労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  群馬県労委令和2年(不)第1号
岡本工作機械製作所不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年2月25日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①Y会社が、取引を行っていた申立外C会社に対し、「当社社員に対するセクハラ(ストーカー行為)について」と題する文書を手交したこと、②組合が令和元年6月28日、7月2日、8月18日及び同月28日付け要求書でそれぞれ申し入れた団交の開催要求に対するY会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
(なお、組合は、会社所属のA2を分会長とし、C会社従業員A1を含む2名の組合員を構成員としていた。)
 群馬県労働委員会は、申立てを棄却した。
 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、申立外会社に対し本件文書を交付したことが労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか
(1)A1は会社ではなく申立外会社(C社)に雇用されていたのであり、会社は、労働契約上の雇用主でないことは明らかである。しかし、会社は、A1に対し、B係長を通じて指示書を渡すなど、その業務の少なくとも一部について、日常的な指示等をしていたことが認められる。そこで、そのような事実がある場合に、労働組合法第7条の使用者といえるかどうか検討する必要がある。
(2)労働組合法第7条にいう「使用者」は、労組法が助成しようとする団体交渉を中心とした集団的労使関係の一方当事者としての使用者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にこれに該当する。しかし、雇用主以外の者であっても、例えば、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者は、その限りにおいて同条の「使用者」に該当すると解すべきである。
(3)本件文書の内容は、C社に対し、ハラスメント疑惑に関する調査を依頼し、調査の結果を踏まえた、C社の規程にのっとった処分等を依頼するものである。その依頼の内容自体は、自社従業員がハラスメント被害を受けた企業の依頼として自然なものであり、その依頼の内容自体に使用者性を認める余地はない。
 本件文書の手交時における会社のC社への対応をみても、会社はハラスメント疑惑に関する調査並びに当該調査の結果及びC社の規程にのっとった処分等を依頼したに過ぎないと認められるし、C社がA1との面談を実施し、A1が事実関係を認めたことをもって「出入禁止」の指示等を行ったことも認められる。これらのことを踏まえると、会社がその優越的地位を利用して一方的にA1の就業場所の変更を余儀なくさせたとまでは認めることはできない。
 そして、他に会社がA1の就業場所に関し何らかの影響を及ぼしていたとする疎明はなく、会社はA1の就業場所という労働条件につき、使用者と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたとまでは認められない。よって少なくとも、本件文書を手交したことに関する限り、会社は、A1との関係において労働組合法上の使用者とはいえない。
(4)したがって、その余について判断するまでもなく、会社がC社に対し本件文書を手交したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。
2 組合が令和元年6月28日付け、7月2日付け、8月18日付け及び同月28日付け各要求書でそれぞれ申し入れた団体交渉の開催要求に対する会社の対応が労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか
(1)使用者が団体交渉に応ずべき事項については、労働者に団体交渉権が保障されている趣旨目的から判断されるべきであるが、労働条件等事項であって、使用者に処分可能なものと解すべきである。したがって、本件においては、各要求事項が労働条件等事項に該当し、かつ、当該要求事項について会社に団体交渉の相手方としての使用者性が認められる場合には、会社に団交応諾義務があったといえる。
(2)要求事項のうち、A1の就業場所に係るもの(6.28要求事項1)、本件文書の手交に係る謝罪と補償に係るもの(7.2要求事項1、8.18要求事項2、8.28要求事項)、A1の就業場所に係るもの(8.18要求事項1、8.28要求事項)については、会社は使用者に該当しないのだから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為は成立しない。また、単に「団交拒否」に関する謝罪を求めるのみのもの(7.2要求事項2)は、労働条件等事項には該当しないと考えるのが相当であり、同号の不当労働行為は成立しない。
(3) 6.28付け要求事項2及び3については、A1を含む作業員の業務の安全性や指揮命令権に関わるものであり、労働条件等事項に該当すると判断するのが妥当である。そして、当時A1が会社の輸送係と一緒に業務に当たり、出荷業務や搬入・搬出・入替作業につき会社のB係長から指示を受けていたことが認められることから、この限りにおいては、会社は雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しており、使用者として団体交渉に応ずべき立場にあったと考えられる。そうすると、これらの要求事項に応じられないと回答した会社の対応は、労働組合法第7条第2号に違反する不当労働行為であったといえる。
3 救済の必要性
 組合の設定した団体交渉の期限には間に合わなかったとはいえ、要求のあった日から約1ヶ月後に、8.1団交が開催されており、6.28要求事項2及び3について団体交渉が行われたと認められること等にかんがみれば、本手続において救済を命ずる必要性はないといえる。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約341KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。