労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委令和2年(不)第10号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年2月10日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社の支配株主C市によるD会社への株式譲渡に関し組合内に路線対立がある中で、①組合が、会社に対し、株式譲渡への反対及び団体交渉の開催を申し入れているにもかかわらず、会社の代表者等が組合の一部の組合員と会食し株式譲渡後の退職金等に関する話合いを行ったこと、②同会食を目撃した組合員Aに対し、会社統括部長Bが株式譲渡への賛否を問う発言をしたこと、③団体交渉において、法人の代表者等が、同会食で一部の組合員には提示した退職金等に係る資料を組合に提示しない等の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、組合との団体交渉前に、一部の組合員と団体交渉事項及びこれに関連する事項に関して直接話し合うなどして、組合の運営に支配介入してはならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合との団体交渉前に、一部の組合の組合員と団体交渉事項及びこれに関連する事項に関して直接話し合うなどして、組合の運営に支配介入してはならない。
2 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当するか(争点1)

(1) 団体交渉の制度が設けられた趣旨及び目的に照らせば、使用者は単に労働組合の要求や主張を聞くだけでなく、自己の主張を相手方が理解し納得することを目指して誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求及び主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示したりするなどの誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があり、使用者がこのような誠実交渉義務に違反した場合にも、同号が禁止する団体交渉の拒否に当たるものと解すべきである。

(2) そこで、本件団体交渉における会社の対応について検討する。
 会社は、組合の本件団体交渉における議題のうち、①株式譲渡についての会社と市との協議内容については、C市(以下「市」)からの協議の打診はないと回答し、②株式譲渡についての会社の意見の集約状況については、会社の意見はなく、また、そのような立場にないと回答し、③市が挙げている株主株式譲渡の理由についての会社の賛同の有無の議題については、株主の決定に従わざるを得ないと回答している。これらの議題については合意の達成を目指す交渉事項とはいえず、組合は交渉の前提となる事項について質問をしているに過ぎないし、会社は組合の質問に答えていることからしても、会社の交渉態度に問題があるとはいえない。
 また、④株式譲渡に関し市と会社が協議する場合は労働組合の合意の上で実施するという要求事項に対する、会社からの株式譲渡には関与できないという回答は、会社が株式譲渡の当事者ではない以上、やむを得ないものと考えられ、不誠実な対応といえないし、⑤会社の存続を約束することという要求事項も、会社の存続を決定するのは支配株主である市であることから、会社が約束できないと回答することはやむを得ないと考えられ、不誠実な対応とはいえない。
 ⑥株式譲渡反対を市へ申入れされたいことについては、これまでにも従業員の気持ちは伝えている旨回答しているが、会社の立場ではこのように回答せざるを得ないのであり、これを不誠実な対応とはいえない。
 以上の点を踏まえると、会社の上記の回答について、誠実交渉義務の違反があるとはいえない。

(3) 会社は、組合から、本件会合において会社がA3ら5人に提示した退職金等試案を提出するよう求められた。会社は、本件団体交渉の場では、株主である市や他の取締役に協議しなければ回答することができない旨述べ提示しなかったが、後日、市の承諾を得て組合に交付しており、このような対応は誠実交渉義務に反するとまではいえない。

(4)以上のことから、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉であるとはいえず、労組法第7条第2号に該当しない。

2 本件9月25日会合は、組合への支配介入に該当するか(争点2)

