労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成30年(不)第59号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・個人X2 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年2月12日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が組合員1名を昇格させないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、バックペイ及び文書の手交を命じた。   
命令主文  1 被申立人(会社)は、平成30年4月11日付けで、申立人X2を3等級59号俸の賃金を上回る4等級の号俸であったものとして扱い、それ以降の賃金を改めて決定し、同人に対し、是正後の額と既に支払った額との差額を支払わなければならない。
2 被申立人(会社)は、申立人ら(X1組合・個人X2)に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日 
 X組合
  執行委員長 A1 様
株式会社Y   
代表取締役 B
 当社が、平成30年4月11日付けで、貴組合員X2氏を4等級に昇格させなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 会社は、本件は昇格に関する事案であって、積極的に昇格させるべき事情が存在しない限り、不当労働行為には該当しない旨主張するところ、確かに、人事施策上、昇格については会社が相当の裁量を有するものではある。しかし、本件の昇格は、会社の経営方針に関与するような地位への昇格ではなく、一般の従業員の昇格の範囲内のものに当たり、会社が上記裁量を逸脱して、組合員を非組合員と比較して差のある扱いをし、昇格させなかった場合には、不当労働行為に該当し得るというべきである。
2 そこで、会社の昇格制度について検討するに、会社の等級規程は、①昇格は要件を満たした者の中から経営会議に諮り社長が決定する、②平成29年3月11日付改定の等級規程によると、直近2年の人事考課結果がB以上で、上司の推薦と考課責任者の承認を得たものが昇格候補者となると定めていることが認められる。そして、組合員X2の最終考課ランクは、平成28年度、同29年度ともBであったことが認められるのだから、上司の推薦や考課責任者の承認を経て経営会議に諮り社長が決定するという過程において、4等級に昇格しない旨決定されたというべきである。
 会社においては、組合や従業員は、事務職の3等級から4等級への昇格に関する基本的な情報でさえ、容易には入手できない状況にあったというのが相当である。さらに、会社はX2と比較し得る同一属性の従業員について、昇格に関する情報をほとんど開示しておらず、また、昇格において、いかなる点を重視するのかも明らかではないのだから、昇格者の決定の過程の一部に人事考課結果を使用しているとはいえ、公平性や客観性を担保した運用にはなっておらず、実際には、恣意的な決定が可能な状態にあったというべきである。
3 一方、X2は、平成26年度から同29年度までの最終考課ランクがいずれもBであることなどが認められ、少なくとも平均的な能力を持った従業員であるというのが相当である。
 平成22年度から同26年度までのX2の処遇については、22年9月の京都営業所閉鎖を契機に、会社はX2に対し降格と賃下げを繰り返したといえるが、それらについての疎明はない。
 平成25年5月の組合との確認書においてX2の等級を3等級88号俸とする条項が含まれることと、24年4月に会社が等級・号俸制度を導入したことを考え併せると、会社は、等級・号俸制度の導入の際に、X2を3等級に格付けたというのが相当である。会社は、同制度導入時に、X2と同程度の経験のある事務職はもとより、X2より経験の短い事務職も4等級以上に格付けたというべきであるところ、このような状況下で、X2を3等級に格付けた理由についての疎明はない。
4 X2の基本給相当額の水準は3等級の事務職の中では突出して高いことなどと、等級・号俸決定時に、会社がX2組合員と同程度の経験のある事務職はもとより、X1組合員より経験の短い事務職も4等級以上に格付けたことを併せ考えると、会社は、等級・号俸制度導入時にX2を等級について、他従業員と差別的に扱い、その結果生じた不均衡を是正しないまま、平成30年度においても、X2を意図して3等級に留め置くとの判断をしたというのが相当である。
5 平成24年4月21日以降、4等級に昇格した事務職はいない等の会社の主張に関し、30年4月21日時点の事務職の基本給相当分の一覧表からすると、この時点でも、5名の5等級、6名の4等級の事務職がそれぞれ存し、等級・号俸制度導入後6年間にわたって、3等級から4等級に昇格した事務職がいないこと自体が、かなり不自然である上、制度導入後に、4等級に昇格した事務職がいない理由についての疎明はないことなどからすると、人事考課制度そのものの公平性や客観性がさほど高くなく、人事考課後の過程はさらに恣意的な決定が可能であった中においては、会社が、平成30年度の昇格において、X1組合員を3等級に留め置き、他従業員との等級についての不均衡を是正しなかったことに正当な理由があるとみることはできない。
6 会社は、X2組合員の組合加入通知の直後に、等級・号俸制度を導入して、同人を敢えて3等級としたということができ、その後の経過については、組合が同組合員の処遇の改善について、非組合員との比較の上での客観的な説明や協議を求めたのに対し、会社は、平成28年8月2日の組合の労働委員会へのあっせん申請後も、組合に対し、相手方の理解が得られるような対応を取ろうとしなかったというのが相当である。また、本件申立て後のことではあるが、X2組合員が休職した後の復職の際には、勤務時間の短縮を求めた同人に対し、その上司は、敢えて、時短勤務をすれば契約社員になる旨述べるなどしたことが認められ、本件申立て時において、会社従業員で組合に加入していたのは、X2組合員のみである。
 これらのことからすると、会社は、X2組合員が組合に加入し、組合とともに、処遇上の問題について協議を求めるなどし続けてきたことを嫌悪していたと推認できる。
7 以上を総合的に判断すると、会社が、平成30年4月11日付けで、X2組合員を4等級に昇格させなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、もって組合を弱体化させるものと判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1項及び第3号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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