労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和元年(不)第12号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年9月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  本件は、組合の組合員A1の定年後の再雇用条件を議題とする計3回の団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。
 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨   本件において、組合は、A1組合員の定年後の再雇用の条件を議題とする第1回団交、第2回団交及び第3回団交において、会社が弁護士を交渉担当者としたこと及びA1組合員に提供する業務、賃金ら労働時間、労働日等について、会社が説明を行わなかったこと並びに当該各段階における会社の対応が、いわゆる不誠実団交である旨主張するので、以下順に検討する。
1 会社が弁護士を交渉担当者としたことについて
(1)組合は学説を引用し、弁護士は団交を現実に担当する者の役割を果たせる立場にないにもかかわらず、第1回団交、第2回団交及び第3回団交において、会社が弁護士を交渉担当者としていることが不誠実である旨主張する。
(2)ところで、代理人たる弁護士は、弁護士法第3条に基づき、当事者その他関係人の依頼により、法律事務を行うことを職務とし、これに関する限り、交渉等を含むあらゆる行為をすることもその職務の範囲内にあると解されるところ、団交も上記法律事務に当たるのであるから、使用者の依頼により交渉担当者として団交に出席し、交渉等をすることも弁護士の職務に含まれる。
 また、弁護士にどのような具体的な権限が認められるかは、労組法に使用者による委任を禁止し、又は制限する定めがない以上、使用者が弁護士に交渉し、処理する権限を具体的に委任した場合には、当該弁護士が交渉担当者となると解される。
(3)会社は、弁護士に団交に係る権限を委任し、交渉担当者としたことが認められるのであって、組合の主張には理由がない。
2 3回の団交を通じた会社の説明について
(1)労組法第7条第2号は、使用者が団交することを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、形式上団交が行われたものの、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって当該団交に当たったとは認められないような場合も、同号の規定により団交拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。
(2)このように、使用者には誠実に団交に当たる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団交に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対して譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、上記のような誠実な対応を通じて合意形成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。
 したがって、会社は、団交において、A1組合員に対する再雇用条件通知書で提示した労働条件について、組合との合意形成に向け、その主張を組合が理解し、納得することを目指して、その根拠を説明する必要がある。
(3)そこで、会社がA1組合員に提供する業務、賃金、労働時間、労働日等の労働条件につき、会社が団交においてどのような説明をしたかについて検討するに、3回の団交において会社が再雇用条件通知書で提示した労働条件に固執し、それに固執する理由を明らかにせず、会社としてA1組合員に提供する業務、賃金、労働時間、労働日等につき根拠となり得る理由についていかなる説明も行うことはなかったとはいえず、会社の対応が不誠実であるとはいえない。
3 団交対応について
 組合の主張に係る団交対応については、次のとおり、不誠実なものとであるとはいえない。
〔第1回団交〕
①会社に対する質問に弁護士が回答し、また、質問に回答しないことを正当化するような発言を行ったとの主張について、特定の従業員の賃金の減額幅はプライバシーに係る情報であって、個人情報であることからすれば、回答しなかったことには理由がある。
②会社に対して質問をしたにもかかわらず、弁護士が回答を提示しないように誘導するような発言を行ったとの主張について、組合からの再雇用規程の解釈に係る質問に関して、B1弁護士が回答したことが認められるが、会社が回答しないように誘導したとは認められない。
