労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和元年(不)第24号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年3月26日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①団交において、組合が要求した財務諸表等経営状況が判断できる資料の提供を拒否し、それに代わり得る資料の提供や説明を行わなかったこと、②その後の団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、会社に対し、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、文書の手交を命じた。
 
命令主文   被申立人は、申立人に対し、下記文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
X組合
  執行委員長 A1 様
株式会社Y   
代表取締役 B
 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このようなことを繰り返さないようにいたします。
(1)令和元年6月25日の貴組合との団体交渉における組合員の賃上げ等の要求についての協議において、不誠実な対応を行ったこと。
(2)貴組合が令和元年7月17日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったこと。 
判断の要旨  1 1.6.25団交における会社の対応は不誠実団交に当たるか(争点1)
(1)本件の経緯については、組合の賃上げ及び一時金の要求に対し、1.5.9団交において、会社が賃上げ等には原資の問題があり、会社の経営状況が悪い旨発言したことから、組合は、原資の有無等について判断するためとして、損益計算書及び貸借対照表又はそれに代わる資料を求め、これを受けて会社が、1.5.31連絡文書で会社の純利益率の推移を提示したところ、組合はそれだけでは不十分として、経営状況について十分な情報を得るために、損益計算書や貸借対照表等経営状況が分かる資料の開示を求めたとみることができる。
(2)使用者には、誠実に団交にあたる義務があり、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示したりするなどし、また、結局において労働組合の主張に譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべきところ、会社が、経営状況が悪いことを理由に賃上げ要求に応じない対応をとるのであれば、まずは自らの主張やその根拠について誠実に組合に対して説明すべきである。
(3)そこで、1.6.25団交前と交渉時における会社の対応について検討するに、①平成25年度から29年度までの単年度損益はいずれも黒字であったにもかかわらず、会社は1.5.9団交において赤字と説明しているといえ、説明に矛盾があるのではないかとの疑問が残ること、②会社全体の取引額や取引の規模すら明らかでない中で、純利益率の推移を示したことのみをもって、会社が必要な資料の提示をし、十分に会社の経営状況を説明したことにはならないこと、③1.6.25団交において、会社は純利益率の推移だけで説明は十分であるとの主張も、1.5.31会社連絡文書の数字について補充の説明を行っていないことから、1.5.31会社連絡文書を組合に送付したことをもって、誠実に説明を行っていたとみることはできない。
(4)会社は、1.6.25団交において、会社の事業内容等・経営環境等を十分に説明しており、説明義務を果たしていることは明らかである旨主張するが、会社は、会社の事業内容には不確定要素が多いことや、その状況を踏まえて賃上げ等について検討する必要があるなどの説明は行っているものの、外注先に価格決定権があったり、現金を準備しておく必要があったりするなどの事情は、一般的に多くの企業に当てはまる事情であり、この説明をもって、経営が苦しいために賃上げが困難という会社主張に対して、実質的に交渉が成り立つほどの説明を行ったとは言い難い。
(5)さらに、会社は、労働組合に対して損益計算書等の開示義務がなく、また、開示により会社に回復し難い損害を生じさせる可能性があったと主張するが、会社は、会社法上の開示義務がないからといって、それがこれらの資料を開示せず、又は、これに代替する資料を提出したり説明しないことが不誠実団交には当たらないとする理由にならないことは明らかである。
(6)会社は、1.6.25団交において、賃上げに応じられない根拠となる資料の提示やそれに代わり得る説明を尽くさず、抽象的な回答をするにとどまり、自らの主張の根拠を十分には示していなかったと言わざるを得ず、かかる会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
2 1.7.17団交申入れにおける会社の対応は、正当理由のない団交拒否に当たるか(争点2)
(1) 1.7.17団交申入れにおける協議事項(①賃金、一時金引上げ供給にかかる財務諸表等の提供、②給与体系、③組合掲示板の貸与、④休暇制度)は、いずれも義務的団交事項に当たることは明らかである。
(2)これらのうち、損益計算書及び貸借対照表については、組合から「説得的かつ明確」な説明がなされたら団交に応じることを検討するとの会社の要求に対し、組合は一定自らの主張を説明しているにもかかわらず、会社がそれを「説得的かつ明確」な主張ではないと一方的に判断しているといえる。そして、そもそも、労働組合が使用者に団交を申し入れるに際し、当該団交要求事項が義務的団交事項であれば、それを要求する根拠等をあらかじめ使用者に説明することは求められておらず、それがない限り使用者が団交に応じなくてもよいというものでもない。
 また、会社が、団交において議論は平行線をたどることが予想されると考えたとしても、一方的にそのように考えたことをもって、団交に応じなくてもよいということにはならない。
(3)会社は、これらのうち②、③、④については(i)①について組合から「説得的かつ明確」な説明がなされた後に併せて団交を行う予定でいた、(ii)既にこれについては十分に協議が尽くされていた、(iii)団交の再開について「説得的かつ明確」な説明がされれば応じる用意はあった旨主張するが、会社が示した財務諸表等に関する条件が団交に応じない理由にならない上、そもそも団交申入れにおける複数の協議事項の一つについて条件が整わないことをもって、それ以外の協議事項に応じない正当な理由とすることはできない。
 また、②(給与体系)については、それまでの団交において何らかの協議が行われた事実は認められず、③(掲示板の貸与)については、会社が掲示板の貸与を拒否する回答を行った後に、組合がその合理的な理由の説明を求めたにもかかわらず、交渉が行われておらず、④ついては、インフルエンザに罹患した場合の休暇の取扱いに関して会社が1.6.25団交で説明した内容を労働協約という形で明確にすることを要求するものであり、当該団交において要求から取りさげる旨組合が述べたからといって、当該協約化の要求について十分協議したといえないのは明らかである。
 なお、本件申立て後に、2.4.6団交及び2.6.18団交を行い、1.7.17団交申入れにおける協議事項に関して団交に応じており、会社の対応が正当な理由のない団交拒否には当たらないとも主張するが、会社がそれまでの間、正当な理由のなく団交を拒否したことについて、その不当労働行為性が当然に消滅するものではないから、会社の主張は採用できない。
 以上のとおりであるから、1.7.17団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 
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