労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和元年(不)第63号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年6月1日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が、組合に対して特別指導の基準ないし運用方法に関する団交について、他の労働組合と異なる取扱いをしたこと、②法人が、特別指導の基準等について、組合との団交前に、組合員に対して説明したこと、③特別指導の基準等に関する団交における法人の対応が不当労働行為に当たる、として申立てがなされた事案である。
 東京都労委は、法人に対し、組合への特別指導の基準等に関する提案の時期及び組合員への通知前に団交の機会を与えることにつき、他の労働組合と異なる取扱をしてはならないこと、文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
(注)
1 法人は、放送受信契約の締結・変更の取次ぎ等の業務について個人(「地域スタッフ」)又は法人と委託契約を締結している。
2 法人は、各地域スタッフに取次業務の目標数を提示し、実績が「基準」(目標数の一定割合)に達しない場合に法人職員が帯同して指導するなどの「特別指導」を実施しており、これを18年度以降再開したが、業績回復の状況に地域差がみられたことから、各地域スタッフの所属する放送局営業部又は営業センターの業績状況を考慮した運用(「局所を考慮した運用」)を実施した。
命令主文  1 法人は、組合への特別指導の基準ないし運用方法に関する提案の時期及び組合員への通知前に団交の機会を与えることにつき、他の労働組合と異なる取扱いをしてはならない。
2 法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
中央執行委員長 A1
Y法人   
会長B1
 当法人が、貴組合との特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉について、他の労働組合と異なる取扱いをしたこと及び貴組合との団体交渉前に組合員に対して説明したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注.年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 法人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 協会が組合に対して特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉について、他の労働組合と異なる取扱いをしたか否か、取り扱いが異なる場合、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)
 「局所を考慮した運用」は、委託契約の解約に結びつき得る特別指導に係るものであり、組合員の委託契約に関わる重大な事項であるから、組合がC組合と違って「局所を考慮した運用」に係る要求をしていなくても、法人は、C組合に下限値の導入を提案して団体交渉を行い、提案内容の変更をして同意を得ている以上、組合に対しても、時間を置かずに同内容の提案を行い、団体交渉を行う機会を与える必要があったというべきである。法人が3か月以上遅れて組合に通知したのは、C組合と組合とで異なる取扱いをしたものといわざるを得ない。
 加えて、法人は、C組合には決定前の段階で下限値の導入を提案し、団体交渉の結果、提案内容の変更を得ているが、組合に対しては地域スタッフ全員への説明の直前に、地域スタッフに説明する内容として通知している。このような法人の対応は、決定前の段階でC組合とのみ協議し、組合には決定後の結果を通知するのみで足りるとする組合を軽視したものであったとみざるを得ず、地域スタッフに対して組合の交渉力がC組合よりも劣っているという印象を与え得るものでもある。
 実際、組合は、3月20日に通知を受けて、地域スタッフ全員に下限値の導入が説明された後の4月4日に団体交渉を申し入れ、同月18日に団体交渉を実施しており、C組合のように決定前の段階で団体交渉を行い、組合の意見を事前に反映させることはできなかったのであるから、組合は、適切な時期に団体交渉を申し入れて交渉を行う機会を奪われるなど組合活動に影響を受けたといえる。
 以上のとおり、法人が、組合に対して特別指導の基準ないし運用に関する下限値の導入の提案時期についてC組合と異なる取扱いをしたことは、団体交渉の実施時期等の組合活動に影響を与えるものであるから、組合運営に対する支配介入に当たる。
2 特別指導の基準ないし運用方法について、組合との団体交渉前に組合員に対して説明したことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
 法人は、下限値の導入を3月20日に組合に通知した後、4月1日に組合員を含む地域スタッフに対してそのことを説明している。
 しかしながら、組合への通知は、組合員への説明の前ではあるが、法人が地域スタッフ全員に対し説明するまでの期間は10日余りしかなく、組合がその通知を受けてから、組合員の意見をまとめ、対応等を検討するなどの十分な時間を持てたといえるかは疑問である。
 こうしたことからすると、組合の団体交渉の申入れ時期や団体交渉の開催が特に遅延したとはいえず、法人が組合に対して通知した3月20日では、組合員への説明前に団体交渉を実施することができなかったといわざるを得ない。
 そして、法人は、30年12月上旬には、C組合との間で下限値の導入に関して団体交渉を実施してその同意を得ていたのであるから、組合に対しても、3月20日よりも早い時期に通知ないし提案を行うことが困難であったとの事情は認められない。法人がそうした措置を講じなかったことは、組合において、組合員に対して説明する前に下限値の導入という特別指導の基準ないし運用方法の変更に関与する機会を奪ったものであるといわざるを得ない。
 したがって、法人が団体交渉前に組合員に対して説明したことは、組合運営に対する支配介入に当たる。
3 特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)
 組合は、法人が組合と団体交渉を行っても結論は全く変わらず、事前にC組合と妥結した内容で行うと回答し、組合との団体交渉は全く意味がないとして、団体交渉を実質拒否したと主張する。
 しかし、法人は、下限値の導入や労働組合との合意は必要ないと考える根拠について、相応の説明を行っていることが認められる。
 そして、下限値の導入の撤回には応じていないが、今年はまずはやってみて毎年検討していくと述べており、少なくとも導入後に内容を変更することには柔軟な姿勢を示している。また、法人は、何かあれば交渉はいつでも受けるとも述べており、団体交渉を行っても一切内容変更する余地のない頑なな姿勢であったとまではいえない。
 したがって、法人の対応が不誠実な団体交渉又は組合運営に対する支配介入に当たるということはできない。
4 以上の次第であるから、法人が、組合に対して特別指導の基準ないし運用方法に関する提案の時期について、他の労働組合と異なる取扱いをしたこと及び組合との団体交渉前に組合委員に対して説明したことは、労働組合法第7条第3号に該当するが、その余の事実は、同法同条には該当しない。 
掲載文献   

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