労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和2年(不)第1号
MSコーポレーション不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年6月25日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、組合の組合員A2、A3及びA4の労働契約書等を団交事項とした令和2年1月9日付けの団交の要求に応じなかったこと、②同年2月18日付けの団交の要求に応じなかったこと、③令和元年11月8日の団交における組合との確認事項を履行していないこと、④B2社員が、労働契約書について、組合を介さず組合員と直接接触したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 広島県労委は、①及び②について労働組合法第7条第2号、③及び④について同条第3号の不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)令和2年2月18日付けの団交の要求に対する2週間以内の応諾、(ⅱ)組合から組合員の労働契約書の締結、シフト変更の必要性等について団交の要求があったときは、誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)組合との間で、③の団交における確認事項に基づいて、命令主文に記載する週の勤務日数・勤務時間数等の内容を含んだA4の労働契約書を作成し、同人に手交しなければならないこと、(ⅳ)A3に対するバックペイ、(ⅴ)A4に対するバックペイ、(ⅵ)組合並びにA2、A3及びA4に対する文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合からの令和2年2月18日付の団体交渉の要求に対して、本命令書を受領した日から2週間以内に応じなければならない。
2 会社は、組合から組合員の労働契約書の締結、シフト変更の必要性等について団体交渉の要求があったときは、誠実に応じなければならない
3 会社は、組合との間で令和元年11月18日に行われた団体交渉における確認事項に基づいて、下記(1)ないし(3)の内容を含んだ組合員A4の労働契約書を作成し、同人に手交しなければならない。
(1)週の勤務日数は6日であること。
(2)週の勤務時間数は44時間であること。
(3)C市D店パチンコ景品交換所の専属勤務であること。
4 会社は、組合員A3に対し令和元年8月28日から退職した令和2年8月30日まで毎週日曜日に勤務していれば支払われることとなっていた賃金相当額及びこれに対する各月分の賃金支払日の翌日から各支払済みまで、令和2年3月支払分までについては年6分、令和2年4月支払分以降については年3分の各割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。
5 会社は、組合員A4に対し、令和元年8月28日から令和2年7月30日まで毎週土曜日に勤務していれば支払われることになっていた賃金相当額及びこれに対する各月分の賃金支払日の翌日から各支払済みまで、令和2年3月支払分までについては年6分、令和2年4月支払分以降については年3分の各割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。
6 会社は、本命令書を受領した日から1週間以内に、下記の文書を組合並びに組合員A2、A3及びA4にそれぞれ交付しなければならない。
 年 月 日
 X組合
  委員長 A1様
  組合員 A2様
  組合員 A3様
  組合員 A4様
Y会社      
代表取締役B1
 当社が、貴組合に対して行なった下記の行為は、広島県労働委員会において、下記1については労働組合法第7条第2号に、下記2については労働組合法第7条第2号及び同条第3号に、下記3については労働組合法第7条第3号に当たる不当労働行為であると認められました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします
 1 令和2年1月9日付けの団体交渉の要求及び同年2月28日付の団体交渉の要求を正当な理由なく拒んだこと。
 2 令和元年11月18日の団体交渉における貴組合との確認事項を合理的な理由なく履行しなかったこと。
 3 令和元年11月28日、同年12月4日及び令和2年1月6日に組合に対して行なった労働契約書に関する言動により、組合の運営に介入したこと。
 (注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
7 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 2年1月9日付及び同年2月18日付の団体交渉の要求に対する会社の対応は、労働組合法第7条第2項の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 2年1月9日付の団体交渉の要求に応じなかったことに正当な理由はあるか
ア 団体交渉予定日の2年1月21日に他の予定が入っていたとの会社主張について
 会社は、団体交渉団体交渉を開催予定日は都合が悪く出席できない場合でも、そのことのみを組合に伝えるだけでは足りず、会社側から合理的な期間内の代替日を提示しなければならないと解される。都合が悪く出席できないことを伝えたのみでは、団体交渉に要求に応じない正当な理由にはならない。
イ 延期の依頼に対して組合が理解を示したとの会社主張について
 2年1月16日に組合が会社に送付した抗議文が、会社が団体交渉に応じようとしないことに対して団体交渉に応じるよう求めるためのものであることは明らかであり、会社の主張には理由がなく、組合が延期について理解を示したものとは認められない。
ウ 第2会社契約書案に回答がなかったため、団体交渉をしても無意味と判断したとの会社主張について
 2年1月9日の団体交渉の要求議題はA2らの労働契約書等であり義務的団交事項に当たること、30年8月7日の面談時には同年9月に締結すると回答しているにもかかわらず未だ締結に至っていないことからすれば、当時の会社と組合との間では早急に団体交渉を行う必要があったと認められる。
 また、第2契約書(注.元年11月25日にパート社員ごとに作成した労働契約書の会社案を修正した、A2組合員1名分に係る労働契約書の会社案)に組合から回答がなければ、なおさら会社は団体交渉に応じた上でその回答を聞き、労働契約書を締結するための交渉する必要があるといえるから、会社が団体交渉をしても無意味と判断すること自体失当である。
