労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第38号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年2月10日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、新型コロナウイルス感染症への対応等に関する組合からの団体交渉申入れについて、直ちには応じられない旨回答したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が本件申立てまでに団交に応じなかったことに係る正当な理由の有無について

(1)理事、顧問弁護士、代表交渉員(労務担当。以下「代表交渉員」)、B1課長及びB2課長の全員で感染状況及び感染対策について協議する必要があったとの法人主張について

ア 本件団交申入れ当時の法人の状況についてみるに、①令和2年8月10日頃から、病院において、新型コロナウイルスの集団感染が発生したこと、②同月13日、法人は、ホームページにおいて、病院及び施設の職員の新型コロナウイルス感染が確認された旨公表したこと、③同月14日、法人は法人内情報伝達システムの掲示板に、病院及び施設において新型コロナウイルス感染が確認され保健所の指導のもと検査を進めている旨掲載したこと、④同月18日、法人は、ホームページにおいて、病院及び施設における新型コロナウイルス感染者数を公表したこと、⑤同月20日付けで、病院は、法人内情報伝達システムを通じて感染拡大防止のための体制として、救急搬送の受け入れを全面禁止する等が記載された文書を送信したこと、⑥同月21日付け本件団交申入れが行われたこと、が認められる。
 以上のことからすると、本件団交申入れ時は、法人において新型コロナウイルス感染症の集団感染が発生した約10日後であり、法人は緊急な対応を行っていた状況であったとみることができる。

イ また、法人が、団交前に法人内部の協議が必要であるとしたことについてみるに、本件団交申し入れの内容は、主に新型コロナウイルス感染症に関する法人の対応についてであり、これは職員や患者の生命に関わる重要な事項であるとともに、法人がまさに対応を行なっている最中の事柄であった。
 特に、本件団交申入れの内容には、自宅待機分の補償や危険手当の支給も含まれており、このような人事労務制度の改正を含み、法人の財務状況とも関連する事項について回答するに当たっては、法人の経営に携わる理事の関与が必要であったと推認できる。
 またB1課長及びB2課長についてみると新型コロナウイルス感染症について、病院内外において実際に対応を行っていたといえる。
 したがって、法人が、団交開催前に、法人内の責任者や関係者は、特に経営に携わる理事が新型コロナウイルス関連の業務に携わっていたB1課長及びB2課長も含めて、感染状況及び感染対策については法人内で協議する必要があるとしたことは、不自然であるとはいえない。

ウ 一方、組合は、初めての陽性者が発生したのが令和2年7月28日であり、これを受けて同月31日、8月10日と団交申入れを行い、感染対策の責任者と理事の出席を求めたが、法人の当初の回答は一か月も先の同年9月10日又は11日ということであったことから、法人には、事態にあわせた団交を行う姿勢がをそもそもない旨主張する。
 認定した事実からすると、同年7月31日付け組合申出書の提出以降、具体的に団交の日程調整が行われたのは、令和2年8月7日の副執行委員長による電子メールからであり、法人は、組合からの日程調整の依頼に対し、8月中は難しいとして同年9月10日または11日という日程を提示したといえる。これに対し、組合は同年8月11日に都合が悪い旨の回答したが、これ以外に、法人が病院で職員が新型コロナウイルスに感染していることに対応していたことを併せ考えると、この時点での1か月先の団交日程の提示というのは、迅速な対応とはいい難いものの、このことをもって、法人には事態に合わせた団交を行う姿勢がそもそもない、とまではいえない。

(2)B1課長及びB2課長について団交に参加する時間の調整が困難であったとの法人主張について

 B1課長及びB2課長について団交に参加する時間の調整が困難であったことから、すぐには対応できなかったという法人の主張は、理由がないとまではいえない。

2 団交日程調整の経過について

 組合は、できるだけ早期に開催するよう、事務折衝でも構わないと開催を求め、また同月11日の開催でもよしとする旨の申入れなどしたが、法人が要請を全て拒否したと主張するので、団交日程調整の経過について、以下検討する。
 令和2年8月7日に、本件団交申入れより前に申し入れられた団交について、法人が組合に対して同年9月10日及び11日の団交日程を提案したところ、組合が都合が悪い旨の回答を行ったため、その後法人が別の日程を予定を入れ、結果として組合が再度申し入れた同月11日の団交の開催が不可能となったことは、法人が団交開催を遅延させるために意図的に行ったというよりは、組合と法人の日程の折り合いがつかなかったため、やむを得ないものであったとみるのが相当である。
 また、組合からの事務折衝でも構わないという発言に対し、法人は、事務折衝というのは法的には団交と同じなので、すぐに日程調整をすることは無理であり、理事との打合わせも必要である旨説明している。事務折衝の法的な位置づけはともかく、本件団交申入れの内容について、法人が理事との協議が必要であると判断したことはあながち不合理とはいえず、たとえ事務折衝という場ではあっても、理事と協議した上で対応するためすぐには日程調整ができないとしたことは、不自然であるとまではいえない。
 しかも、本件団交申し入れ当日から6日後の本件申立てまでの間や本件申し立て後にも、法人代表交渉員と副執行委員長とは、団交の日程について電子メールや電話でやり取りを行っている。本件申立ての前日の電話においては、法人代表交渉員は、理事との打合せが必要であり早急にというのは無理である旨説明しており、日程の決定には至っていないものの、法人は、日程調整に前向きに対応しているとみることができる。
 これらのことから、本件団交申入れの時点で団交日程が決定されておらず、団交開催が同年9月30日になったことについては、法人が組合の要請を全て拒否し、意図的に団交開催を遅延させたとまではいえず、組合との法人の日程調整の結果であったとみるのが相当である。

3 以上のことからすると、法人が経営する病院や施設において新型コロナウイルスの集団感染が発生する中、組合が、組合員の安全に係わる重要事項について、できるだけ早期の団交開催を求める必要があったことは理解でき、団交の開催が令和2年9月30日に至ったことは望ましいとはいえない。しかしながら、理事らとの協議が必要であったことや、新型コロナウイルス感染症関連の業務に携わっていたB1課長及びB2課長の団交に参加する時間の調整が困難であったことから、本件団交申入れにすぐには対応できなかったという法人の主張には一定理由がある。その上、本件申立ては、本件団交申入れの6日後に行われたものであり、その前日にも日程調整の電話連絡が行われていることからしても、団交の日程調整中に本件申立てが行われたものであるというべきであり、法人が正当な理由なく団交を拒否していたとまではいえない。
 したがって、本件団交申入れに対する法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当せず、本件申立ては棄却する。 
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