労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  山梨県労委令和元年(不)第1号
申立人  X1組合(組合)・個人X2(個人) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年2月19日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、団体交渉の開催要求に対して、複数回にわたり諸般の事情により希望日時では開催できない旨回答したこと、②申立人X2、組合員A1、組合員A2及び組合員A3に対し懲戒処分を理由とする人事考課を行い、前年同時期より低額の賞与を支給したこと、③申立人X2、組合員A2及び組合員A3に対し、会社が命じる業務への従事命令を拒否したとして懲戒処分したこと、④その他が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 山梨県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  組合の申立に係る会社の行為はいずれも労働組合法第7条に該当しない。
1 項目1(不利益取扱い関係)
①申立人X2と会社のC1従業員との間に発生したトラブルに関する申入れに対する会社の対応について、X2に対しても何らかの聴き取りがなされているといえ、他の組合に対して差別的に取り扱ったとするその余の根拠もないことから、不利益取扱いがあったと評価することはできない。
2 項目2~9(誠実団交等関係)
②平成31年2月1日に開催された懇談において、会社が30年12月19日付け組合申入書の各項目について具体的な回答を示さなかったことはあったか否かなどについて、申入書のいずれの項目も直ちに回答できるものではないことなどから、会社の対応は一概に不誠実とまではいえない。
③平成30年12月11日の団交において、社長あてに届いたとされる怪文書を開示しなかったことについて、組合が提出を要求した事実を認定できず、また、仮に怪文書が存在し、開示を要求された場合でも、個人情報の取扱いの点から十分配慮されるべきであり、開示しないことをもって不誠実な対応とはいえない。
④組合が2018年12月19日付け申入書により申し入れた項目について、会社が同31年1月17日に回答書を示し、「申入れの内容については、適切に対処する」と回答したことについて、年末年始の休暇を挟むこと、議題が短期間で回答できるような内容でないことに鑑みると、組合の求める期限を過ぎた場合でも会社の対応には正当な理由があると評価できることから、不誠実とまではいえない。
 回答についても、上記のほか、同時期に提出された要求書については一応の回答がなされていることに鑑みると、会社の対応は直ちに不誠実とまではいえない。
⑤令和31年1月18日付けの団交申入れに対して、会社が、諸般の事情により希望日程では対応できない旨回答したことについて、組合は1週間以内を希望日として指定しており非常に短期間といえ、希望通りの日程に開催できないからといって直ちに団交拒否ということはできない。
⑥組合の2019年2月19日付け及び23日付けの団交申入れに対して、会社が、諸般の事情により希望日程では対応できない旨回答し、開催が3月20日となったことについて、申入れから開催までの期間が1ヶ月以内で、相当の期間を要する内容であることなどから、団交までにある程度の期間を要することはやむを得ない。会社は申入れを不当に放置しているとはいえず、不誠実団交とは評価できない。
⑦会社が組合に対し、団交は拒否しないが、あっせん申請し労働委員会に問題解決を委ねたのであれば、予定された団交を行う意味はないと考える旨通知したことについて、「あっせん」は団体交渉と異なり労働者の労働条件を交渉する場ではないため、これに応じることを理由に団交を拒否することは不誠実な態度といえるが、会社の通知文書の「団体交渉を拒否する気持ちは毛頭ありませんが・・・」との記載や、通知翌日に団交が行われていることに鑑みれば、会社が不誠実な態度で団交に臨んでいるとはいえない。