③会社に対する質問に弁護士が逆質問をし、明快な回答をしなかったとの主張について、B2弁護士の発言を含めた会社の発言は、組合の質問に対して明確な回答をしなかったと評価されるようなものではない。
④組合からの質問について、会社が回答するべきであるところ、弁護士が協議の妨げとなるような発言を行ったとの主張について、会社として回答を拒否したとまではいえず、また、会社が協議を遮ったと評価できるものではない。
⑤弁護士が、組合の主張を妨げるような発言を行ったとの主張について、B1弁護士及びB2弁護士が団交を妨害するような発言をしたとは認められない。
〔第2回団交〕
⑥組合の主張に対して弁護士が主張を続け、会社の発言が一言もないとの主張について、会社から団交の委任を受けた弁護士が、会社に代って回答を行うことについては1の(2)で判断したとおりであり、不誠実なものとはいえない。
⑦A1組合員の再雇用後の労働条件をめぐって、会社の考えを弁護士が事実上表明したとの主張について、組合が和解協定の内容や再雇用規程等の内容とA1の労働条件の内容に随分違いがある旨述べたところ、B1弁護士が「結論的な違いになってしまう」と述べたこと等が認められるが、当該発言は会社の解釈と組合の解釈が違うこという趣旨であり、加えて、今日の時点では社会保険に加入させたくないがための条件提示ではない旨のB1の発言は、第2回団交時点でのA1の定年後再雇用に係る会社からの条件提示に理解を求めたものである。
⑧会社が第1回団交において「調べる」と言ったことを調べて結果を報告しなかったとの主張について、確かに、団交において会社が組合に対して約したことについて誠実に履行することが望ましいが、その約した内容が、特定の従業員の資格の取得状況という個人情報の開示であって、会社としてはその取扱いに配慮が必要なものであり、B4部長が第2回団交時に直ちに回答をせず質問の趣旨を尋ねたことは必ずしも不適当であるとはいえない。
⑨A1組合員の再雇用後の労働条件について、弁護士が堂々巡りとなることを明言しているとの主張について、B1弁護士が「ぐるっと一周戻ってしまうようなお話をしないといけない」と発言したことが認められるが、この発言は、A1の再雇用後の労働条件における労働時間については、職務の内容を踏まえて設定しており、健康保険に加入可能な労働時間に設定するという組合の主張に応じるとなると、会社としては改めて職務内容を検討しなければならないという趣旨であると解される。
⑩団交においてB3常務の発言がなされていないにもかかわらず、団交終盤に、B3が、会社が提示した職務を拒否した場合は再雇用しない旨の再雇用制度規程内の条文を読み上げたとの主張について、会社担当者は、A1組合員の過去の実績や能力等に応じて定年後再雇用の職務を設定した旨述べるとともに、その職務を拒否した場合には再雇用しないという再雇用制度規程第9条第2項の規定を説明したにすぎないのであって、このことをもって直ちに会社が設定した職務を受け入れなければ再雇用しない旨の意思を示したとはいえない。
〔第3回団交〕
⑪B4部長が質問書に対する会社の回答を読み上げたが、回答が堂々巡りとなっているとの主張について、B4は、組合からの再検討の要求に対して、会社として理由を付して回答したのであり、その中で年次有給休暇の付与は再雇用後の労働条件に追加する旨回答していることから、可能な限り譲歩しているものと認められる。また、そもそも会社には組合の要求、主張を受け入れたり、譲歩する義務はない。
⑫弁護士が、本件協議内容を裁判所で争うしかない旨の発言を行ったとの主張について、A2委員長が愛知県労働委員会に対して申し立てる旨及び名古屋地方裁判所に提訴する旨述べたことに対して、会社代理人弁護士が「裁判所でやるしかない」等と述べたのであって、会社が団交を打ち切って何らかの法的な措置を執るという意思を示したとは認められない。
⑬弁護士が、協議が進展しないような発言を行ったとの主張について、言ったとされるB1弁護士の「ここに出ている全員の総意ですね、ここでいったん締めくくりましょう」との発言は、双方から提出されている団交記録においては確認することができず、このため、いつ、どこで発言した内容であるか、B2弁護士がにわかに判別できないのはやむを得ないのであって、B2の発言が協議の進展を妨げたと評価することはできない。
⑭弁護士が、本件協議内容について、第三者機関を入れて協議した方がよい旨の発言を行ったとの主張について、「きちっと第三者が入った方がよい」と発言したのはA2委員長であり、B1弁護士及びB2弁護士が「わかりました」と回答したのであって、組合の主張には理由がない。
4 したがって、令和元年7月16日、9月4日及び11月1日に開催された団交におけるA1組合員の定年後の再雇用の条件についての議題に係る会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

  
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