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概要情報
事件番号・通称事件名  埼玉県労委平成31年(不)第1号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和3年4月22日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社及びY2会社が、組合に対し、①平成30年10月23日の団体交渉において、出席人数及び参加者の制限を行ったこと、②組合からの春闘賃上げ要求に対し、他労組と異なる解答を行ったこと、③前記②に対する抗議への対応、④宛先、回答者、回答日等の記載された文書形式による回答を拒否していること、また、組合の組合員に対し、⑤雇止めを行う旨を文書で通知したこと、⑥平成31年4月1日に基本賃金を昇給させなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 埼玉県労働委員会は、Y2会社に関し、①、③及び⑤について労働組合法第7条第2号及び第3号、②について同条第1号及び第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、Y2会社に対し文書の手交を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y2株式会社は、本命令書受領の日から7日以内に、下記内容の文書を申立人X組合に手交しなければならない(下記文書中の年月日の欄には、申立人が申立人に手交する日を記載すること。)。
令和 年 月 日
 X組合
  執行委員長A1様
Y2株式会社   
代表取締役B 1
 当社が、行った下記の行為は、埼玉県労働委員会において、労働組合法第7条の不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
1 平成30年10月23日の団体交渉において、貴組合の参加人数や参加者を制限したこと(第2号及び第3三号)。
2 平成30年の春闘賃上げ要求について、貴組合に対して、他労組と異なる回答を行ったこと(第1号及び第3号)。
3 貴組合からの前項への抗議に対し、誠実に対応しなかったこと(第2号及び第3号)。
4 A2に平成31年2月22日に雇止めを通知したことについて、貴組合に対して、文書で謝罪しなかったこと(第1号及び第3号)。
2 申立人の平成30年1月31日に行われた団体交渉に係る申立ては、却下する。
3 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 Y2会社について
(1)平成30年10月23日の団体交渉において、Y2会社が、組合の参加人数や参加者を制限したことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。当たる場合、救済利益があるか。(争点1)
ア 団体交渉の進め方に関して、労働組合が、団体交渉に出席する者の人数を何名とするのか、誰を出席させるのかという事柄は、労働組合においてする自主的な判断に委ねられるべき性質のものであり、労使慣行や労使間の合意等によって、実効性ある団体交渉の実現のための合理的な理由が認められない限り、使用者において、制限することは許されないと言うべきである。
 よって、組合とY2会社との間に、組合側の出席者は3名以内とし、全てY2会社の社員かつ組合の組合員とする労使慣行及び合意があったと認められるのかを判断するに、そのような労使慣行や合意が成立していたとは認められない。
 以上からすると、Y2会社が、組合側の人数及び参加者を制限することに、実効性ある団体交渉の実現のための合理的な理由があったとは認められない。
イ Y2会社は、C1ユニオンの組合員であるC2及びC3の参加は認められないとし、回答書による回答を行わなかった。この時間は、1時間50分程度であった。そして、B3総務部長は、C2及びC3が退席した後、回答書を組合に交付し、A3及びA4を出席者として、回答書による回答を行ったが、この時間は、わずか10分程度にすぎなかった。かようなY2会社の対応は、団体交渉拒否もしくは不誠実団交に当たると言え、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
ウ Y2会社とD労組の間では、団体交渉における人数及び委任者につき、組合側の出席者は、人数は3名以内であり、全てY2会社の社員かつ組合の組合員とする協約が締結されていたことが認められる。
