労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  静岡県労委令和元年(不)第2号
伊藤車輌不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年3月25日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A1をC店舗から本社へ人事異動させたこと、②A1に対し平成30年冬季一時金及び令和元年夏季一時金を減額支給したこと、③組合員A2に対し令和元年夏季一時金を減額支給したこと、④A2に対して脱退勧奨を行ったこと、⑤A1に対し令和元年冬季一時金を減額支給したこと、⑥A2に対し令和元年冬季一時金を減額支給したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 静岡県労働委員会は、①、②及び③について労働組合法第7条第1号及び第3号、④について同条第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)A1に対する人事異動の撤回と原職復帰、(ⅱ)A1及びA2に対するバックペイ、(ⅲ)会社で勤務する組合の組合員に組合脱退を勧奨するなどして、組合の自主的運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合員A1に対して行った平成31年3月26日付の人事異動を撤回し、同組合員を原職に復帰させなければならない。
2 会社は、組合員A1に対し、平成30年冬季一時金として、3万4500 円及びこれに対する平成30年12月23日から支い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被申立人は、組合員A1に対し、令和元年夏季一時金として、6万2000円及びこれに対する令和元年7月1日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 会社は、組合員A2に対し、令和元年夏季一時金として、2万6000円及びこれに対する令和元年7月1日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 会社は、会社で勤務する組合の組合員に組合脱退を勧奨するなどして、組合の自主的運営に支配介入してはならない。
6 会社は、本命令書受領後、速やかに、下記の文書を組合に手交しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
執行委員長 A5 様
株式会社Y     
代表取締役 B1
 当社が行った下記の行為は、この度、静岡県労働委員会にて、不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
1 当社が、平成31年3月26日付で、組合員A1(以下「A1」という。)を浜松市D区C町に設置されているC店から、浜松市E区F町に設置されている本社へ人事異動させたこと。
2 当社が、A1に対し、平成30年冬季及び令和元年夏季一時金を減額支給したこと。
3 当社が、組合員A2(以下「A2」という。)に対し、令和元年夏季一時金を減額支給したこと。
4 令和元年12月25日に、当社前社長B2がA2と面談を行い、脱退勧奨を行ったこと。
7 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 平成31年3月26日付けA1の人事異動について
(1)本件人事異動が不利益取扱いに当たるか
 A1が、C店から本社に異動したことにより、その職務内容や賃金に変動はなく、また、両店は近接していて通勤の負担も変わらなかったと認められるから、本件人事異動によりA1自身に具体的な不利益が発生したとまでは認められない。
 一方、組合に対する不利益の発生について検討するに、本件人事異動は、組合が組織化されてから4か月しか経っていない時期に行われたものであり、組合員はロードサービス部に所属する3人ないし4人しかおらず、労使間の団体交渉も未決着な状況にあったこと、しかも会社内における組合活動の中心的立場にあったA1のみを他店に移動させることをその内容とするものであったことから、他の組合員に組合への帰属や組合活動一般への萎縮効果が発生するなど、未だ脆弱といわざるを得ないような組合組織に対する有形無形の影響が生じうる可能性があったことは否定しがたい。現に、本件人事異動後の平成31年4月頃にA3組合員(当時)は組合から脱退する意思を示しており、A4も組合から脱退手続を行うなど、組合の会社内の組織化において一定の影響が生じている事実が認められる。
 本件人事異動は、組合の組織運営や組合活動一般に対し看過できない不利益を生じさせている事実が認められる。
(2)本件人事異動が不当労働行為意思をもって行ったといえるか
 会社は、本件人事異動はC店やロードサービス部の人事管理等の業務上の必要性に基づき行われたものであり、不当労働行為意思とは無関係であると主張しており、会社が主張する一連の経緯には、ことさら不自然な点は認められない。
