労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  青森県労委令和2年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  個人X1、個人X2 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年7月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人の理事長が、C組合の組合員X1及びX2に対して発した言動が不当労働行為に当たる、として個人X1及び個人X2から救済申立てがなされた事案である。
 青森県労働委員会は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、C組合の組合員であるX1及びX2に対し同組合に加入したことや組合活動したことを理由として退職を迫り、また、同組合に相談することを萎縮させるような言動などをして同組合の組織、運営に対する支配介入をしてはならないこと、文書手交等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、C組合の組合員であるX1およびX2に対し、同組合に加入したことや組合活動したことを理由として退職を迫り、また、同組合に相談することを萎縮させるような言動などをして同組合の組織、運営に対する支配介入をしてはならない。
2 会社は、この命令書の写しの受領の日から7日以内に、下記文書をX1及びX2に対し、手交しなければならない。
 年 月 日
X1殿
X2殿
Y法人   
理事長B
 令和元年10月25日、当法人の理事長であるBが、C組合の組合員であるX1氏及びX2氏(以下「X1氏ら」という。)に対して、X1氏らが同組合に加入したことなどについて、X1氏らを非難する発言をしたことや、当法人からの退職を勧奨したことなどは、青森県労働委員会において労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後は、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 (注.年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 X1らのその余の申立てを棄却する。
判断の要旨  1 本件申立てには「救済の利益」はあるのか(争点1)
(1)法人は、令和元年12月13日にD組合が結成されたことにより、団体交渉の当事者がC組合からD組合に移行し、C組合が団体交渉を行う具体的な可能性を欠くに至ったものである以上、同組合に加入したことや組合活動を行ったことを理由とする支配介入に対する本件申立てについては救済の利益はないと主張する。
 しかし、本件言動(B理事長が、令和元年10月25日、C組合の組合員であるX1及びX2に対して発した言動。以下同じ。)当時のみならず審問終結日現在においても申立人X1らがC組合の組合員であり、D組合が結成されたとしても、C組合の組合員資格を喪失したものではなく、同組合の組合員として組合活動を行い得る以上、X1らが本件に関して申立て適格を有することは明らかである。
(2)そして、X1らと法人との間において平成30年(不)第1号事件に関する和解協定が締結され、円満かつ健全な労使関係の構築に努めることとされたにもかかわらず、それからわずか1か月程度しか経過していない中で本件言動に至っていること(労働組合法第7条第3号に該当する行為であることは後述)、C組合が本件言動の真意を問うことを目的として団体交渉を求めたにもかかわらず法人はこれを拒否しており、本件言動に対する是正措置がとられている状況は何ら窺われないことに加え、本件言動後、B理事長が平成30年(不)第1号事件に関する和解協定の趣旨を尊重することなく、X1らに対して報復的な行動をとることを示唆する言動を示していることに照らせば、今後本件言動と同種の言動がなされるおそれは否定できないものと言える以上、救済の利益は優に認めることができる。
2 本件言動は、申立人X1らがCユニオンに加入したことを非難し、また、X1らが同組合に相談することを萎縮させ、同組合がX1に対する団体交渉等の組合活動することを妨害するものであり、労働組合法第7条第3号の労働組合の組織、運営に対する支配介入に該当するか(争点2)
 組合に対する使用者の言動が不当労働行為に該当するか否かは、当該言動の内容及び態様、背景となる労使関係や当該言動に至る経緯等の諸事情を総合考慮し、当該言動が組合員に対して威嚇的・萎縮的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすおそれのある場合は、労働組合法第7条第3号が定める支配介入に該当するものというべきである。
 本件言動は、理事長解職要求に賛同したことに対する直接かつ対面での謝罪のない申立人X1らに対する私怨に端を発したものである面が否定できないことを最大限考慮したとしても、C労働組合の組合員である申立人X1らに対して威嚇的・萎縮的効果を与えるものであって、同組合の組織、運営に悪影響を及ぼすおそれのあるものと言わざるを得ない。
 したがって、現実に組合員としての活動が萎縮させられたか否かにかかわらず、本件言動は労働組合法第7条第3号に該当するものというべきである。
3 本件申立ては、「申立権の濫用」に当たるか(争点3)
 法人は、X1らが遠方出張時の宿泊費を不正に受給していたこと、業務時間中にもかかわらず、法人の検査員らに対してD組合への加入勧誘という非違行為を行い、勧誘を拒否した検査員らを睨みつける、挨拶をせずに無視するなど報復的行動をとっていたこと、他の検査員らに対して遠方で効率の悪い検査や検査に長時間を要する難易度の高い案件を押し付けたことなどの事情をもとに、X1らの本件申立ては不当労働行為救済申立権の濫用であるなどと主張する。
 しかし、法人指摘の各事情をもって本件申立てが不当労働行為救済申立権の濫用であると評価することはできない。
 むしろ、平成30年(不)第1号事件の和解協定の締結から間もなく、X1らと法人の対立関係を生じ、その中で本件言動がなされたものであること、本件言動の内容が、社会通念上、法人の代表者が在籍している職員に対して業務上の注意や指導を与える際に用いることのないような苛烈な内容であり、青森地裁により慰謝料の支払を命じられるほどのものであること、法人がC組合からの本件言動に関する団体交渉の求めをニ度にわたり拒否していること、本件言動以前にも同組合に駆け込んだことを非難する言動もみられており、一貫してX1らが同組合に駆け込んだことを非難していることなどの事情に鑑みれば、X1らが本件言動について救済を求めることは、同組合の組合員として正当な権利行使であると言わざるを得ないというべきである。
4 救済命令において、文書の掲示(ポストノーティス)を命ずる必要はあるか(争点4)
(1)X1らは、謝罪文の手交及び謝罪文を法人本社玄関の見やすい場所に2週間掲示することを求めているので、この点について判断する。
 B理事長による同種の不当労働行為が繰り返される恐れは否定できない一方、本件言動は、理事長解職要求に賛同したX1らがB理事長に謝罪しなかったことに関する私怨に由来する面も否定できないところ、X1らの組合活動を敵視する言動を行うものは専らB理事長にとどまる。そして、本件申立てが当委員会に係属中、職場環境の悪化や度重なる労使の対立に疑問を感じた個人の検査員11名が連署・連判をもって事務所内の実情と心情を記載した意見書が証拠として提出されたことに伴い、労使間のみならず職員間の関係性も不健全な状態に至っており、さらには、申立人X1自身も、理事長の支配が強いことから他の職員が表立ってX1らと円滑に意思を疎通することが難しい状況である旨供述しているところでもある。
 このような状況の中、法人の理事及び職員らすべてに対し、謝罪文の掲示をもって本件言動が不当労働行為である旨周知することは、労使関係の対立関係をさらに一層増悪させ、ひいてはX1らと他の検査員との関係性を回復困難なところまで悪化させるおそれも否定できないものと考えられる。
(2)これらの事情や本件申立てに至るまでの経緯、本件言動の内容や態様及び本件言動後におけるB理事長のX1らや申立外Eに対する言動、D組合との団体交渉における法人側の態度、X1らの組合活動を敵視する言動を行う者が専らB理事長であること、法人の職場におけるX1らと他の職員との関係性など本件に顕れた一切の事情を考慮し、C組合の組合活動に対する支配介入が問題となっている本件における救済方法としては、主文第2項のとおり命ずることが相当である。
 
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