 会社が、組合の参加人数や参加者を制限したことは、他組合との労働協約の規定と同様なルールを、組合に対し適用しようとするものにほかならず、組合への支配介入に当たると言うべきであるから、同条第3号の不当労働行為に当たる。
(2)平成30年4月、賃金改定に関し、Y2会社が、組合に対し、D労組に行った回答と異なる内容の回答を行ったことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか。当たる場合、救済利益があるか。(争点2)
ア 本争点は、平成30年4月、Y2会社が、社内の2つの組合(組合及びD労組)に対し、ほぼ同時に、団体交渉の申入れに対する回答書を交付したところ、賃金改定に関し、D労組に対して、会社の正式決定を回答したにもかかわらず、組合に対しては、現行どおりとの会社の正式決定と異なる回答(以下「本件回答」)をしたことについて、不当労働行為の成否が争われているものである。
イ 本件回答を行ったことに係る不当労働行為意志の存否について
 Y2会社は、本件回答を行ったことは、事務処理上の過誤にとどまる旨主張するが、Y2会社は、それを裏付ける具体的な事実の主張及び立証を尽くしていない。
 また、本件回答が単なる事務所の過誤にとどまるのであれば、過誤送付行為が発覚し次第、組合に対し、その旨を連絡し、訂正もしくは撤回するのが自然であると言えるが、Y2会社が現在までそれらを行っていないこと等から、本件回答は、Y2会社が、組合に対し、反組合的な意図又は動機に基づいて、意図的に行ったものと推認でき、本件回答を行ったことは、不当労働行為意思に基づくものと言うべきである。
ウ 本件回答を行ったことが、労組法上の不利益取扱いに当たるかについて
 Y2会社は、平成30年4月19日、組合の組合員を含む一般社員に向けてベースアップを実施する旨が周知されており、組合活動に関する現実的、具体的な不利益は認められないなどと主張する。
 しかし、併存組合状態においては、組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取り扱いを受けること自体が組合にとっての不利益であるから、組合活動に対する現実的、具体的な不利益がなくても、差別的な取扱いを受ければ「不利益取扱い」に当たると言うべきである。
 以上から、Y2会社の行為は、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。また、正当な労働組合活動に対する妨害行為であるとも言えることから、同条第3号の不当労働行為に当たる。
(3)平成30年10月23日の団体交渉において、組合が、他労組と異なる回答に対する謝罪や撤回・訂正を求めたにもかかわらず、Y2会社が、「信義誠実の原則に基づき対応している」旨の回答をしたことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。当たる場合、救済利益があるか。(争点3)
 Y2会社は、当該回答は、もとより、今後、同じような過ちを繰り返さないように誠実に対応していくことを約するものであり、組合に誤った内容の従前回答を発送したことについての反省を含むのであったと主張するが、Y2会社から組合に対し、真摯な反省に基づく行為と認め得る具体的な行為が行われた事実は認められない。
 Y2会社の対応は、不誠実であったと言え、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。また、同年10月23日の団体交渉において、「信義誠実の原則に基づいて対応している」旨の回答をしたことは、組合活動への軽視、ひいては組合運営への妨害に当たり、同条第3号の不当労働行為に当たる。
 
(4)平成30年10月23日及び平成31年1月10日の団体交渉において、Y2会社が、組合に対する回答文書の形式を変更しない旨回答し、回答文書の形式を従前の形式から変更しなかったことは、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。当たる場合、救済利益があるか。(争点4)
 組合は、会社が従来から組合に交付してきた宛先等のない回答書は、回答書としての形式を満たさない旨主張するところ、団体交渉における申入れに対する回答書は、少なくとも文書及びこれに付随する事情により、回答主体、回答日時、宛先が読み取れなければならない。
