労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和2年(不)第32号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年10月12日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①執行委員長など計10名の組合員を雇止めしたこと、②組合が申し入れた雇止めの撤回などに係る団体交渉について、組合は労働組合法上の労働組合ではないなどを理由として団体交渉に応じないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号、第3号及び第4号に、②について同条第2号及び第3号に、それぞれ該当する不当労働行為であると判断し、(i)A1らの雇用契約が令和2年4月1日以降も継続しているものとしての取扱い、(ii)同人らをそれまで就けていた職又はその相当職に就けること、(iii)バックペイ、(iv)組合からの令和2年2月5日付け要求書等に係る団体交渉申入れへの応諾、(v)文書の手交及び掲示を命じた。
 
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合員A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9及びA10の雇用契約が、令和2年4月1日以降も継続しているものとして取り扱い、同人らをそれまで就けていた職又はその相当職に就けるとともに、同人らに対し、令和2年4月1日以降、それまで就けていた職又はその相当職に就けるまでの間、同人らが就労していれば得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。
2 会社は、組合からの令和2年2月5日付け要求書、同年3月2日付け要求書、同月9日付け要求書、同月25日付け要求書及び同年4月30日付け要求書に係る団体交渉申入れに応じなければならない。ただし、令和2年度の人員配置及び雇止め撤回に係る事項は除くものとする。
3 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交するとともに、縦2メートル✕横1メートル大の白色板に下記の文書と同文を明瞭に記載して、会社本社、D支店及びE営業所の従業員の見やすい場所に4週間掲示しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長A1様
Y会社      
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)当社が貴組合員A1氏、A2氏、A3氏、A4氏、A5氏、A6氏、A7氏、A8氏、A9氏及びA10氏の雇用契約を、令和2年3月31日をもって終了としたこと(1号、3号及び4号該当)。
(2)当社が、貴組合からの令和2年2月5日付け要求書、同年3月2日付け要求書、同月9日付け要求書、同月25日付け要求書、同年4月1日付け雇止め撤回要求書及び同月30日付け要求書に係る団体交渉申入れに応じなかったこと(2号及び3号該当)。
 
判断の要旨  1 本件組合員10名の雇用契約が令和3年3月31日をもって終了したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点1)
(1)組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか
ア 本件組合員10名について、契約更新の合理的な期待が認められるといえるか
 本件組合員10名の雇用契約は1年間の有期雇用契約ではあるものの、従事していた指導員業務は、本件児童クラブの業務において恒常的に必要なものであり、また、本件児童クラブを運営するにつき、本件組合員10名は基幹的な役割を担っていたことからすると、本件児童クラブの委託期間中は、雇用期間終了をもって直ちに雇用契約を終了させることを予定していたとはいい難い。
 また、本件児童クラブ業務の委託契約の内容や、会社説明会における説明内容、さらには本件組合員10名がE市の非常勤嘱託職員の指導員として長期間勤務していたこと等からすると、本件組合員10名にとって、雇用契約更新の期待は、極めて強いものであったといえる。そして、会社自身、本件組合員10名が会社と雇用契約を締結するに当たって、長期間の雇用を期待させる言動を行い、令和2年3月23日及び24日に、雇用契約を同月31日をもって終了する旨の通知書を交付するまでは、契約更新を期待させる言動を行っていたといえる。
 そうすると、会社がE市から本件児童クラブの業務を委託している期間中は、本件組合員10名に、雇用契約が更新されることにつき、合理的期待が存在したとみるのが相当である。
イ A1執行委員長以外の組合員について、会社が組合員であると認識していたか
 会社は、組合から役員名簿の通知がなく、また、組合員名簿の提出もないため、A1執行委員長以外の役員及び組合員の存在は不知である旨主張する。
 しかし、会社は、A7副執行委員長、A3書記長及びA6書記次長について、同人らの組合での役職を認識していたと見るのが相当であり、A2については組合員であると認識していたことは明らかであり、さらにA4、A5、A8、A9及びA10についても、会社は組合員であることを容易に推認できたことなどを考え合わせると、会社主張は採用できない。
ウ 会社が本件組合員10名の雇用契約を終了させたのは、組合員であることが理由であるといえるか
 本件児童クラブの指導員のうち、組合の組合員で雇用継続を希望したのが34名であり、このうち契約更新されたのは22名であったこと、非組合員で雇用継続を希望したのは39名でありこのうち契約更新されたのは38名だったことが認められる。そうすると、契約が更新された指導員の割合は、組合員は約64.7%、非組合員は約97.4%であり、かかる状況をみると、組合員の約3分の2が契約更新されたものの、契約更新について組合員と非組合員とでは有意の差があるといえる。
