労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和2年(不)第1号 
申立人  X1組合・X2組合(「組合」) (合わせて「組合ら」) 
被申立人  Y1会社・Y2法人・Y3会社(会社ら) 
命令年月日  令和3年8月25日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社らが、①組合らが令和元年10月29日などに令和元年度夏季・冬季賞与等を交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、これを拒否したこと、②令和元年8月27日付け申入書による団体交渉申入れ後、期間の定めのない雇用であった組合員に対し、有期雇用契約書に署名押印するよう要求したこと、③令和元年8月20日の団体交渉で合意した同年8月末までの夏季賞与の支給について、支払時期の変更を一方的に通知したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号に、③について同条第3号に(Y1会社に関してのみ)、それぞれ該当する不当労働行為であると判断し、会社らに対し、(ⅰ)申入れの議題に関する団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)団体交渉における発言を、その直後に翻すなどして、組合の運営に対する支配介入を行ってはならないこと(Y1会社に対してのみ)、(ⅲ)文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、令和元年9月10日、10月11日、10月29日、11月22日及び12月12日申入れの議題に関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 被申立人Y1会社は、団体交渉における発言を、その直後に翻すなどして、組合の運営に対する支配介入を行ってはならない。
3 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書の内容を縦1メートル、横2メートルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、被申立人の全ての施設において職員の見やすい場所に毀損することなく14日間掲示しなければならない。
 当法人が、①令和元年9月25日に行われた団体交渉において令和元年度夏季賞与、在宅訪問介護事業廃止に関する事項及びDホームにおけるリネン業務に就労する組合員の安全衛生等就労関係に関する事項について不誠実な対応をしたこと、②同年10月11日、10月29日、11月22日及び12月12日に申し込まれた団体交渉に応じなかったこと、③令和元年8月20日の団体交渉で合意した8月末までの夏季賞与の支給について、当法人が同月23日に支払時期の変更を職員に一方的に通知したことが、①及び②については労働組合法第7条第2号に、③については同条第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  令和 年 月 日
 X1組合
  執行委員長 A1殿
 X2組合
  執行委員長 A2殿
Y1会社      
代表取締役 B1
4 被申立人Y2法人は、令和元年10月29日、11月22日及び12月12日申入れの議題に関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
5 被申立人Y2法人は、本命令受領後、速やかに下記の文書の内容を縦1メートル、横2メートルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、被申立人の全ての施設において職員の見やすい場所に毀損することなく14日間掲示しなければならない。
 当法人が、令和元年10月29日、11月22日及び12月12日に貴組合から申し入れのあった団体交渉に応じなかったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  令和 年 月 日
 X1組合
  執行委員長 A1殿
 X2組合
  執行委員長 A2殿
Y2法人     
理事長 B2 
6 被申立人Y3会社は、令和元年12月12日申し入れの議題に関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
7 被申立人Y3会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書の内容を縦1メートル、横2メートルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、被申立人の全ての施設において職員の見やすい場所に毀損することなく14日間掲示しなければならない。