 従来からの回答書には、回答日時が記載されていない点で形式に問題があると言えるが、①申入れをした日時、回答書が交付された日時等によって、おおよその回答日時が推測でき、さらに、②従前からの形式の回答書を正式な文書とする労使慣行があったものと認められることからすると、従来からの形式の回答書は、回答書としての形式を満たしていると言うべきである。また、会社は回答書の形式にかかる議題そのものを拒否しているものではない。
 したがって、会社の対応は、労組法第7条第2号や同条第3号の不当労働行為には当たらない。
(5) A2に対する雇用契約不更新の通知について(争点5)
ア 会社は、A2に対し、①平成30年5月17日に会社施設内に組合のビラを置いたとして、同月28日に口頭注意の指導を行い、②同年7月20日に勤務しないで帰宅したことを無断欠勤とし、社員として著しく不都合な行為であるとして、同年12月6日に訓告を行った後、これら勤務成績を理由に、A2を、雇止めにすることを決定し、平成31年2月22日に雇止めの意思表示を行ったことが認められる。
イ ビラ置きについて
 A2が平成30年5月21日、会社内のビラ配布等の禁止を徹底する旨の文書が掲示され、夜間点呼終了後に、A2とB3所長とのやりとりで「私が置いた。みんなに見てみらいたいから置いた。何が悪い。」などと発言したことが認められるが、同所長とA2との間において、ビラ置きの日にちについてのやりとりがなされていないこと等からすると、当該発言をもってA2が本件ビラ置きを自認したとまでは言えず、また、同日に休憩室にビラ置きがあったことを認定する客観的証拠はない。
 よって、A2が本件ビラ置きをした事実を認めることはできず、口頭注意の前提となる事実認定に誤りがあったものと認められることから、「ビラ置きによる口頭注意」は、A2を雇止めにする理由にはならないと言うべきである。
ウ 無断欠勤について
 A2は、当日、事務所に出勤したものの、〔作業責任者〕B5の言動に激昂し、同僚に「気分が悪いから帰る」とのみ告げ、勤務しないで帰宅したことが認められる。
 組合は、「本件欠勤は、就業規則に反する欠勤ではないうえ、作業責任者であるB5とのトラブルによるものであり、会社のA2に対する訓告は相当でない」などと主張する。しかし、①A2が行う予定であった業務は、鉄道車内における3人一組で行う清掃業務であり、激昂し、注意が散漫になったとしても、なお行うことができたと認められるので、やむを得ない事情があったとは言えないこと、②事業所には上司であるB5 がおり、帰宅することを伝えることは可能であり、事前の手続をとることができない場合であったとも言えないことなどから、本件欠勤は無断欠勤に当たる。
 訓告自体の相当性を判断するに、①本件欠勤が就業規則上の無断欠勤に当たること、②訓告は就業規則における懲戒ではなく、「懲戒を行う程度に至らないもの」であることから、A 2を訓告にしたことは不当に重いとは言えない。
 次に、本件欠勤からA 2に訓告が伝えられるまでに4か月以上かかっていることが認められるが、そのことをもって、反組合的な意図又は動機に基づいて、意図的に訓告がなされたものとは言えない。
エ 雇止めの相当性
 そこで、「ビラ置きによる口頭注意」がA2を雇止めにする理由にならないことを前提に、同人を雇止めすることの相当性について判断する。
 A2は、契約期間の満了毎に当該更新を重ねており、本件雇止め通知が発出された当時、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となっていたと言えるから、A2を雇止めにするには、解雇の場合と相応の客観的で合理的な理由が必要と言うべきである。
オ A2の勤務態度
 A2の勤務態度について、B4事業所長は、作業責任者からの細かい指示に従わない頻度について「まあ、2、3か月に1回ぐらいですかね」などと証言している。また、B5は、陳述書において、「会社に対する苦情が多く、また、機嫌の良くないときなど、腹を立てて突然キレルこともあるため、事業所内には折り合いのよくない社員もおり、優良とは言えません」と記載するが、尋問において、社内の勤務評価制度はなく、A2の勤務態度を上司としては評価しておらず、「優良とはいえません。」という評価は、個人の意見である旨を証言している。これらから、本件無断欠勤以外に勤務成績に悪い影響を及ぼす勤務態度はなかったものと言える。
 このことと、懲戒に至らない処分で雇止めになった事例との比較からすると、A2の雇止めについて、解雇の場合と相応の客観的で合理的な理由は認められず、相当であるとは認められない。
