労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  和歌山県労委令和2年(不)第1号
和興運送不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年10月6日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①雇用する組合の組合員に対して、令和元年夏季一時金を支給しなかったこと、②令和2年1月10日及び同年3月21日の団体交渉に出席しなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 和歌山県労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号、②について同条第2号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)令和元年夏季に会社が非組合員に対して行なった金員の支給について、組合に対して、その趣旨、支給額及び支給対象者の範囲を明らかにし、組合と協議の上、必要な是正措置を講じなければならないこと、(ⅱ)令和元年11月11日に会社が和歌山労働基準監督署に賃金規程の改定を届け出たことに関して、組合が会社に対して行った団体交渉の申入れに、誠実かつ速やかに応じなければならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。
 
命令主文  1 被申立人会社は、令和元年夏季に会社が非組合員に対して行なった金員の支給について、申立人組合に対して、その趣旨、支給額及び支給対象者の範囲を明らかにし、組合と協議の上、必要な是正措置を講じなければならない。
2 会社は、令和元年11月11日に会社が和歌山労働基準監督署に賃金規程の改定を届け出たことに関して、組合が会社に対して行った団体交渉の申入れに、誠実かつ速やかに応じなければならない。
3 その余の申立ては、いずれも棄却する。
 
判断の要旨  1 会社は、会社に雇用されていた組合の組合員を除く、非組合員にのみ令和元年の夏季一時金を支払ったか。これを支払ったとした場合、組合活動を理由とした組合員に対する不利益取扱い及び組合への支配介入として法第7条第1号及び第3号に該当するか(争点1)
(1)争点となっている金員(以下「本件金員」)の支給については、以下の事実が認められる。
①組合の組合員には、本件金員が支給されなかったこと。特に組合員であるA1については、組合による再三の要求があったにもかかわらず、会社がその支給を拒否したこと。
②非組合員のうち少なくともC1及びC2については、本件金員が支給され、C1に対する支給額は10万円(ないしは9万円)であったこと。また、本件金員が仮に弁償金として支給されたものであれば、支給を受けた非組合員が他にもいた可能性が高く、令和元年夏季一時金として支給された場合にも、その可能性は否定できないこと。
③上記②の非組合員に対する本件金員の支給は、一貫して組合に秘匿する形で、これが行われたこと。
 なお、会社は、本件金員はB2会長がポケットマネーから支払ったものであり、会社が支給したものではない旨主張するが、本件金員は会社を代表する立場にあるB1社長が手渡ししたものである以上、会社として支給したものと考えるのが相当である。
 以上の事実を勘案すれば、組合の組合員が、組合員であることを理由として本件賃金の不支給という不利益取扱いを受けたことは明白である。
 すなわち、会社が非組合員に対してのみ本件金員を支給し、組合員に対してこれを支給しなかったことは、法第7条第1号の不当労働行為に該当するものと判断される。
(2)そこで考えるに、本件金員については、いつ誰にどのような趣旨でいくら支給されたのか。金員を支給した趣旨や支給額、支給対象者の範囲が明確ではないという問題が一方にある。
 しかし、このような状況をもたらしたのは、もっぱら本件金員の支給が組合に秘匿する形で行われたことによるものであって、その責は会社が負わなければならない。
 とはいうものの支給額の明確ではなく非組合員全員に対して金員支給されたとの事実も認定されていない本件の場合、一部の非組合員に対して支給された金額とされる10万円をもって、組合員に対しても同額の金員の支給を命ずることは労働委員会に与えられた裁量の範囲を明らかに超えるものとなる。
 よって、主文第1項のとおり命令する。
(3)なお、本件金員については、上述したように、支給の趣旨が明確でないほか、非組合員であっても金員を支給されなかった者がいた可能性があり、本件金員の不支給が組合の弱体化を意図したものであるとまで言うことは困難である。
 よって、会社による支配介入があったとまでは認められず、法第7条第3号の不当労働行為には該当しないものと判断する。
2 会社が令和2年1月10日の団体交渉、3月21日の団体交渉の出席を拒否したことなどが、正当な理由なき団体交渉拒否として法第7条第2項に該当するか(争点2)
(1)令和2年1月10日の団体交渉について
 会社は、令和2年1月10日の団体交渉について、開催までに回答を求めた質問に対して、組合が回答しなかったため、組合が参加を拒否したものと理解している旨主張する。
 しかし、会社の質問〔注.これまでの経緯等について〕に対して、組合は一定程度回答をした。それにもかかわらず、会社が組合から回答がなかった旨主張することは失当であり、B3取締役の体調不良という理由があったとしても、組合に何の連絡もなく団体交渉の場に現れなかったことは、正当な理由なく団体交渉を拒否したものと言わざるを得ない。
 よって、同日の団体交渉に係る会社の対応は、法第7条第2項の不当労働行為に該当するものと判断する。
(2)令和2年3月21日の団体交渉について
 令和2年3月21日は、双方合意の上決められた団体交渉開催日とは言えず、会社が現れなかったとしても、そのことだけで、正当な理由なく団体交渉が拒否されたとまで言うことは困難である。
 他方、同日の団体交渉は、組合が令和2年3月13日に申し入れたものであるが、会社は日程調整ができないこと以外に、その理由を明らかにしていない。
 会社は、その一方で、団体交渉開始日を令和2年3月28日とすることを組合に対して繰り返し求め、同日の開催に固執するとともに、組合による当日の団体交渉は勤務があるため開催できないとの回答に対しても、そのような回答は一方的であるとして、これを無視する姿勢に終始している。
 よって、以上の事実から、同日の団体交渉に係る会社の対応も、正当な理由なき団体交渉拒否として、法第7条第2項の不当労働行為に該当するものと判断する。
 本件の場合、賃金規程の改定案について協議が成立しておらず、組合が求める救済内容も「会社は、組合に知らせず賃金規程の改定を和歌山労働基準監督署に届け出たことに関して、誠実に団体交渉を行うこと」であることを勘案して、主文第2項のとおり命令する。
  
掲載文献   

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