 当法人が、令和元年12月12日に貴組合から申し入れのあった団体交渉に応じなかったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  令和 年 月 日
 X1組合
  執行委員長 A1殿
 X2組合
  執行委員長 A2殿
Y3会社      
代表取締役 B1
8 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  <Y1会社の対応>
1 Y1会社が、元組合員C1に対し、雇用期間を平成31年4月16日から1年間とする契約書を送付して署名押印するよう求めたことは、労働組合法第7条第1号に規定する不利益な取扱いに当たるか否か。また、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点①)
(1)C1との雇用契約は期間の定めのないものであったと考えられ、Y1会社がC1に対して期間が1年間の契約書を送付したことには、不利益性が認められる。
(2)Y1会社は、組合員・非組合員の区別なく、期間の定めのある雇用契約書を送付しており、組合員のみに期間の定めのある雇用契約書を送付したとの事実は認められない。したがって、労働組合法第7条第1号の要件である、Y1の不当労働行為意思の存在は認められず、同号に定める不利益取扱いには当たらない。
(3)Y1会社が、C1に対し、期間の定めのある雇用契約書を送付して署名押印するよう求めたことは、組合員であるが故になされたものとは認められず、労働組合法第7条第3号に定める組合の運営に対する支配介入には当たらない。
2 Y1会社が、令和元年度の夏季賞与について、令和元年8月20日に行われた団体交渉において説明した方針と異なる支給方法を採る旨告知したことは、不誠実な対応に当たるか否か、また、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点②)
(1)Y1会社が、代表者名の1.8.23通知により1.8.20団交の回答を翻したのは、団体交渉からわずか3日後であるところ、この通知には、支給が遅れる理由は記載されておらず、組合らに何ら説明はなかった。また、提出された証拠からは、この短い期間で夏季賞与の支給時期を遅らせるほど経営状況が大きく変わったと認められる事実が立証されなかった。このような行為は、団体交渉における組合との交渉過程を蔑ろにし、ひいては組合員の組合に対する信頼の失墜、交渉力に対する疑念を招くものであり、組合の運営に対する支配介入に当たる。
(2)また、組合らは、職員への「告知」自体が不誠実であるとして、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると主張するが、同号は、正当な理由のない団体交渉拒否及び不誠実な団体交渉を禁止するものであって、交渉態度ではない「告知」行為について、同号に該当する不当労働行為があったとは認められない。
3 団体交渉申入れに対する会社の対応(争点③)
(3-1)令和元年度夏季賞与以降の賞与の支給の有無、額及び支給時期に関する事項、在宅訪問介護事業の廃止及びそれに伴う組合員の配置転換等に関する事項、Y1会社のDホームにおけるリネン業務に就労する組合員の安全衛生等就労関係(以下、併せて「3項目」)を交渉事項とする団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な対応に当たるか否か
ア 本件名簿が実態を反映していないとのY1会社の主張について
 Y1会社は、本件名簿(組合員名簿を元に、退職者を消した名簿)について、「退職」と付記されたいる者がいること等をもって、本件名簿が実態を反映していない旨主張する。
 しかしながら、常勤者及びパート従業員の賃金等を交渉するに当たって、組合員名簿は、団体交渉の議題に関する組合員がY1会社に在籍していることが確認できれば足りるのであって、実態を正確に反映した組合員名簿まで提出する必要性は認められない。
 そして、本件名簿が提出されて以降、各要求事項について、組合らが組合員名簿を提出することにより、改めて組合の範囲を明らかにしなければ、団体交渉の開催自体に支障が生じるという特別な事情は認められない。
 それにもかかわらず、Y1会社が、組合員名簿の提出に合理的な理由もなく固執して繰り返し求めたことは、同社が、意図的に団体交渉を回避しようとしたものと評価せざるを得ず、本件名簿が実態を反映していないとの主張は理由がない。
イ 夏季賞与に関する事項は、これまでの交渉で十分に対応してきたとの主張について