 そして、①会社は本件雇止め通知を発出した当時、A2の無期転換申込権の発生時期を過誤により平成31年4月以降と認識していたこと、②A2は、同年2月18日、B4所長に対し、〔30年4月に続き〕再度、無期転換申込みについて話をし、本件雇止め通知が発出されたのは、この僅か4日後であることが認められること等から、会社は、反組合的な意図又は動機に基づいて、意図的に、組合の組合員であるA 2に対し、雇止めの意思表示を行ったものと推認でき、かかる会社の行為は労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たる。
カ また、かかる行為は、組合の正当な労働組合活動に対する妨害行為であるとも言えるから、同条第3号の不当労働行為に当たる。
(6)A2の賃金の据置きについて(争点6)
 A2が、平成31年4月1日の無期労働契約開始時、「無断欠勤による訓告」を理由に、基本賃金の等級が契約社員3級から同2級に据え置かれたことについて、その相当性について検討する。
 就業規則上、契約期間内の勤務成績の評価によって、3級から2級に昇級しないことがあるとされ、また、無断欠勤が勤務態度として勤務成績評価の際に考慮される事実であることは明らかであり、平成27年度から31年度にかけて、勤務成績等により、契約更新時に昇給しなかった契約社員12名の状況をみても、平成30年7月20日の無断欠勤を理由とする本件等級据え置きは相当であると言える。したがって、本件等級据置きは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらない。
2 Y1について 
 上記の1から6までの各事項について、Y1は使用者に当たるか。使用者に当たる場合、それぞれ不当労働行為に当たるか。
 また、不当労働行為に当たる場合、上記の1から5までについて、救済利益があるか。(争点7~12)
 以下、各争点におけるX2会社の行為ごとに、Y1会社が、労組法第7条の使用者に当たるのか、すなわち、Y2会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったのかを判断する。
① 平成30年10月23日の団体交渉において、Y2会社が、団体交渉等の人数等を制限したこと(争点7)
④ 平成30年10月23日及び平成31年1月10日の団体交渉において、Y2会社が、組合に対し、回答文書の形式を変更しない旨回答し、回答文書の形式を従前の形式から変更しなかったこと(争点10)
 〔Y2会社〕B3総務部長が、平成30年10月23日の団体交渉において、団体交渉の参加人数について、今までと違うことをするのであれば、この場では決定できない、グループの中で仕事をしているのだから、などと述べ、さらに、これまでやってきたやり方をこの場で変更することはできない、持ち帰って検討する、Y2会社はY1グループの会社である、などと述べたことが認められる。
 また、組合は、同部長が、同年11月30日の組合との電話のやり取りにおいて、同年10月23日の団体交渉において検討事項となっていた団体交渉の参加人数や回答文書の形式等については、Y1会社本社に相談しているものの、返答が得られていない旨述べ、Y2会社が、Y2会社の方針指示を待っていることを主張するなどしている。
 しかしながら、これら事実をもって、それぞれの争点のY2会社の行為について、Y1会社が、その対応方針をY2会社に対して指示していたと認定することはできない。
② 平成30年4月、賃金改定に関し、Y2会社が、組合に対し、D組合に行った回答と異なる回答を行ったこと(争点8)
③ 平成30年10月23日の団体交渉において、組合が、総第131号をもって、他労組と異なる回答に対する謝罪や撤回・訂正を求めたにもかかわらず、会社が「信義誠実の原則に基づき対応している」旨の回答をしたこと(争点9)
⑤ Y2会社が、無期転換の申込みをしていたA2 に対し、雇用契約を更新しない旨を平成31年2月22日付で通知したこと(争点11)
⑥ Y2会社が、平成31年4月1日の契約更新時に、A2の基本賃金を契約社員2級へ昇級させなかったこと(争点12)
 いずれも、組合は、Y2会社の行為について、Y1会社が、「Y2会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあったことを裏付ける具体的な主張、立証を一切していない。
 以上により、Y1会社についての組合のいずれの申立てについても、Y1会社は、労組法第7条の「使用者」には当たらない。
 
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