概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成30年(不)第46号
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申立人 |
X組合(組合) |
被申立人 |
Y法人(法人) |
命令年月日 |
令和3年6月1日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、法人が職員会議において発表した定期昇給の停止、35歳以下の教職員に対する査定による昇給の実施、永年勤続者への特別昇給制度の廃止等の事項に係る団体交渉における法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 定期昇給ができない理由の説明
(1)組合は、法人が、団体交渉において、定期昇給ができない理由について、自身が必要と考えたデータを口頭で説明するのみで、組合に対してその基本データや説明資料を交付、提供することや、修繕計画や長期の財務見通しの資料を作成することもなく、客観的に根拠のある資料を作成、提示して十分な説明を行わなかったと主張する。
しかし、法人は、定期昇給等ができない財政上の理由について、財務資料や具体的な数値を上げて一定程度説明しており、資料を提示できないときはその事情を説明していたのであるから、法人の対応は不誠実とまでいうことはできない。
(2)組合は、法人が誇大な数値で誤った印象を組合に与え、誤りを指摘されても訂正せず、正確な数値を隠そうとしていたと主張する。
しかし、法人は、組合からの訂正の要求には応じないものの、組合の主張を承知した上で、法人としての一定の見解を示して、組合の追求に対し、それ相応の説明をしているなど、法人が正確な数値を隠そうとしていたとまではいえない。
2 組合の提案への対応
組合は、人件費を削減せざるを得ない場合の対案として賞与の削減の検討を提案したが、法人は定期昇給の停止という自らの方針に固執し、組合の提案については「一事不再理」として理事会で検討することもなく、団体交渉で具体的な議論が行われなかったと主張する。(「一事不再理」という表現は、理事会における「一事不再議」であると解される。)
しかし、法人は、組合の要求に応じてその都度、生徒数の減少、経営状況が厳しいことを理由に定期昇給停止を実施すること、また、物価水準が変わらない中で生活水準を維持するために前年度の賃金水準を維持したいことを理由に賞与を削減しないことを説明しており、定期昇給停止及び賞与の現状維持は、それ相応の理由に基づく法人の方針であったことが認められ、理事会の決定が一時不再議であるからということのみが理由であるというわけではない。そして、本件の審査対象期間において、法人は、組合からの質問や要求について、必要に応じて理事会で検討していたことがうかがわれる。
これに対し、組合は、定期昇給は実施すべきである、賞与を削減すべきであるとする同じ主張を繰り返すにとどまっており、新たな具体的な提案を行うのではなく、状況が変わったら再度理事会で検討してほしいと要求している状態である。
したがって、法人が組合の提案を受け容れることができないとしても、法人は組合の要求に対してその都度一定程度の説明をしており、法人の対応が不誠実であったとまでいうことはできない。
3 メリット昇給や特別休暇制度に関する説明
(1) メリット昇給について
組合は、メリット昇給について、法人は、査定を実施すること、対象を35歳以下とすることについての合理的な説明をしておらず、組合が納得できなかったと主張する。
しかし、法人がメリット昇給の対象基準や勤務評価を実施することについての一定の考え方を説明する一方で、組合は導入に反対して同じ主張、質問を繰り返すにとどまっていることからすれば、メリット昇給の説明に関する法人の対応が不誠実なものであったということはできない。
(2) 特別休暇制度について
組合は、特別休暇の付与について、不利益変更であるとして日数の協議を求めたが、法人が説明を変更、変遷させ、具体的な交渉に応じなかったと主張する。
この間の経緯をみると、法人は、特別休暇制度が既に28年度から運用されている中で、特別昇給制度の廃止と特別休暇制度の新設の経緯と趣旨を繰り返し説明し、再検討しない理由についても説明していることから、組合が求めた特別休暇制度の日数の協議に応ずる姿勢をみせなかったことをもって法人の対応が不誠実であるということはできず、組合の主張を採用することはできない。 |
掲載文献 |
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