 そして、組合員の中でも、契約更新されなかったのは、組合活動を行っていた組合員や雇用期間中に新たに組合に加入した組合員であったのであり、これらのことからすると、会社は、組合活動を行っていた組合員や雇用期間中に新たに組合に加入した組合員を標的として、契約更新しなかったとみるのが相当である。したがって、会社が本件組合員10名の雇用契約を更新しなかったのは、組合活動を行っていたことを理由としたものとみるのが相当である。
 また、別件訴訟〔注本件組合員10名が、会社を被告として大阪地方裁判所に提起した、雇用契約上の地位確認等を求める訴訟〕会社準備書面からは、会社が、本件組合員10名が組合の中心メンバーとして組合活動を行っていたと認識していたことが窺えるし、また、組合方針に沿った言動を行っていたことをもって、労働者の義務を誠実に履行することは期待できない旨記載していることからすると、会社が、本件組合員10名の組合活動を理由に雇用契約を終了させたことが窺える。したがって、同書面の記載からも、会社が本件組合員10名の雇用契約を終了させたのは、同人らが組合活動の中心的な役割を担っていたことが理由であったことが窺える。
エ 会社が本件組合員10名の雇用契約を終了させた理由について
 雇用期間満了との点についてみると、本件組合員10名について、契約更新につき合理的な期待が認められることは前記アの判断のとおりであり、したがって、会社は、本件10名の雇用契約を終了させるには、雇用期間満了というだけではなく、合理的な理由が必要であるというべきである。
 次に、本件組合員10名に対する注意書についてみると、①令和2年1月8日にA6に対し、同年3月11日から13日にかけてそれ以外の9名に対し、支店長が注意書を交付したこと、②注意書には組合員の行為を列挙するとともに、当該行為が懲戒処分に該当する旨の記載があることが認められる一方、③会社から、注意書に記載されている組合員の行為が事実であるとの疎明はなく、④注意書には交付日から数か月前の事項も記載されているところ、会社が各組合員に対して注意書を交付するまでの間に、A10の保護者会総会の便りの件以外で、事情聴取や指導を行ったとする疎明もない。
 そうすると、そもそも、本件組合員10名の注意書の記載内容につき、事実関係が判然としない上、各組合員に事情聴取もせずに注意書を交付しているのは拙速すぎる対応であるといえるし、会社は、交付日より数か月前の事項も問題視する一方で、A6書記次長以外の組合員については、ほぼ同時期に注意書を交付しており、かかる会社の対応は、不自然といわざるを得ず、これらのことを考え合わせると、注意書は、会社が、本件組合員10名の雇用契約を令和2年3月31日をもって終了させる合理的な理由にはならない。
オ 労使関係について
 当時、組合と会社とは、組合の要求書に対する対応を巡り対立関係にあったとみるのが相当である。
カ したがって、本件組合員10名の雇用契約が令和2年3月31日をもって終了したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。
(2)不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか
 会社は、本件組合員10名への注意書の交付を終えたのと同時に、元-30事件〔注令和元年9月11日に組合が大阪府労委に対して行った不当労働行為救済申立て〕の結審後であるにもかかわらず、同事件における審査手続等を批判するとも言い得る書面を当委員会に提出し、さらには、同事件会社文書により、執行委員長との雇用関係が終了したことを理由に、同人は申立人当事者の適格がなくなったとして同事件を却下するよう当委員会に求めており、かかる会社の対応をみると、会社は同事件を意識しつつ、本件組合員10名の雇用契約を終了させたとみるのが相当である。このことに、会社が嫌悪した組合活動には同事件の申立ても含まれるとみるのが相当であることも考え合わせると、本件組合員10名の雇用契約が令和2年3月31日をもって終了したのは、不当労働行為救済申立てを行ったことを理由になされた不利益取扱いであるとみるのが相当である。
(3)組合に対する支配介入に当たるか
 会社は、組合活動の中心をなす組合四役について、本件通知書の交付以前に退職を申し出ていた2名を除くと、全員、雇用契約を終了させたのであるから、これにより、組合の運営や組合活動に支障が生じるのは明らかである。したがって、本件組合員10名の雇用契約を終了したことは、組合に対する支配介入にも該当する。
(4)ところで、会社は、本案前答弁として、本件申立てと別件訴訟は趣旨同一であるとして、当委員会において整理することを求めるが、そもそも主張が趣旨不明である上、本件申立てと別件訴訟は、審査する機関が異なることはもとより、当事者、根拠法令、制度も異なり、当事者が主張・立証すべき事項も、地位確認訴訟と異なることから、同一ではないことは明らかであり、会社の主張は採用できない。
 また、会社は、当委員会に対し、組合について組合資格審査を行うよう求めているようであるが、組合資格審査の決定は救済命令を発するまでにされていれば足りると解するのが相当である。なお、当委員会は、本件申立てに係る組合資格審査について、令和3年9月22日の公益委員会議において、組合が労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合する労働組合であることを認め、その旨決定した。
(5)以上のとおりであるから、本件組合員10名の雇用契約が令和2年3月31日をもって終了したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるのであって、労働組合法第7条第1号、第3号及び第4号に該当する不当労働行為である。
2 組合の本件要求書に係る団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか(争点2)
