労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  滋賀県労委令和2年(不)第2号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年5月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①令和元年11月25日団交の席上で、組合の分会長であるAが行った再雇用時の賃金に関する要求についての会社の対応、②同2年2月20日要求書に対し同年3月23日回答書まで会社から回答がなされなかったこと、③同回答書において「就業規則の変更は考えていません」と回答したこと、④同年3月23日回答書の交付以降、新型コロナウイルス感染症拡大の状況下であることを理由に団交が開催されなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 滋賀県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和元年11月25日団交の席上で、組合の分会長であるAが行った再雇用時の賃金に関する要求についての会社の対応は、正当な理由のない団交拒否(不誠実な交渉)に当たるか(争点1)
(1)再雇用時の賃金に関する要求は令和元年11月25日団交の交渉事項であったか
 組合は令和元年11月25日団交に当たり、同年10月25日要求書により申入れを行っているが、再雇用時の賃金に関する要求についての記載はなかった。もとより団交の申入れを書面で行うことは使用者の団交義務を生じさせる必須の条件ではないが、他方で使用者が団交のために種々の事前準備をする必要があること等に鑑みると、追加の交渉事項がある場合には、口頭であっても事前に通知することが求められているというべきであるところ、当該事項は、事前に団交事項として予定されていなかったといわざるを得ない。
(2)令和元年11月25日団交時における会社の対応は不誠実であったか
 仮に当該要求が当該団交時に交渉事項に加えられていたと解したとしても、会社には当該事項について事前に検討する機会がなかったのであり、その時点で可能な範囲で回答することしかできなかったとしてもやむを得ないことから、会社の対応は不誠実であるとはいえない。
2 令和2年2月20日付け団交申入れに対し同年3月23日回答書の交付まで会社から回答がなされなかったこと、同回答書において会社が「就業規則の変更は考えていません。」と回答したこと、その後の会社の対応は、それぞれ正当な理由のない団交拒否(不誠実な交渉)に当たるか(争点2)
(1)令和2年2月20日付け団交申入れに対し、会社が同年3月23日回答書の交付まで対応しなかったことについて
 労働組合が文書による回答を求めたとしても、労使間で団体交渉のルールとしてその旨合意されている場合等は別として、当然に使用者に文書による回答が義務付けられるわけではないし、労働組合が一方的に回答期限を指定した場合についても同様であることなどからすると、組合が指定する期限までに会社が文書による回答を行わなかったとしても、これをもって会社が団体交渉を拒否したと判断することはできない。
 令和2年2月20日付け団交申入れから3月23日付けの回答書の交付までの経緯を見ると、組合からの督促にもかかわらず団体交渉の申入れから約1か月の間これに対応せず不開催としている理由を説明せずにいた等の点において、組合が、会社の対応は誠意がないとか団体交渉の申入れが放置されているなどと感じ、団体交渉を拒否しているとの疑念を抱いたとしても無理はない。
 他方で、同年1月頃からの新型コロナウイルス感染拡大という予想外の状況に対する対応が各所で必要となり、会社においても通常では想定しない事態への対応に追われていたことは十分に理解し得る。そのような状況においては、会社が組合からの交渉申入れに対して早期に回答しなかったり、団体交渉の開催について協議しなかったりしたことをもって、直ちに団体交渉拒否であると判断することは難しい。
 これらからすれば、令和2年2月20日団交申入れに対して会社が3月23日回答書の交付まで対応をしなかったことについて、その間に会社が組合に対してなすべき確認や説明等が不十分な点があったことから、組合の疑念を招いたことは否定できないものの、それをもって団交拒否の不当労働行為に当たるとまではいえない。
(2) 同回答書において会社が「就業規則の変更は考えていません」と回答したことについて
 組合は、令和2年2月20日付け要求書の項目に「1.賃金について、再雇用の時間給を1,000円以上に引き上げることを要求します。」と記載し、交渉事項の1つとしていたところ、会社が、令和2年3月23日付回答書で「就業規則の変更は考えていません」と回答したことについて、組合は会社の回答自体が事実に反するなど不誠実な対応であり、また、これにより当該事項についての交渉を拒否したと主張する。
 しかし、会社のA氏の再雇用時の賃金が就業規則に定められたとおり支払われているという説明自体が事実に反するなどの不誠実な対応であるという組合の主張には理由がない。また、会社は、同回答書において、「交渉時期については、状況を判断しつつ別途日時の検討いたします」と回答していることから、交渉の実施が予定されていたことがうかがわれること、組合と会社との間では、緊急事態宣言が解除されたことを受けて、同年6月23日に団交が開催され、改めて同年2月20日の要求事項に対応した回答書を交付していることなどから、「就業規則の変更は考えていません」との回答を行ったことをもって、団交を拒否したものではないと考えられる。
(3) 令和2年3月23日回答書の交付以降、対面による同年6月26日団交の開催までの間、新型コロナウイルス感染症拡大の状況下であることを理由に団交が開催されなかったことについて
 事前協議による人数制限や何らかの合理的な手段(たとえばオンラインなど対面以外の方法)をとる可能性が少なくとも検討されていないことなどから、会社が団体交渉の開催を見合わせていることについて、組合が正当な理由のない団体交渉拒否であると考えたとしてもやむを得ない面もある。
 しかしながら、C県においては、令和2年4月1日に緊急事態宣言が発出されて同年5月14日に解除されるまでの間、様々な行動制限が求められていたことは事実であり、そうした中で会社が団体交渉の開催に躊躇したとしても無理はない。また、社会全体においてもいかなる対応が可能であるかがいまだ模索されている段階にあったのであり、会社がこの間に合理的な手段を講じるなどにより団体交渉を実施することについて検討しなかったとしても、それをもって正当な理由なく団交拒否したと断じることは難しい。
 また実際に、緊急事態が解除されて以降、同年6月12日ないし15日頃に行った日程調整により同月26日に組合との間で対面による団体交渉が実施されている。
 したがって、令和2年3月23日回答書の交付以降、対面による同年6月26日団交の開催までの間、新型コロナウイルス感染症拡大の状況下であることを理由に団交が開催されなかったことは団体交渉拒否の不当労働行為に当たるとまではいえない。
(4)令和2年6月26日団交およびそれ以降、再雇用時の賃金に関する要求について団交が行われなかったことについて
 会社は、団交当日に改めて交付した回答書において、令和2年2月20日要求書に記載された事項についての回答を記載しており、再雇用時の賃金に関する要求が同日の団交の交渉事項ではなかったとの組合の主張には理由がない。
 また、会社の回答に対して組合から何ら異議や要求が述べられなかったことからすれば、そこに回答された内容で当該事項については交渉が終了したと判断することは不自然ではない。
 これらのことから、令和2年6月26日団交およびそれ以降、再雇用時の賃金に関する要求について団交が行われなかったことは、会社による団体交渉拒否の不当労働行為には当たらない。 
掲載文献   

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