⑧組合が2019(平成31年4月1日付けで郵送、及び3日付けで通知した文書に対し、会社が同月12日付けで文書回答したことについて、特に前者は2018年12月19日付け申入書に端を発しており、適時に対処しているとはいいがたいとも思えるが、会社が一応の回答をし、団交についても申し入れの都度応じていること、相当の期間を要する内容であることが理由として示されていることに鑑みると、会社の対応は依然として申し入れを不当に放置しているとまではいえない。また、3日付け文書に対しても質問項目に沿った形で回答がなされており、組合の当該文書の発出日を起点とすると遅いとまではいえない。
⑨2019年4月24日付けの団交申入れに対して、会社が、諸般の事情により希望日程では対応できないと回答したことについて、決して丁寧に対応しているとはいいがたいが、この間に大型連休を挟んだこと、会社の役員は毎日職場に出社しないこと、必ずしも組合が希望する日時通り開催できない具体的理由を示さねばならないとまではいえないことから、会社の対応を不誠実であると評価することはできない。
(上記③から⑨までを一連の経過としてとらえた場合の会社の対応について、一連の団体交渉経過の全体に照らして総合的に検討しても、必ずしも不誠実な団交と評価するまでには至らない。)
3 項目10~14(支配介入関係)
⑩会社のB1課長がA1組合員に対し、「事を起こして迷惑をかけるつもりじゃないだろうね」などと発言したことはあったか否かなどについて、同課長は労組法第2条第1号の「使用者の利益代表者」には該当しないが、「近接する職制上の地位にある者」といえるところ、経緯に鑑みると、本件は、組合対会社間ではなく、その実態は従業員間において生じた問題とみることができ、会社にはとりわけ組合に対し嫌悪する意思は認められないことから、当該発言は「使用者の意思を体して」なしたものとは認められず、組合に対する支配介入にはあたらない。
⑪過半数代表者の選挙の実施に関する会社の対応について、i)過半数代表者を選ぶことが組合の団交権を奪い、組合の弱体化につながるとはいえないこと、ii)仮にB2専務が投票に立ち会ったことに問題があったとしても、当該立ち合いが組合員への不利益取扱いまたは組合の弱体化につながっているとはいえないこと、iii)周知から選挙までの期間が短く組合からの延期の申し入れが拒否されたことについて、労基法の手続上、早急に過半数代表者を選出する必要性があり、ことさらに組合及び組合員に対してのみに不利益を及ぼすものとはいえないことなどから、過半数代表者の選出手続について問題はあるものの、そのことが組合の活動を妨害し、弱体化を図ったとはいえず、支配介入と評価することはできない。
⑫組合員が行った業務上の問題点の指摘、改善要望等に対する会社のB3常務の対応について、そもそも業務の遂行方法は使用者が自らの経営責任と判断の下に決定する事項であり、使用者は組合の改善策を尊重する必要はあるものの必ず採り入れなければならない義務はない上、具体的な要求内容について組合による立証がなく判然としない。よって、B3常務の対応のみで支配介入があったとするのは妥当ではない。
⑬組合によるスタッドレスタイヤでの走行に関する改善申入れに対する会社の対応について、組合の主張を裏付ける客観的証拠が認められない。
⑭従業員C2による撮影行為に関する組合の申入れに対する会社の対応について、とりわけ組合活動においては、動画撮影等による萎縮効果は到底無視し得ないことから、原則として少なくとも事前に相手方の許可を得た上で行うべきであるが、当該撮影については、時間や対象者が限られ、勤務時間中の撮影行為であり業務管理の一貫として行われていること、会社は従業員から申し入れがあったハラスメントについての事実認定の必要があり、事の性質上事前の許可を要し得ないこと等に鑑みると、動画撮影自体が組合の弱体化につながったとはいえない。
4 項目15~27(不利益取扱い・支配介入関係)
⑮B4課長補佐が組合員A2及びA3に対し、申立人X2についていると社長はボーナスも出さなくなるし給与もカットされる、人も首にする。縁を切った方がいいなどと発言したことがあったかなどについて、当該発言があったと認められるが、同補佐は「使用者の利益代表者」に「近接する職制上の地位にある者」に当たるところ、会社に組合嫌悪の意思があることは認定できない。
