労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  宮城県労委平成30年(不)第4号
結学館不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年2月10日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が、組合員A1の職場復帰を認めない姿勢を示していること、②法人が、団交申入れに対し回答期限までに回答せず、団交が開催されなかったこと、③法人が、団交において、組合員A1及びA2の未払い賃金にかかる議題について、訴訟を提起することを理由として交渉に応じなかったこと、④法人の理事長が、組合活動に対して萎縮効果を与え妨害する発言を行ったこと、⑤同理事長が職員らを集めて行ったミーティングにおいて、組合の要求書及び活動を批判する発言を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 宮城県労働委員会は、①について労働組合法第7条1号、②及び③について同条第2号、④及び⑤について同条第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(i)A1の自宅待機命令を解き原職復帰させること、(ⅱ)未払賃金について団交を求められたときの十分な説明・誠実交渉応諾、(ⅲ)組合活動に萎縮効果を与え、又は自主的な組合活動を阻害する言動により組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書の交付・掲示を命じた。
 
命令主文  1 法人は、組合の組合員であるA1氏の自宅待機命令を解き、原職に復帰させなければならない。
2 法人は、組合員の未払賃金について組合から団体交渉を求められたときは、資料を提示して回答の根拠について十分に説明し誠実に交渉に応じなければならない。
3 法人は、A1氏を復職させる条件として組合に広報活動を止めるよう求めたり、職員らを集めて組合への明らかな批判や非難を述べたりするなど、組合の組合活動に萎縮効果を与え、又は自主的な組合活動を阻害する言動により、組合の運営に支配介入してはならない。
4 法人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、日本産業規格A列4番以上の大きさの白紙に下記の内容を記載し、組合に交付するとともに、同一の内容を日本産業規格A列3番以上の白紙に明瞭に認識できるような大きさの楷書体で記載して、職員室の全職員が見やすい場所に7日間掲示しなければならない。

令和 年 月 日
X組合
 共同代表 A2 様
 当法人が行った下記の行為は、宮城県労働委員会により、労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。当法人はこのことを誠実に受け止め、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
1 貴組合員であるA1氏に対し、自宅待機命令を長期間にわたって継続したこと。
2 平成30年10月31日に貴組合が行った団体交渉申入れに同年12月17日まで回答しなかったこと。
3 平成30年10月10日、平成31年2月12日及び同年3月19日に開催された団体交渉において、未払賃金の支払いに関する交渉に応じなかったこと。
4 平成30年10月10日に開催された団体交渉において、貴組合員であるA1氏を復職させたければ広報活動を止めるよう貴組合に求めたこと。
5 平成30年7月11日に当法人の職員らを集めて行なったミーティングにおいて、貴組合の運営や自主的な組合活動を阻害するような発言をしたこと。
学校法人Y
理事長 B
(注:年月日は、文書の交付の日を記載すること)
 
