労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成29年(不)第34号 
申立人  X組合C1県本部・X組合C2支部・X組合C2支部C3分会 (組合ら) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年2月8日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が申し入れた一時金の支給を交渉事項とする団体交渉において不誠実な対応に終始したこと、②その後、正当な理由なく団体交渉に応じなかったこと、③合理的な理由なく組合事務所の退去を要求したこと、④会社が、平成27年年末一時金及び平成29年夏季一時金を支給しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 神奈川県労働委員会は、④について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、バックペイ、文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。
 
命令主文  1 被申立人は、申立人X組合X組合C2支部C3分会の別表1の分会員に対し、平成27年年末一時金については会社の就業規則に基づき基本給の1.08か月分を、平成29年夏季一時金については会社の就業規則に基づき基本給の1.05か月分を速やかに支払わなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人X組合C2支部C3分会に手交するとともに、同文書の内容を縦1メートル、横2メートルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、被申立人の従業員の見やすい場所に毀損することなく、10日間掲示しなければならない。
当社が、貴分会員に対し、平成27年年末一時金及び平成29年夏季一時金を支給しなかったことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  令和 年 月 日
 申立人X組合C2支部C3分会
  分会長 A1 殿
株式会社Y      
代表取締役 B 印 
3 組合らの平成25年年末一時金、平成26年夏季一時金、同年年末一時金、平成27年夏季一時金、同年年末一時金、平成28年夏季一時金及び同年年末一時金の支給を議題とする団体交渉における会社の対応に係る申立て、並びに平成26年年末一時金の支給を議題とする平成26年12月12日付け団体交渉の申入れ、平成27年年末一時金を議題とする平成28年1月20日及び同年3月3日付けの各団体交渉の申入れに対する会社の対応に係る申立てを却下する。
4 その余の申立を棄却する。
 
判断の要旨  1 各一時金の支給を議題とする団体交渉における会社の対応は、不誠実団体交渉に当たるか否か(争点1)
(1)除斥期間について
 団体交渉は交渉議題ごとに一個の行為として完結しており、平成25年年末一時金から28年年末一時金までを議題とする団体交渉は平成28年12月20日までに完結しているから、労組法第27条第2項で規定する「継続する行為」とはいえず、これらを議題とする団体交渉に係る申立てを却下する。
(2)平成29年夏季一時金を議題とする団体交渉、及び同年年末一時金を議題とする団体交渉における会社の対応について
 団体交渉において、会社は、自社の経営状況を説明し、分会の質問に可能な範囲で回答をしていると認められ、会社の対応が不誠実であるとする組合らの主張は採用することができないこと等から、団体交渉における会社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
2 分会の一時金を議題とする団体交渉の申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)
(1)除斥期間について
 分会の16.12.12要求書、28.1.20要求書及び28.3.3申入書に係る申立ては、会社による回答がなされた日から労組法第27条第2項の除斥期間を徒過しており却下する。
(2)平成29年4月27日付け団体交渉申入れを拒否したことについて
 平成27年年末一時金について、会社は、自らの回答についてその根拠について一応の説明をし、今後の見通し等からこれ以上の増額はできないことにも言及していたのに対し、分会は上積みの要求を繰り返すのみであったなど、当該一時金を巡る交渉は、労使間で進展しないまま平行線をたどっていたといえるから、分会が団体交渉を申し入れた平成29年4月2日の時点において、議論は尽くされており行き詰まりの状態であったと言える。
 したがって、団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否には当たらないから、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
3 会社が平成27年年末一時金及び平成29年夏季一時金を支給しなかったことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)
〔労組法第7条第1号該当性について〕
 平成27年年末一時金及び平成29年夏季一時金の2期分が支払われておらず、分会員が経済的な不利益を受けたことは明らかである。
 組合らは、本件一時金支払拒否が不当労働行為意思の下でなされた旨主張するが、上記2のとおりこれら一時金を議題とする団体交渉における会社の対応が不当労働行為に該当しないことなどから、組合らの主張はいずれも採用することができず、会社の不当労働行為意思は認定できないから、本件一時金支払拒否は、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるということはできない。
〔労組法第7条第3号該当性について〕
(1)一般に、団体交渉において、組合員に係る一時金の支給内容を決定する場合、労使間で妥結し、その支給内容が決まるまでは、会社が組合員に対する一時金の支払義務を負うものではないから、会社が未妥結を理由に仮払を拒否することも特段非難されることではない。
(2)しかしながら、本件仮払要求拒否は、仮に妥結をしたとしても、平成27年年末一時金については消滅時効を援用して支給を拒否するとの見解を表明したものであり、平成29年夏季一時金についても、労使間の交渉が行き詰まりにより没交渉の状態が続けば、将来的に同様の対応を採ることを示唆したものと認められるから、単なる仮払の拒否とはその性質を異にし、実質的には、分会員に対する一時金の支払を拒否したものといえる。
(3)分会が団体交渉で平成27年年末一時金及び平成29年夏季一時金の支払について確認した際、会社は、妥結すれば10日程度で一時金を支給すると述べるのみで、消滅時効の援用については一切言及していない。一方、分会は、一時金は生活給の一部という主張を従前から繰り返しており、会社もそうした実態があることについて理解を示していた。加えて、分会は一時金交渉の都度、分会員の経済的困窮を訴えており、会社もそのことにも理解を示していた。こうした経緯からすると、分会は、交渉が妥結さえすれば、会社の提示した支給率で一時金が支払われるであろうと受け止めていたことは容易に推測することができる。
(4)会社は、従前提示した額で支払を行った上で、上乗せ部分について交渉を拒否する等、より穏当に分会員の生活を守る方法も採り得たにもかかわらず、その方法によらず分会員以外の全従業員に支払済みであった一時金全額の支払いを拒否した。こうした会社の対応は、経済的な困窮を訴える分会員の期待を大きく裏切る行為といえるし、これまでの分会との交渉を無意味なものにする行為であったと言わざるを得ない、
(5)以上のことからすれば、会社の本件一時金支払拒否は、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
4 会社が分会に対し組合事務所の退去を申し入れたことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)
(1)会社は、平成20年3月頃、分会との協定書に基づき会社敷地内に組合事務所を貸与したものの、協定書には貸与の開始時期が記載されているのみであり、貸与期間や更新手続及び変換に関する規定が定められておらず、分会に対し将来にわたって会社敷地内に組合事務所の貸与を保証されたものとはいえない。そして、本件組合事務所明渡の申入れにより、自らの敷地の返還を求めること自体は、同協定書に反するものではない。
(2)一方で、組合事務所は、組合にとって組合活動の重要な拠点であり、その重要性に鑑みれば、本件組合事務所明渡の申入れが、会社にとって業務運営上特段の必要性がなく、単に、その運営に干渉する契機として組合事務所の明渡しを要請した場合には、不当労働行為に該当するといえる。
(3)会社は、具体的に理由(顧客から預かった鉄板及びコンテナを保管するために現在の組合事務所が業務上支障になる)を示した上で、本件組合事務所明渡の申入れについて、計5回の団体交渉で議題とするなど、分会に協議を求めており、その経過において殊更分会の組合活動に打撃を与えたとする事実は認められない。一方、分会は、会社との協議を回避して本件申立てに至っている。こうした事実を考え併せれば、会社が分会に対して組合事務所明渡しを申し入れたことのみをもって、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるとはいえない。 
掲載文献   

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