⑯B4課長補佐及び従業員C2が、申立人X2及びA2組合員を無視するなどしたことがあったかなどについて、i)X2らからのB4補佐によるハラスメントの申し入れに対応するため、当該職員らへの接触は業務上最小限に止め、指導・命令も可能な限り間接的に行うようB4は会社から指示されているところ、そのことが無視のように捉えられている可能性は否定できないが、事の性質上やむを得ないものであり、当該対応は使用者の雇用管理上の措置として適切といえること、ii)平成30年11月1日以降、C2従業員からX2に朝のコーヒーが出されなくなったとの主張については、会社が女性従業員からの湯茶の提供自体を取りやめていると主張する時期と一致し、ことさらにX2を無視している事実は認められない。
⑰会社のB2専務が申立人X2の挨拶を無視する行為を行ったことはあったか否かなどについて、具体的な事実の立証がなされておらず、無視したことの事実が認定できない。
⑱B4補佐がA3組合員に電話で、脅迫状の件に関して、会社の人間がこれまで7名辞めたのは申立人X2が理由であり、7人に支払った退職金はX2による会社への損害であるなどと発言したことはあったか否かなどについて、同補佐は当該発言を認めているところ、当該発言が「使用者の意を体して」なされたものといえるか検討するに、会社に組合を嫌悪する意思は認められない。
⑲B1課長が申立人X2の挨拶を無視したことがあったか否などについて、具体的な事実の立証がなされておらず、無視したことの事実が認定できない。
⑳A4補佐が、申立人X2が除雪車の練習のため他の従業員に行っていた実践指導につき、クレームを述べ実践指導を妨げたことがあったか否かなど、及び㉑実践指導を妨げたことに対する組合からの是正申し入れに対して、会社が対応しなかったことはあったか否かなどについて、1)会社に組合嫌悪の意思は認められず、加えて、補佐の行為は組合活動に対して異を唱えたものではなく、会社の業務に関し危険防止の観点から上司として指導した行為であり、必ずしも不合理とまではいえず、したがって、支配介入にあたる内容を含んでいるとは認められないことからも、「使用者の意を体して」なされたものと認定することはできない、ii)従業員への指導方法については、会社の経営に関わるものであり、使用者が自らの経営責任と判断の下、決定する事項であり、是正の必要がないと判断したとすれば、是正しなければならないものではない。以上から、会社の対応は不利益取扱い及び支配介入に当たらない。
㉒B1課長がA3組合員の朝の準備体操の様子を見て、注意や理由の確認をすることなく怒鳴り、きつい仕事や路線に行かなくてもいいなどと発言したことはあったか否かなどについて、当該発言があったと認められるが、会社には組合嫌悪の意思は認められず、発言は会社の業務に関するもので、上司としての注意ないし指導といえ、また、A3からの業務に起因する腰痛の申し出に対応するものであり、組合活動を妨害する意図は認められない。したがって、当該発言には支配介入にあたる内容を踏んでいるとは認められないことからも、「使用者の意を体して」なされた行為とはいえない。
㉓B4補佐が11名分の組合脱退届を組合事務所に持参し、その際A4委員長に対し、申立人X2がハラスメントをしている、復職の動きには同意できない、受け取らないと困るなどと発言したことについて、同補佐は脱退届の作成に関与・主導したという証拠は認められず、また、会社に組合を嫌悪する意思は認められないことから「使用者の意を体して」脱退届を持参し、一連の発言をしたとはいえない。
㉔A1課長が、申立人X2に対し、清掃車の管理に関してX2がC3従業員に対し注意したことについて、当該従業員から、X2から言われると胸が苦しくなるため直接言わないよう注意してほしいとの要望があった旨発言したことについて、当該従業員からX2の言動につき相談があり、会社は職場環境配慮義務の一環として(労働契約法第5条)何らかの措置を講じなければならないこと等から、組合の主張を採用することはできず、当該発言は不利益取扱い及び支配介入には当たらない。
㉕申立人X2及びA3組合員が会社に除雪作業について話し合いを求めたが、話し合いがなされなかったことについて、X2らとB5副理事長との話し合いの場が持たれるなどから、全く無視したとする組合の主張は採用できず、また、そもそも使用者は従業員からの申し入れを尊重し、誠実に検討することは要するが、必ずしも要求や主張を容れたり、譲歩しなければならない義務はなく、問題となっている除雪作業における危険性についても使用者がその経営責任のもと判断するものであり、申し出が受け入れられないことが直ちに無視とは評価できない。
