労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委令和2年(不)第4号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年12月23日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、賃金制度改定に係る団体交渉において、会社が、経営状況を示す資料を提示するなどして会社の回答の根拠を具体的かつ合理的に説明しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断した上で、その後の団体交渉において既に是正され、救済の必要性はなくなったとして、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における対応

(1)使用者は、団体交渉に応じる義務とともに、団体交渉において誠実に交渉に当たる義務を負う。そして、誠実交渉義務は、労働組合の要求に対して合意や譲歩を行う義務ではないが、譲歩ができない場合には、交渉事項に関する労働組合の要求に対応して、使用者の主張及びその論拠を示し、合意形成の可能性を真摯に模索する義務であると解される。
 また、本件においては、組合と会社は当委員会におけるあっせんにて、平成31年2月16日、「使用者は、賃金に係る団体交渉において、経営状況を示す資料を提出する等により具体的に説明し、十分に組合の理解が得られるよう努める。」との条項を含むあっせん案を受諾しており、会社は、誠実交渉義務における互いに合意形成を模索する具体的方法として、賃金に係る団体交渉については、自ら積極的に経営状況を示す資料を提示することを約したといえる。

(2)第7回団体交渉における会社の行為について

 会社は、「2月の概算」〔注 A2及びA3の2人の売上高から両人に係る賃金支給額並びに売上比率で按分した運送原価及び管理費を差し引いた単月の資料〕を組合に交付したが、財務諸表の提出はしなかった。
 これは、その内容からして、会社の経営状況を示す客観的かつ正確な資料とは評価できないが、①同交渉において、組合が財務諸表の提出を求めた事実はないこと、②会社の提示する賃金制度改定案が、会社の経営状況に照らし、それ以上の譲歩は難しいものであるのか否かが問題となってもいないことからすると、会社が2月の概算以外の経営状況を示す資料を提示しなかったことをもって不誠実とまで評価することはできない。

(3)第8回ないし11回団体交渉における会社の行為について

 本件団体交渉は、第7回以降第22回になるまで回数を重ね、会社は、組合の要求に対し、基本給や手当額の増額を提案するなど一定の交渉及び説明を行い、譲歩も行っていることは認められるものの、会社は経営状況を示す資料を提示するとの条項を含むあっせん案を受諾した上で本件団体交渉に臨み、第9回ないし第11回団体交渉において、会社の経営状況を理由にそれ以上の譲歩ができないという主張をしながら、「2月の概算」以外の資料を自ら積極的に提示するなどして会社の経営状況を具体的に説明し組合の理解を得る努力を尽くしたとまでは評価できないから、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉であり、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

2 本件救済申立て後の対応

(1)使用者による不当労働行為の成立が認められる場合であっても、命令交付の時点で、既に不当労働行為の影響が解消されているときは、救済の必要性がなく、その救済申立ては棄却すべきものと解される。そこで、前記1の(3)で判断した不誠実な団体交渉の状況が既に是正され、救済の必要性が失われていると認められるか否かについて判断する。

(2)第16回団体交渉で会社が提示した会社経営資料は、平成30年9月1日から令和元年8月31日までの期間における営業損益を示したものである。損益計算書には売上高から営業損益までが記載され、製造原価報告書には、旅費から雑費まで22の勘定項目の金額が記載されている。
 第16回団体交渉における経緯をみれば、組合が、会社の提示した資料から、会社の経営状況を判断可能か全く検討せず、勘定項目の成り立ち等の詳細な説明や決算書の提示に固執し、そのような組合の交渉態度が、会社の経営状況についての実質的な説明や賃金制度改定における協議の進捗を阻む要因となったことも否めない。
 組合は、決算書の提示を求める理由として、何らかの加工がなされた会社経営資料では会社全体の経営状況が明らかにならない旨主張するが、会社経営資料は、会社における1年間の営業損益を開示したものと認められるし、経営状況を示す資料は決算書に限定されるものではない。
 また、組合が運送原価については貸切部門と新車回送部門で仕分けした額を示すよう求めたのに対し、会社は、別の部門が赤字であっても賃上げができるということは、会社全体として経営を見ているからである旨述べたが、これは部門別の収支は賃上げの判断に影響しておらず、賃上げの可否を判断するための会社の経営状況を示すに当たっては、部門別に仕分けした額を提示する必要などないとの趣旨であると認められ、会社が独立採算制を採用していないことも加味すれば、かかる会社の説明には合理性がある。
 これらのことからすると、会社経営資料は、賃金制度改定に係る団体交渉において会社が賃上げできる経営状況か否かを示す資料と評価でき、会社は、かかる資料に基づき、その経営状況について具体的な説明をなしたものと評価できる。
 よって、第16回団体交渉を終えた時点で、不誠実な団体交渉の状況は既に是正され、救済の必要性はなくなったと認めるのが相当である。 
掲載文献   

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