(1)組合は、2.2.5要求書、2.3.2要求書、2.3.9要求書、2.3.25要求書、2.4.1要求書及び2.4.30要求書(以下「本件要求書」)の要求事項について団交を申し入れたといえるところ、各要求書に記載された要求内容についてみると、いずれも組合員の労働条件や待遇及び団体的労使関係の運営に関連しており、義務的団交事項に当たることは明らかである。そこで本件要求書に対する会社の対応についてみる。
① 2.2.5要求書に対する対応について、会社は、組合に組合規約等の提出を求め、「適法な労働組合」であることを明確にすることを団交開催の条件とする対応を取っていたといえる。しかしながら、労働組合法上、労働組合は団交に先立って使用者に対して労働組合規約を提出する義務を負っておらず、組合が組合規約を提出しなかったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とはならない。
 また、会社回答書のいう「適当な労働組合」を労働組合法第2条及び第5条に適合する労働組合のことであると解して、以下、検討すると、同法第2条及び第5条は、不当労働行為救済制度の保護を受けるに際して、これに適合することが要件となることを規定するのみで、団交応諾義務の存否自体に関わるものではない。したがって、組合が同法第2条及び第5条に適合することを明らかにしなかったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とはならない。
② 2.3.2要求書及び2.3.9要求書に対する対応について、組合が組合規約等を提出しなかったとしても、そのことをもって、団交に応じない正当な理由とはならない。また、会社は、要求書の内容が会社の業務に関する専決事項であるとして、団交に応じる必要はないとしていると解せるが、要求書の内容が義務的団交事項であることは前記判断のとおりであり、会社に団交義務があるのは明らかである。
③ 2.3.25要求書に係る団交申入れに対する対応について、2.3.30組合通知書に対する会社の2.4.10回答書には、仄聞によると、組合の総会が行われておらず、規約の改正審議も行なっていない、とのことである旨、規約改正の経緯や手続等について文書を持って具体的に回答するよう求める旨の記載があることが認められ、これらのことからすると、会社は、組合規約の改正手続に疑義があるとして団交に応じていないといえる。
 しかしながら、そもそも、労働組合は、団交に先立ち、使用者に対して組合規約を提出する義務を負っていない上、労働組合法第5条第1項及び労働委員会規則第22条は、団交に先立ち、労働組合が、使用者に対し、組合規約が労働組合法第5条第2項の規定に適合していることを立証しなければならないと定めているものではない。したがって、仮に、規約改正の手続に不備があったとしても、また、改正手続の不備のために組合規約に同法の規定に適合しない点があったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とすることはできない。
④ 2.4.1要求書に係る団交申入れに対する対応について、会社は、雇用関係が終了していることを理由に、2.4.1要求書に係る団交に応じていないとみることができる。しかしながら、組合は2.4.1要求書で本件組合員10名の雇止めが不当であるとして、雇止めの撤回を求めており、当該雇止めについて争われている限り、本件組合員10名と会社との間の労働関係は確定的に消滅したものとはいえず、会社は、本件組合員10名の雇止めに関して、団交に応じる義務があると解される。
 また、会社は、元-30事件の再審査申立てをしていることも団交に応じない理由としているが、再審査申立てをしたことをもって、会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。
⑤ 2.4.30要求書に対する対応について、会社は、要求書の要求内容を既に履行したことをもって、団交に応じないと回答しているように解される。しかしながら、組合は、給与支給が遅れた経緯、理由や4月分の正しい給与明細の内容について、団交で説明することを求めているのであるから、組合の求めに応じて給与を振り込んだり、支払明細書を本人に郵送したことのみをもって、団交において協議すべき事項が消滅したとまではいえない。
(2) ところで、会社は、これまで団交が開催されなかった理由について、本件で問題となっている団交申入書や申入れの経緯等と中労委で問題となっているそれらは異ならない、よって再審査準備書面及び最後陳述書のとおりである旨主張する。しかしながら、本件で問題となっている団交申入における組合の要求事項及び申入れに至る経緯並びに団交申入れに対する会社の回答等が、中労委で問題となっている、即ち元-30事件で問題となったそれらと異なることは明らかであり、また、同準備書面等のどの部分が、本件において団交が開催されなかった理由であると主張するのかが判然としない。したがって、同準備書面及び最後陳述書の内容を検討するまでもなく、この点に関する会社の主張は採用できない。
(3)以上のとおり、会社は、本件要求書に係る団交申入れに対し、正当な理由なく応じなかったのであり、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(4)また、会社は、本件要求書に係る団交申入れに応じていないのであるが、この間、組合は、会社の求めに応じて、本来は提出義務のない組合規約や元-30事件組合資格審査決定書を会社に送付し、団交開催のために、会社に対して譲歩の姿勢を示している。一方、会社は、組合が自らの求めに応じたにもかかわらず、正当な理由もなく、団交を拒み続けているといえ、このような会社の対応は、労働組合たる組合の存在を否定し、組合の団結権を否認するものといわざるを得ない。したがって、本件要求書に係る会社の対応は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
  
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