労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和元年(不)第4号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  B会社(会社) こと 個人事業主Y 
命令年月日  令和3年9月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、B会社こと個人事業主Yが、組合からの組合員に係る未払賃金及び未払ガソリン代の支払いを求める団体交渉の申入れを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合の組合員であるA1及びA2は、Yとの関係で労組法上の労働者といえるか(争点1)
(1)A1らの労組法上の労働者性
 A1らとYとの間に、郵便小包の集荷配達業務(以下「本件業務」)に関する契約が締結されていたところ、契約書等の書面は作成されておらず、この契約について請負契約であるか労働契約であるかの確認はなされていないが、A1らが、Yとの関係でいわゆる労務提供者であったことに争いはない。
 Yは、配達員への報酬の支払について、事業申告書でも人件費給料ではなく外注費として計上していること、源泉所得税・健康保険料の控除を行っていないことからすると、当該契約は、外形的には労働契約とは解し難いように考えられるが、組合は、A1らについて労組法上の労働者である旨を主張するので、以下検討する。
(2)労組法上の労働者性の判断枠組み
 労組法の趣旨・目的に加え、労組法第3条の文言に照らせば、労組法の適用を受ける労働者は、労働契約法や労働基準法上の労働契約によって労務を供給する者のみならず、労働契約に類する契約によって労務を供給して収入を得る者で、労働契約下にあるものと同様に使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるものをも含む、と解するのが相当である。
 以上のような基本的な理解を前提として、労務供給関係にあるものが労組法第3条の労働者に該当するかの判断に当たっては、労務の供給が業務委託等の労働契約以外の契約様式によってなされるものであっても、実質的に、①当該労務供給を行う者たちが、相手方の事業活動に不可欠な労働力として恒常的に労務供給を行うなど、いわば相手方の事業組織に組み入れられているといえるか(「事業組織への組入れ」)、②当該労務供給契約の全部又は重要部分が、相手方により一方的・定型的に決定されているか(「契約内容の一方的・定型的決定」)、③当該労務供給者への報酬が当該労務に対する対価又は同対価に類似するものとみることができるか(「報酬の労務対価性」)、という判断要素に照らし、当該労務供給の実態を客観的に判断すべきであり、団体交渉の保護を及ぼすべき必要性と適切性が認められる場合には、当該労務供給者は、労組法上、「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する」労働者に当たるとみるべきである。
 また、補充的に、①の「事業組織への組入れ」を補強するものとして、④当該労務供給者が相手方からの個別の業務の依頼に応ずべき関係にあるか(「業務の依頼に応ずべき関係」)といった要素も考慮し、①から③までの判断に関しては、⑤当該労務供給者が労務供給の日時・場所について拘束を受け、労務供給の態様についても、広い意味での指揮監督に従って業務に従事しているか(「広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束」)といった要素も考慮すべきである。
 他方、⑥当該労務供給者が自己の独立した経営判断でその業務を差配すること等により利得する機会を恒常的に有するなど、事業者性が顕著である場合には、労組法上の労働者性は否定されることになるといえる(「顕著な事業者性」)。
①事業組織への組入れ
 配達員の母数が少ない以上、Yの業務に占めるA1らを含む配達員一人ひとりの比重は相当程度認められ、また、配達員はシフトが決定した後は休みを取得し難かったことからすると、A1らはYの業務の遂行の量的又は質的な面において不可欠又は枢要な労働力と位置付けられていたことは否定し難い。
 もっとも、配達員及びYは、本件業務に従事する際、C郵便局から貸与された日本郵便株式会社の制服を着用していたが、「B会社」自体には制服も社員証もなく、また、Yから貸与され本件業務に用いていた自動車についても、「B会社」の屋号やマークなどが記載されていたわけではない。したがって、「事業組織への組入れ」を肯定的に評価する事情としての第三者に対する表示は認められない。
 さらに、A1が受託業務以外に同種の業務であるクロネコヤマトの配達業務に従事していたこと及び配達員の中には兼業していた者がいたことからすれば、Yは各配達員に対し、他の業務を行うことを禁じていたとはいえず、かつ各配達員が他の業務を行うことは実態としても可能であったものと認められる。したがって、A1らについて、「事業組織への組入れ」を肯定的に評価する事情としての専属性は認められない。
 以上を踏まえると、A1らについて、Yの事業組織への組入れがあったとまではいえない。
②業務の依頼に応ずべき関係(①を補強する補充的判断要素)
 組合は、A1らは、Yの了解なくして休みを取ることはできず、集荷依頼の指示に応じていたなど、Yの業務の依頼に応ずべき関係であった旨主張する。