 しかし、社内組合員が数人しか存在しない脆弱な組合組織の中心的人物であるA1を他の組合員と職場を切り離すことは、組合の組織運営や組合活動一般に対する看過できない不利益が生じており、こうした事業は会社においても十分認識可能であった。
 また、平成31年3月23日付け本件人事異動は、30年12月14日の第1回団交、31年2月27日に行われた第2回団交との時間的近接性が認められ、かつ、団交を経た後も協議内容とされた休憩時間の労働時間としての取扱いも未決着であったことから、団交と全く関係なしに実施されたものとは考え難い。
 さらに、B2前社長には、一貫して強固で継続的な組合嫌悪意思が顕著に窺われ、その言動からは、会社内の組合組織を弱体化ないし消滅させようとしていた意思や、活動の中心人物であるA2を会社内で孤立化させようとしていた意思が推認できる。
 これに加えて、本件人事異動は、組合との団交が継続中かつ未決着の状況で行われ、組合から強い反発が予想される状況であったにもかかわらず、会社において組合との事前協議を検討した形跡も認められないことは、本件人事異動について異論や修正を許さない会社の強い意志をも感じさせる事実である。
 以上の事実から、本件人事異動は、不当労働行為意思に基づいて行われたと合理的に推認できる。
(3)したがって,本件人事異動は労働組合法第7条第1号の不利益取扱い、及び同条第3号の支配介入に該当する。
3 A1の平成30年冬季一時金・令和元年夏季一時金の支給、及びA2の令和元年夏季一時金の支給について
 支給の蓋然性のある金額に比して実際の支給額が著しく不合理で社会通念上許容し難い程度に不相当である場合には、一時金の支給について不利益な取扱いがなされたというべきである。
 当該額の認定については、会社には一時金の支給額決定に関して数値化された査定評価やこれを前提とした支給額の具体的な算定式が存在しないから、会社内の他の従業員の支給実績やその勤続年数等を参考に判断するほか無い。
 平成30年冬季におけるA2の一時金の支給率は0.347であるところ、①平成30年夏季から令和元年冬期までの計4回の一時金の支給実績における平均支給率、②A2らについて査定期間中に一時金について低額に抑えざるを得ないような事情は会社から主張も立証もされていないこと、③最低支給率0.5が、計4回の一時金の支給実績において、ロードサービス部を除く一時金の受給資格を持つ全従業員の延べ支給実績49人(A1とA2を除いたロードサービス部従業員を含めても全55人)のうちわずか2人のみに適用され、かなり例外的な支給率であることなどを併せて考慮すると、会社に、一時金算定について広範な裁量があることを考慮しても、A1が組合活動を行っていなければ支給されたと考えられる一時金の想定支給額の支給率は、それぞれ、どんなに控えめに見ても当季において0.5程度はあったものと考えられる。
(このほか、A2に関しては、会社による、当季からロードサービス部の従業員について一時金を基本給の半分額とする支給基準を設定したとの主張につき、それらを裏付ける客観的根拠は認められないとし、また、同組合員が業務においてクレームを受けたことや、社内における人事評価アンケートの結果を根拠に適正な金額を設定した旨の主張についても、一時金の評価要素として特に考慮することについては慎重にならざるを得ないなどとしている。)
4 A2及びA3の令和元年冬季一時金の支給について
 当季におけるA1に対する一時金の支給率は0.606、A2は0.648である。令和元年冬季においても、A1に対して最低でも想定支給率額の支給率は0.5程度、A2に対する想定支給額の支給率も0.5程度とすることが相当であるところ、それぞれの支給率はこれを上回るものであり、著しく不合理で社会通念上許容し難い程度に不相当であるとまで認められない。
 したがって、A1やA2に対する一時金の支給は労働組合法第7条第1号の不利益取扱いとは認められず、その他かかる一時金の支給が同条第3号に定める支配介入に該当することを裏付ける事実は認められない。
 
5 B2前社長がA2に対して行った言動について
 令和元年12月25日にB2前社長がA2の病室を訪問して、「A3もユニオン辞めたし、A4だって辞めた。おまえにはいろいろしてきてやったが、分からないんだな。」「よく考えた方がいいぞ。」と述べた件については、B2もその発言の存在については認めるところ、かかるB2の発言については、通常の日本語の理解力を有するものであれば、かかる発言のみをもってしても、A2に対して組合からの脱退を促していることは明らかである。
 会社がA1やA2の令和元年夏季の一時金算定に不当労働行為意思に基づき一時金を低額に設定したことは前記認定のとおりであるから、A2に対して嫌悪する組合から脱退させようとするB2の意思は、当該発言に至るまで、長期にわたりかなり強固に存在したことが認められる。
 したがって、本件発言は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
 当該発言はA1とA2の個人的関係に対する忠告であるなどとする会社の主張は、認定した事実経過に照らせば到底採用し得ない。 
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