 労組法第7条第3号にいう支配介入の不当労働行為が成立するためには、使用者側に主観的要件すなわち不当労働行為意思が存することを要するというべきであるが、この不当労働行為意思とは、直接に組合弱体化ないし反組合的行為に向けられた積極的意図であることを要せず、その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることの認識、認容があれば足りると解すべきである。そして、不当労働行為に該当するか否かは、その行為自体の内容、程度、時期のみではなく、問題となる行為が発生する前後の労使関係の実情、使用者、行為者、組合、労働者の認識等を総合して判断すべきものである。
 これを本件についてみるに、A3ら5人は、組合内部では組合員と執行部との意思疎通を図ることができず、会社との面談を直接申し入れるという行動をとったものであり、それは組合員の統制を含めた組合内部の問題にすぎないともいえる。
 しかし、会合を行った日は、組合がC組合らと連名で団体交渉の開催や株式譲渡の反対を申し入れていた時期であり、会社は、そのことを認識しながら、A3ら5人に対し、退職金等の計算方法や支給時期等の説明を資料を提示しながら行ったことが認められる。同年10月2日に予定されていた団体交渉では株式譲渡反対が主な協議事項になるところ、会社が、株式譲渡された場合の条件について、一部の組合の組合員に対して団体交渉の前に説明したことは、組合との団体交渉を軽視するものであると同時に、株式譲渡に反対するという組合の基本的姿勢に否定的影響を及ぼし、組合内部の路線対立を助長し、ひいては組合を弱体化させるおそれのあるものであったといえる。実際、結果として18人の組合の組合員が組合を脱退し、A3ら5人が中心となりD組合が結成されている。
 また、会社の社長においては、A3ら5人からの、株式譲渡について従業員に説明して欲しいとの要望に対し、「組合が先」であるとの認識を示していること等の事情を考慮すると、会社は、本件9月25日会合が、組合の弱体化ないし反組合的な結果を招くおそれがある行為であるとの認識を有していたとみるのが相当である。
 以上のことから、会社の代表者等がA3ら5人と本件9月25日会合を行ったことは、組合の団体交渉の実効性を失わせ、組合の弱体化を図るものとして、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるものと認められる。

3 B部長がA4を呼び止め、会社に係る株式譲渡の賛否について質問したことは組合への支配介入に該当するか(争点3)

 B部長のA4への発言は、それ自体を見れば反組合的な内容ではないが、A4が本件9月25日会合を目撃したときと時間的に近接した時期になされたものであることからすると、A4の組合活動に圧力をかけようとする意図でなされたものとみる余地もないわけではない。もっとも、労組法第7条第3号にいう支配介入の不当労働行為が成立するためには、不当労働行為意思が必要である。この点について、組合は、A4は株式譲渡反対の署名をしており、また、令和2年9月25日にA1所長と同席していたことから、B部長は、A4が組合の組合員であることを知っていたと主張するが、株式譲渡反対に関する署名活動は、組合の活動としてのみ行われていたものではないし、署名した66名のうち、誰が組合の組合員であるか分かり得ず、これをもって、B部長が、A4が組合へ加入していたことを知っていたと認めることはできない。また、B部長は、本件9月25日会合の際に、A4がA1所長と同席していたことを現認したのであるが、そのことのみをもって、A4が組合に加入していたことを知り得たとまでは認めることはできない。
 一方、会社においては、A1所長やA2をはじめ、複数の組合に加入している従業員が多く存在し、会社において組合に加入している組合員の把握が困難であると推察される事情が存在すること、A4について上記の署名及び所長との同席の他に組合から具体的事実の疎明がなされていないことも併せ考えると、B部長が、令和2年9月28日時点において、A4が組合に加入していたことを認識していたとまで認めることはできない。
 したがって、使用者の側に不当労働行為意思が存したとはいえず、本件A4への発言は、組合の組合活動に対する支配介入に該当するということはできない。

4 救済の方法
 組合は、請求する救済の内容において謝罪文の掲示及び手交についても求めているが、本件9月25日会合は、もともとA3ら5人が求めたものであり、組合内部の路線対立に会社が巻き込まれたという面もある。また、A3らの組合からの脱退の主因は、組合の方針に同調できなかったことにあり、会社の行為に起因するところはそれほど大きくはない。
 よって、救済の方法としては、主文の程度をもって足りると判断する。 
掲載文献   

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