 しかし、組合員らは、シフトを決定する際に、休みの希望を伝え、それを考慮したシフトが作成されていたこと、A1自身がシフト作成することもあったことから、シフト作成段階においてA1らに一定の諾否の自由はあったものと認められる。
 また、一定の担当区域の郵便小包の集荷配達を包括的に業務の内容としていたのであるから、個別具体的な郵便小包の集荷配送について拒否が困難であることも、業務の性質上当然であり事業組織に組み入れられているか事業組織外の個人用主であるかの別はないものといえる。したがって、これらについては「事業組織への組入れ」の判断において重視すべきこととはいえない。
 さらに、Yは、配達員から前日や当日に都合により配達できないとの連絡を受けると、その日に休んでいる配達員に稼働を依頼したり、Y自身が配達先を増やすなどして対応をしていた。また、配達員が休みを取得した場合であっても、特段の不利益取扱いはされなかった。
 これらのことからすると、事業組織への組入れに関する補充的判断要素としての「業務の依頼に応ずべき関係」について、A1らとYの関係がそのようなものであったと評価することはできない。
③契約内容の一方的・定型的決定
 Yは、配達員の公平に配慮し、配達小包一個当たりの単価等は配達員全員一律に提示していることからすると、A1らとYとの間の労務供給契約の一部は、Yより一方的・定型的に提示されていることは確かである。
 もっとも、配達員は、各時間帯の配達等の業務が終了すれば次の仕分業務まで自由で、いつ昼休憩を取るか等も各自が自由に決めることができ、一日の業務を終えた後は、Yに対して特に報告することなく帰宅していたのであるから、労務供給契約の重要部分である労務供給の時間について、そもそも自由度の高い契約であったといえる。
 また、どういうコースで配達していくかは、各配達員の判断に任されていたことからすると、労務供給の方法についても、自由度の高い契約であったといえる。
 さらに、Yは、単価以外については、早朝の仕分け等の業務を免除する等、配達員の都合を一定程度受け入れる方法で契約を締結している。
 以上からすると、A1らとの労務供給契約の全部又は重要部分が、Yにより、一方的・定型的に決定されているとはいえない。
④報酬の労務対価性
 A1らの報酬は、仕分業務については1日当たりの固定だったものの、中心的な業務である配達業務については、配達個数に応じた完全出来高制であった。すなわち、習熟度によって業務に必要な時間に差異が生じることからすれば、結果に対する報酬という性格が強く、労務供給に対する対価又は同対価に類似するものと評価することはできない。
⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束(①から③までの判断に当たっての補充的考慮要素)
 配達員の業務のうち、C郵便局での仕分業務については、出局時間が指定され、場所もC郵便局内と定まっており、また、配達業務についても、配達時間は午前8時から午後9時の間と指示され、個別の小包について配達時間の指定がされていることもあった。
 もっとも、業務の性質上、仕分業務の場所や作業時間が一定程度指定され、配達時間に制約があることは当然であり、加えてYは、出局時間に遅れた配達員に対しても、ペナルティを科してはいなかったのであるから、これらの指定又は制約をもって、A1らの労働者性を基礎付けることはできない。他方で、労務供給契約の重要部分である労務供給の時間について自由度の高い契約であったことから、A1らに係る労務供給の日時・場所についての拘束の程度は高くなかったものと評価できる。
 これらのことからすると、A1らは時間的・場所的拘束を受け、かつ広い意味でYの指揮監督に従って業務に従事していたものと評価することはできない。
⑥小括
 以上のように、①から⑤までの判断要素により本件に現れた諸事情を総合考慮すると、労組法上の労働者性を否定する判断要素である⑥(「顕著な事業者性」)について考慮するまでもなく、A1らは、労働契約に類する契約によって労務を供給して収入を得る者で、労働契約下にある者と同様に使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者として、A1との関係において労働法上の労働者に当たると評価することはできない。
2 1において労組法上の労働者といえる場合、Yが組合からの平成30年11月27日付け及び同年12月4日付けの団体交渉申入れを拒否したことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
 Yは、組合の組合員に係る未払賃金及び未払ガソリン代の支払いを求める平成30年11月27日付け及び同年12月4日付けの団体交渉の申入れに応じていない。
 しかし、A1らは労組法上の労働者には当たらないことからすれば、Yが上記の各団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2項の不当労働行為には当たらない。
3 2において労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる場合、本件申立ては救済の利益を欠くといえるか(争点3)
 したがって、争点3について判断するまでもなく、本件申立ては棄却を免れない。 
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