 1.9.25団交において、Y1会社は、1.8.20団交の説明と1.8.23通知による対応の相違について謝罪はしたものの、現時点では夏季賞与の取扱いを回答することはできないと述べたにとどまり、具体的な回答をしておらず、十分に対応してきたとはいえない。
ウ 在宅訪問介護事業の廃止に関する事項は、経営権事項であり義務的団体交渉事項に当たらないとの主張について
 事業所の廃止、業務の下請け・外注化などいわゆる経営権に関する事項であっても、労働者の労働条件に影響を及ぼすものである場合には、義務的団体交渉事項に当たる。
 本件について検討するに、在宅訪問介護事業の廃止により不利益を受けるおそれのある組合員が20名程度いるところ、廃止によって在宅訪問介護事業に従事する従業員の配置転換がなされる等、組合員の労働条件が変わりうるから、在宅訪問介護事業の廃止は労働条件に影響を及ぼすものといえ、義務的団体交渉事項に当たる。
エ リネン業務について、団体交渉によって話し合いを行い、また書面でも回答しており、十分誠実に対応したとの主張について
 1.9.25団交において、リネン業務の労働環境が劣悪であるとの指摘が組合からあった際、Y1会社は、実際の現場から情報を得ていないが、具体的な内容が確認できれば対応する旨回答したのみであり、その後は交渉に応じていないなど、Y1会社の態度は、誠実交渉義務を果たしているとはいえない。
オ 以上から、Y1会社の主張には、いずれも理由がなく、3項目を巡るY1会社の対応は不誠実な対応に当たる。
(3-2)組合員A2に対する平成29年度処遇改善手当の支給を交渉事項とするY1会社の対応は、不誠実な対応に当たるか否か
ア これまでの団体交渉で十分対応してきたとのY1会社の主張について
 1.6.25団交及び1.8.20団交において、Y1会社は、処遇改善加算金(〔注2〕。以下「加算金」)訴訟〔注3〕が係属していること、E市の調査が今後予定されていることの2点のみを理由に説明を拒んでいる。しかしながら、訴訟、行政による調査及び団体交渉は、それぞれ目的や機能を異にするものであるから、訴訟が係属していたり、行政による調査が行われる予定であったとしても、Y1会社には、なお、団体交渉において、当該事項について誠実に交渉する義務が存在する。したがって、Y1会社が、これらを理由に説明を拒否することは、誠実交渉義務違反に当たる。
〔注1〕「処遇改善加算金」 厚生労働省が平成24年に創設した制度に基づき、要件を満たした介護事業所で働く介護職員の賃金改善を行うため、各介護事業所に支給されるもの。
〔注2〕「訴訟」 平成30年5月17日に、組合員72名が会社らを被告として、横浜地方裁判所E支部に提起した訴え。
イ 従業員には加算金に係る法的請求権は認められないとのY1会社の主張について
 確かに1.9.30判決において、個々の従業員が加算金の支払を請求する法的な権利を有するものではないと判断されている。しかし判決の理由は、都道府県等から加算金の交付を受けた事業者が、各介護職員に対して具体的にいかなる処遇改善を行うかは、各対象事業者の裁量に委ねられており、いかなる方法で処遇改善に用いるかが確定しているものではないから、介護職員らは事業者に対して具体的な金銭的請求権を有していないという判断に基づくものである。そうすると、Y1会社には、交付された加算金を用いて具体的にいかなる処遇改善を行うかについて、組合との交渉の余地があるといえ、団体交渉に応じる義務が生じる。
 よって、従業員にY1会社に対する改善金に係る法的請求権がないことは、団体交渉拒否の正当な理由にはならないことなどから、A2執行委員長に対する平成29年度処遇改善手当の不支給を巡るY1会社の対応は、不誠実な対応に当たる。
(3-3)Y1会社が、組合員A3に対する退職強要をしたこと、介護業務を強要したこと及び同人のYグループ総務業務への復帰について並びに元組合員C2に対するセクハラ及びセクハラ防止について並びに元組合員C3に対する退職強要について交渉議題とする令和元年10月29日付団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か
 Y1会社は、団交申入書に記載された3名について、組合員であるか確認する必要があるところ、組合員名簿に記載しておらず、組合加入申込書を提示していない以上、この3名が組合員であるとの前提に立つことはできず、団体交渉に応じないことには正当な理由があると主張する。
 しかしながら、組合らは、1.11.22申入書でA3ら3名が組合員であることを明示して、Y1らに通知しているのであるから、Y1会社の主張には理由がない。
 組合らが求めた交渉事項は、退職強要及びセクハラ防止に関する事項等であり、いずれも組合員の労働条件に関する事項であるから、これに対し、組合員名簿の未提出を理由に団体交渉を拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
