたこと、が認められ、組合は、A2組合員の雇用契約終了の理由や判断根拠についての具体的な説明を求めたといえる。
 これに対し、会社側は、①研修中の居眠り、②歓迎会での言葉遣い、③先輩社員Cが敬語の使い方について指導し、両親からアドバイスを受けたらどうかといった発言をしたこととその後A2がCに対し激高したこと、④後輩社員がA2の机の引き出しを開けた時の経緯、⑤経営方針発表会の日の経緯等について、時系列に沿って説明し、続いて、組合が、会社が挙げた事象について質問し、会社が回答して、団交が進行したことが認められる。

2 会社は、組合が、問題解決に繋がるとは思えない詳細な事実確認や追求だけでなく、紛争解決や問題点の検証において関係ないであろう内容や過去のできごと・発言の意図等に執拗にこだわったり、一方的に質問を続けたり、議論しても仕方がないであろう主観的な疑問に執着した旨主張する。
 しかし、組合の質問は、概ね、雇用契約の終了の理由の説明において会社が挙げた各行為について、問題の程度、行為に至る具体的な事情、その行為を会社がどのような手段で把握したかを明らかにしようとするものというのが相当である。
 また、本件試用期間満了通知書に記載された雇用契約の終了事由は、「社会人としての言葉遣いができない、感情のコントロールができず、カッとしたら場所や相手の立場をわきまえることができない、経営方針発表会での通常のコミュニケーションを暴力であると主張し、会社並びに他の社員に対して危害を加えることを想起させるような発言をするなど、社内の規律を著しく乱し、職場環境、他の従業員の就業環境を著しく害したため。」というものであって、組合がこれを極めて抽象的であるとしたことは首肯でき、また、会社が団交を効率的に行うために回答するとして組合に送付した3.24会社回答書についても、試用期間中にA2が取った数々の問題行動やトラブルなど、勤務態度、勤務実績を勘案した結果、やむなく本採用を拒否した旨の記載にとどまるのだから、会社が団交中に挙げた、雇用契約の終了の理由とされる各行為に関して、組合が質問をすることには一層理由があるというべきである。
 したがって、団交における組合の質問には、同趣旨の内容の反復や、一見しただけでは雇用契約の終了理由に直結するとはいい難いものも含まれてはいるものの、引き延ばしを企図した不適切なものとはいえず、会社には、A2との雇用契約を終了させた理由について、具体的な説明を行う義務があるというべきである。

3 会社は、第2回団交の終盤において、会社からの質問、確認事項に回答するよう求めたが、これに応じない組合の対応に問題がある旨主張する。
 経緯をみるに、組合は、雇用契約の終了の理由として会社が挙げた行為について、質問を続け、労使間の事実認識の相違点を明らかにして協議を続けようとしていたのに対し、会社は、労基署への申請等〔注 A2は、社員Cから暴力を受けたとし、会社に対し、労災申請を行う旨伝えるなどしたとされる〕の結果やそれについての組合の判断について回答を求め、組合が応じないことを理由に団交を打ち切ったというのが相当である。
 しかし、会社は、A2の労基署への申請の結果等とは無関係に、会社として同組合員との雇用契約の終了を決定したことは明らかであるのだから、A2組合員の労基署への申請等の結果について組合が回答しないとしても、会社は、未だA2との雇用契約の終了についての団交に応じるべき義務があるというべきである。したがって、組合がかかる会社からの質問に回答しないことを、団交打切りの正当な理由ということはできない。

4 会社は、A2が後輩社員Cに対し暴行したことは明白であり、その事実を否定する行為は重大な非行行為であって、その他、研修中の居眠りや引き出しについての問題等も、訴訟における会社主張に対し、A2はまともに反論できていないとし、解雇は違法であるとのA2の訴えに理由がないことは明らかである旨主張する。
 しかし、A2によるCへの暴行等が雇用契約の終了の理由であるとするならば、団交において、その判断に至った経緯について説明を尽くすべきであって、A2が地位確認等請求訴訟を提起したからといって、会社が団交を打ち切ったことが正当化されるものではなく、また、本件審問終了時において係属中のこの訴訟において、どのような判決が発せられたとしても、団交打切り時点での団交応諾義務が遡って免じられるものではない。
 また、会社は、議論は平行線あるいは空転していることから、行き詰まりと判断した会社の判断は正当である旨主張するが、本件は、団交において、雇用契約終了の理由について、具体的に説明し協議を行う前の段階で団交を打ち切ったというべきもので、説明や協議を尽くしてもなお、双方の見解が対立し進展がない状態に至った事案には当たらない。なお、会社は、組合が不当な街宣活動を行った旨主張するが、組合の行為を、団交での協議を継続できない程度の問題があったと認めるに足る疎明はない。

5 以上のとおりであるから、組合が、A2の雇用契約の終了についての協議の継続を求めているにもかかわらず、会社は、正当な理由なく、第2回団交において団交を終了する旨発言し、その後、団交に応じなかったと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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