判断の要旨  1 法人が組合A1組合員の自宅待機命令を継続していることは、労働組合による正当な組合活動をしたこと又は組合員であることの故をもって行った労働組合法第7条第1号の不利益取扱いといえるか(争点1)
 職場復帰を求めるA1に対しこれを認めないことは、同人にとって不利益な取扱いであることは明らかであり、たとえ給与が支払われていても、職場に就労できないことによる精神的な不利益及び職務上の経験を積む機会を失う職務上の不利益があるといえる。
 組合により掲載、配布されたホームページ及びビラの内容は概ね真実と認められ、法人の名誉・信用等への不相当な侵害や役員・管理職等に対する不相当な個人攻撃や誹謗中傷に及んでいるとまではいえない。また、その目的、態様も組合活動として社会通念上許される範囲内のものであると認められる。よって、組合の活動は、労働組合の正当な行為であると認められる。
 業務への支障があるとする法人の主張は、自宅待機命令を継続する正当な理由とは認められず、及び法人は組合に対する嫌悪の情に基づき自宅待機命令を継続していると認められることから、法人は不当労働行為意思に基づいて自宅待機命令を継続していると言わざるを得ない。
 よって、法人が、A1組合員の自宅待機命令を継続していることは、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
2 平成30年7月に組合が行った団交申入れに回答期限までに回答せず、更に12月17日まで回答しなかった法人の対応は労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否といえるか(争点2)
 組合が申し入れた交渉事項は義務的団体交渉事項であり、これら事項について、法人は訴訟を提起することを理由として話し合いに応じておらず、議論が尽くされていたとは認められない。
 法人は、その後誠実に交渉に応じていると主張するが、自宅待機は、平成30年10月1日に組合が行った第5回団体交渉申し入れの時点で既に4か月を経過しており、一日も早く解決を図る必要性があったことからすれば、法人がたとえその後の団体交渉に誠実に応じていたとしても、そのことは前記判断には何ら影響しない。
 よって、平成30年7月に組合が行った団交申入れに回答期限までに回答せず、更に12月17日まで回答しなかった法人の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
3 平成30年10月10日、31年2月12日及び3月19日に開催された団体交渉において、未払い賃金に関する交渉に応じないことは、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否又は不誠実団交といえるか(争点3)
 団体交渉で議題となった組合員の未払い賃金に関する事項は義務的団体交渉事項であり、法人には組合の要求や主張に対しその具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし、それらにつき論拠を示したり、必要な資料を提示したりする義務がある。この点について、組合が根拠資料の提出を要求しているにもかかわらず法人は前提となる事実関係を共有するための資料を組合に提示し理解の隔たりが埋まるよう説明を尽くすなどの対応を何らすることなく、訴訟を提起することを理由に話し合いや資料の提出に応じていない。これらは労組法第7条第2号の団体交渉拒否又は不誠実団交に該当する。
4 平成30年10月10日に開催された団体交渉における法人の発言は、法人がA1を復職させたければ組合に広報活動を止めるよう求めるものであって、労働組合法第7条第3号の支配介入といえるか(争点4)
 発言は、その全体の趣旨から、組合及びA1組合員に対し、職場に復帰したければホームページ掲載やビラ配布などの広報活動を行わないよう求めるものであり、組合活動に萎縮効果を与え、妨害するなどの影響を及ぼすものであったと認められる。
 発言をきっかけとして、広報活動を中止するなど組合の活動への具体的影響が生じた事実は認められないが、労働組合法第7条第3号が使用者による支配介入を禁止する趣旨は、外形的に労働者及び労働組合の活動を妨げるおそれのある行為を一律に制限することによって、労働者及び労働組合の権利及び自由を確保することにあると解されるから、現実に労働組合に何らかの不利益が発生することは支配介入の要件ではない。
 平成30年10月10日に開催された団体交渉における法人の発言は、労組法第7条第3号の支配介入に該当する。
5 平成30年7月11日に法人が職員らを集めて行った組合の活動に関する発言は、労働組合法第7条第3号の支配介入といえるか(争点5)
 使用者にも言論の自由は保障されるが、憲法第28条の団結権を侵害してはならないという制約を受けることは免れず、使用者の言論が組合の結成、運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為に該当する。
 発言は、組合から送付された要求書の内容について間違っていると考える箇所については間違いがあると翌日の団体交渉で主張するよう理事長が職員に求めるなど、労使関係上の具体的問題についても言及しているのであるから、労働組合活動一般に対する批判にとどまらず、組合に対する批判を含んでいると認められる。
 また法人の代表者である理事長が、法人のほとんどの常勤職員を理事長室に集めて、組合への明らかな非難や批判を述べ、さらに、翌日の団体交渉にはほぼ全員の職員が出席するよう示唆して、要求書の内容には間違いがあると発言するよう求めることは、組合に加入すれば、非難や批判にさらされることになると職員に感じさせ、組合に加入することを威嚇し、組合活動を阻害する効果を有するものといえる。
 よって、理事長の7.11発言は、組合の組織、運営や組合活動に悪影響を与えるものであることが明らかであり、組合の組織、運営に対する支配介入に当たる。 

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