(3-4)Y1会社が、令和元年度冬季賞与に関する事項、就業規則及び賃金規程のうち賞与の支給日在籍要件に関する事項、令和元年6月給与からの皆勤手当廃止に関する事項、残業単価に処遇改善分を含めない取扱いに関する事項、平成27年度処遇改善加算の清算金に関する事項を議題とする令和元年12月12日付け団体交渉申し出に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉に当たるか否か
 Y1会社は、組合員名簿が実態を正確に反映していないこと、加算金に関する事項を団体交渉事項とする団体交渉には十分に対応してきたことを理由に、団体交渉拒否には十分な理由があると主張する。
 しかしながら、3-1で判断したとおり、実態を正確に反映した組合員名簿まで提出する必要性はないというべきであり、また、Y1会社が加算金に関する事項について団体交渉で十分に対応できたという主張には理由がない。
 したがって、令和元年12月12日付け団体交渉申入れに応じなかったことは正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
<Y2法人の対応>
4 令和元年度夏季賞与以後の賞与の支給の有無、額及び支給時期に関する事項を巡るY2法人の対応は、不誠実な対応に当たるか否か(争点④)
 組合らは、1.11.22申入書により申入れを行ったが、Y2法人は1.12.6文書による回答のみを行い、団体交渉に応じていない。前記3-1で判断したとおり、この件に関するY1会社の対応は不誠実なものであり、同様の回答で団体交渉を拒否しているY2法人の対応もまた、誠実であったとはいえない。
 以上により、令和元年度夏季賞与以後の賞与の支給の有無、額及び支給時期に関する事項を巡るY2法人の対応は、不誠実な対応に当たる。
5 Y2法人が、組合員A3に対する退職強要、介護業務の強要及び同人のYグループ総務業務への復帰に関する事項を議題とする令和元年10月29日付団体交渉申入れ及び令和元年度冬季賞与に関する事項、就業規則・賃金規程のうち賞与の支給日在籍要件に関する事項、令和元年6月給料からの皆勤手当廃止に関する事項、残業単価に処遇改善分を含めない取扱いに関する事項、平成27年度処遇改善加算の清算金に関する事項を議題とする令和元年12月12日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な事由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点⑤)
 Y2法人は、組合員名簿が実態を正確に反映していないこと、加算金に関する事項を団体交渉とする団体交渉には十分に対応してきたことを理由に、同法人の団体交渉拒否には正当な理由があると主張するが、これら主張には理由がない。
 Y2法人が令和元年10月29日及び同年12月12日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
<Y3会社の対応>
6 令和元年度夏季賞与以後の賞与の支給の有無、額及び支給時期に関する事項を巡るY3会社の対応は、不誠実な対応に当たるか否か。(争点⑥)
 これら事項は労働者の労働条件に関する事項であるから義務的団体交渉事項に当たることは明らかであるところ、前記3-1で判断したとおり、この件に関するY1会社の対応は不誠実なものであり、同様の主張で団体交渉を拒否しているY3会社の対応もまた、不誠実な対応に当たる。
 以上により、令和元年度夏季賞与以後の賞与の支給の有無、額及び支給時期に関する事項を巡るY3会社の対応は、不誠実な対応に当たる。
7 Y3会社が、令和元年度冬季賞与に関する事項、就業規則及び賃金規程のうち賞与の支給日在籍要件に関する事項、令和元年6月給与からの皆勤手当廃止に関する事項、残業単価3に処遇改善分を含めない取扱いに関する事項、平成27年度処遇改善加算の清算金に関する事項を議題とする令和元年12月12日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉に当たるか否か(争点⑦)
 Y3会社は、組合員名簿が実態を正確に反映していないこと、加算金に関する事項を団体交渉とする団体交渉には十分に対応してきたことを理由に、同社の団体交渉拒否には正当な理由があると主張するが、これら主張には理由がない。
 Y3会社が令和元年12月12日付け団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

  
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