(2) 2年2月18日付の団体交渉の要求に応じなかったことに正当な理由はあるか
 会社が指定した代替日は、2年2月18日付けの団体交渉の要求で組合が要求した開催日である8月27日から起算すれば1か月後であること等からすると、合理的な期間内の代替日を提示したとは認められない。
(3)団体交渉の要求に対して、会社は団交ルールに沿った対応しているか
 双方が交わした団交ルールでは、会社は組合が申し出た団体交渉の開催日時に応じられない場合の理由と代替日を書面で提示しなければならないことが合意されている。
 それにもかかわらず会社は団交ルールに反し、2年1月21日は都合が悪く出席できないことを組合に伝えたのみで代替日を伝えず、開催日時に応じられない場合の理由と代替日を書面で提示していない。違反の程度は軽微とはいえず、会社の対応は団交ルールに反する不誠実なものといえる。
(4)会社の一連の対応をみると、いずれも正当な理由がなく、会社の対応は、団体交渉の拒否として、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
2 元年11月18日の団体交渉における確認事項(①従前の契約を結ぶ、②原状回復、③シフト変更は団体交渉で改めて検討)に係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか(争点2)
(1)実態からすれば、会社のシフト制は、会社が一方的にシフトを組んで勤務日や勤務時間帯を変動させたり、まして収入に直結する勤務時間数を変動させることが予定されているようなものであったとはいえない。こうしたシフト制の会社で、勤務時間の減少は、特に労働者にとって賃金の減少という重大な不利益をもたらすものであることに鑑み、労働条件変更の必要性や労働者の同意が求められるべきものである。
(2) 30年8月7日の面談の際、会社のB3社員がA2及びA3に、D交換所の専属勤務であると伝え、同月10日からのシフト表を渡したのに対し、A2らは異議を唱えず、同シフト表に従って就労していたのであるから、会社との間で、30年シフトの労働条件(同日からのシフト表によるA2らの週の勤務日数、勤務時間数、土日二人体制及びD交換所の専属勤務を併せた労働条件)で合意が成立したといえる。
(3)元年11月18日の団体交渉において、①従前の契約を結ぶ(30年シフトを労働条件とする労働契約書を締結すること)、②原状回復(上記労働契約書を締結することにより労働条件を30年シフトに戻すこと)、③シフト変更は団体交渉で改めて検討(上記労働契約書を締結することを前提に、その後のシフト変更の必要があれば改めて団体交渉で検討する)を内容とする三つの確認事項について、会社と組合との間で合意が成立していると認められる。
(4)会社は、A2らとの間で30年シフトを労働条件とする労働契約書を締結しておらず、また、元年11月25日にB2社員が組合側に対し、組合との確認事項とは異なる第1会社契約書案を提示し、その上、B社員は2年1月6日にA2に対し、同月9日には組合に対し、組合との確認事項とは異なる第2会社契約書案を示すなどしており、会社は、確認事項を履行していないし、履行する意思もない。
(5)会社は、確認事項を履行していない理由として、①確認事項自体が具体性のないもので内容が確定できていないこと、②団体交渉の際の認識は、確認事項については持ち帰って相談するという認識であること等、③元年シフト〔注.元年7月24日に会社が貼り出したもの〕への変更は、売上の大幅な減少に伴うもので、必要やむをえないものであること等を主張するが、会社が確認事項を履行していないことに合理的な理由はない。
(6)元年11月18日の団体交渉における確認事項に係る会社の対応は、団体交渉における確認事項を合理的な理由もなく履行しないものであり、組合にとって団体交渉の成果である合意を無視し、団体交渉を実質的に無意味にするもので、不誠実であるといえるから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
 さらに、このような会社の対応は、A2組合員らの心理的な動揺や不安を誘い、ひいては組合の組織的な混乱や弱体化を招くことを意図したものといえるから、支配介入として、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
3 4年11月28日、同年12月4日及び2年1月6日、B2社員が労働契約書について、組合を介さずに組合員と直接接触したことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるか(争点3)
 元年11月18日の団体交渉において、30年シフトを労働条件とする労働契約書を締結して原状回復を図り、その後のシフト変更の必要があれば改めて団体交渉で検討することが確認事項として合意されている。
 それにもかかわらず、同月28日及び同年12月4日に、B2社員が、組合を介さず直接A2組合員に労働契約書の話をし、さらに、2年1月6日には、組合に提出前の第2会社契約書案を直接提示している。
 また、B2社員の言動は、会社の指示の下に、ないしその意を受けて、人事労務管理等の担当者の立場で職務上行ったものといえ、会社の行為として帰責される。
 会社は、組合を介さず組合員に直接意志確認しており、かかる会社の行為は組合員を組合から分断し、組合を無視ないし著しく軽視する行為であり、その自主性を否定して弱体化を図るものといえるから、支配介入として、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
4 救済方法
 ①これまでの会社の団体交渉の要求に対する態度に鑑み、主文1のとおり本命令書を受領した日から2週間以内という期限を定めて団体交渉に応じることを、②今後の当事者間の誠実かつ円滑な団体交渉を期するため、主文2のとおり組合員の労働契約書の締結、シフト変更の必要性等について団体交渉の要求があったときは、誠実に応じることを、③元年11月18日の団体交渉における確認事項が履行されていないことから、主文3のとおり、確認事項に基づいて、A4の労働契約書を作成し同人に手交することを、④同団体交渉で、30年シフトを労働条件とする労働契約書を締結する合意が成立しているにもかかわらず労働契約書を締結していないことが認められること等から、主文4及び5の範囲でA3及びA4に対し、賃金相当額及び利息を支払うことを、⑤会社は組合の存在を無視ないしは著しく軽視する姿勢が窺われることから、主文6のとおり組合並びにA2らに交付することを、それぞれ命ずることが相当である。
 
掲載文献   

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