㉖平成31年4月1日から業務体制を変更したことについて、i)業務体制や担当業務の変更については、従業員の意向を確認し、尊重することは重要とはいえるものの、最終的には経営者たる使用者が自らの責任と判断の下に決定する事項であること、Ⅱ)当該業務の変更は組合員のみでなく全従業員を対象とするものであること、ⅲ)平成28年度まで採っていた業務体制に戻すものにすぎないことから会社に反組合的な意思は認められない。
㉗〔㉘について先に判断の上で〕申立人X2、組合員A2及び組合員A3は懲戒処分を受けたことによるD査定、A1組合員はトンネル作業への従事命令を拒否したことによりC査定となっており、冬季賞与についても低額の支給が認められるところ、i)当該人事考課は就業規則等に則って実施していると認められること、Ⅱ)社会通念上も懲戒処分を受けた以上、処分に基づき人事考課を受けるのは当然といえ、ⅲ)賞与の減額の幅についても1割から2割の範囲内に収まり、処分内容から比しても不当に減額していることはいえないことから正当な手続に則ってなされた人事考課、冬季賞与の減額といえ、かかる一連の行為は不当労働行為意思に基づくものとは認められない。
5 項目28~30(不利益取扱い・団交拒否・支配介入関係)
㉘令和元年5月23日以降に実施のトンネル清掃作業に係る業務指示に始まり、同業務に従事しなかった申立人X2、A2組合員及びA3組合員の処分に至る会社の一連の行為について、
・トンネル作業の危険性を理由とする組合員らの時間外命令に対する業務拒否については、i)本件において組合員らは時間外労働義務を負っていること、ii)組合員のいう危険性は依然抽象的で論理性が乏しく、トンネル作業自体の拒否を正当化できるほどの具体的危険性を認めるに足る証拠はないこと、iii)勤務時間中の組合活動については、会社の業務の正常な運営を阻害する場合は、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務に反し正当性を有しないところ、本件についてみると、他の従業員の補充により業務が行われ、1時間程度の遅れが認められるなど、会社の業務の正常な運営を阻害していることから、「正当な」組合活動とはいえず、不利益取扱い禁止により保護され得るものとはいえない。
・本件は、i)就業規則に基づいた処分であること、ii)再三の業務指示にもかかわらず業務拒否を5回にわたり繰り返し、その都度事後に口頭注意もなされていること、iii)処分にあたり弁明の機会も付与されていること、ⅳ)内容についても譴責であり、戒告に次ぐ軽微な処分であり、時間外業務命令違反という非違行為に比して特段重い処分とはいえないこと、ⅴ)当該作業が安全かどうかについては、最終的には使用者が決すべき事項であり、労働者はそれに服すべき義務があること等に鑑みると、本件懲戒処分は適正に行われたものといえ、不当労働行為意思に基づくものとは認められず、支配介入とはいえない。
・交渉中にもかかわらずトンネル作業を実施したことについて、Y5補佐と作業することの危険性が認められないこと、会社の主要業務の一つであること、警備員の配置や道路の規制もあり延期は困難なこと等からすると、不誠実な交渉態度とはいえず、団交拒否及び不誠実な交渉態度にあたらない。
㉙組合の令和元年7月19日付け要求書に対し会社が8月20日に回答したこと、及び㉚令和3年8月9日に組合が団交申入書を持参した際の会社の一連の対応について、i)同月9日の団交申入書の提出から回答までの期限が同月16日までと短いこと、ⅱ)この間組合会社間で協議の場を持ったこと、ⅲ)当該協議の場では「立ち入ったコミュニケーションが取れた」ことを組合も認めていること、ⅳ)お盆期間を挟んでいること、ⅴ)同月20日には回答がなされていること等に鑑みると、会社としても申し入れ書について漫然と放置していたとはいえず、またトンネル作業について延期による対応も難しいといえる。その他、とりわけ不当労働行為意思を認定できるような証拠も認められない。 
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