労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  千葉県労委令和2年(不)第1号 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年8月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合の組合員Aを解雇したこと、②組合が平成2年2月25日付けで申し入れた団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがあった事案である。
 千葉県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、組合が平成2年2月25日付けで申し入れた団体交渉に速やかに、かつ、誠意をもって応じなければならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が平成2年2月25日付けで申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠意をもって応じなければならない。
2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、令和元年10月9日付けでAを解雇したことは、労組法第7条第1号(労働者が労働組合の組合員であること又は労働組合に加入しようとしたことを理由とする不利益取扱い)に当たるか(争点1)
(1)法人がAの組合加入を認識又は予見していたとすると、正職員とするとした時期に正社員化の話がないことに対する不満や、職場の労働環境の改善及び配置転換の求めに対する法人の対応への不満を持つAが、行政機関や司法機関の介入を行う旨を法人に報告したことに対して、法人が労働組合を嫌悪して解雇したのではないかとの疑いも生ずる。
(2)しかし、組合が組合加入通知を送付したのは令和元年10月15日であったのに対し、法人は解雇通知書を同月9日に既に送付していたのであるから、解雇の意思表示をした時点で、法人がAの組合加入を認識していたとは認められない。また、(Aが、平成31年8月10日の職員会議で配布した、自らは採用当初から正職員であり、工賃向上計画策定案の提出に対する法人の対応、配置転換の要望に対する法人の対応がハラスメントに該当する等の内容について、行政機関及び司法機関の介入を行うので報告する旨の)説明文書には労働組合や団体交渉の文言はなく、かつ、労働組合は行政機関や司法機関ではないから、説明文書からAの組合加入を認識又は予見することはできない。
 また、上記説明文書に記載がない点について組合は、職員会議で配布した際に、労使の一つの解決方法として、労働組合の介入により解決する方法もある旨伝えていたと主張するが、これを認めるに足る証拠があるとはいえないから採用できない。
(3)法人がAの組合加入について認識又は予見していたことについて、これらのほかに組合から具体的な主張はなく、そのほかに、法人が解雇の意思表示をした時点で、Aの組合加入を認識又は予見したと認めるに足る証拠もない。
 よって、法人がAを解雇した理由は、労働組合への嫌悪によるものとは認められないから、Aの解雇は、労働法第7条第1号に当たる不当労働行為とはいえない。
2 法人が、令和2年2月25日付け文書で組合から申入れのあった団体交渉を、同年3月6日付けで拒否したことは、労組法第7条第2号(正当な理由のない団体交渉拒否)に当たるか(争点2)
(1)法人は、団交申入回答書において、組合に対して(「解雇理由書に対して撤回の理由を文書にて、ご提示ください」として)文書による回答を求めていることは、回答があれば団体交渉を続ける意志があったことを示すもので、団体交渉を確定的に拒否したものではない旨主張する。
 しかし、組合からの団体交渉の申入れに対し、法人は、団体交渉申入回答書において、文書による回答を求めるのみで団体交渉設定の余地を示してはいないほか、末尾では「今後、貴組合との団体交渉を打ち切りたいと考えます。」としていた。第1回団体交渉及び第2回団体交渉のいずれにおいても、法人の出席者が今後団体交渉は行わない旨の発言をしていることからしても、法人が主張する団体交渉継続の意志を、団体交渉申入回答書から読み取ることはできないというほかない。
 このため、法人は、団体交渉申入回答書により団体交渉を拒否したと評価するのが相当である。
(2)法人は、令和2年3月6日付けの団交申入回答書により、団体交渉を打ち切りとする意思を示し、組合からの団体交渉の申し入れを拒否しているが、正当な理由があるとして、次のとおり主張しているので、以下検討する。
①団体交渉を2回行ったこと
 A組合員の解雇をめぐって、組合と法人との間で双方の主張が対立していることがうかがえるが、法人は、組合からの要求にもかかわらず、決算書類を組合に対して提示しておらず、組合に対し、A組合員の解雇について必要な資料を提示の上、十分に説明しているとはいえない。法人が決算書類を提示することで、A組合員の雇用が経営上困難かどうかについて、なお交渉の余地が生ずると認められるから、団体交渉の進展・継続の余地が全くなくなっていたとまでは認めることができない。
 よって、単に団体交渉を2回行ったことだけをもって、団体交渉拒否の正当な理由になるとは認められない。
②組合から文書で回答がなかったこと
 法人は、解雇を撤回すべき理由を文書で提示することを組合に対して求めたにもかかわらず、組合がこれに応じなかったことを挙げ、交渉拒否には正当な理由がある旨主張している。
 しかしながら、組合の団体交渉要求事項について、その趣旨、理由と根拠並びに正当性(均衡の原則、経済原則)等を団体交渉の前提としてあらかじめ文書で説明しておかなければならないとする根拠はなく、また、その文書による説明がなければ団体交渉することができないというものでもない。
 したがって、法人が、組合からの文書の提示を団体交渉を開催の条件とすること自体が失当であり、これを前提に組合の対応を問題としても、団体交渉拒否の正当な理由とは認められない。
③第2回団体交渉における組合の対応が不誠実であること
 第2回団交申入書には賃金台帳等の開示を求める旨の記載が認められるところ、法人は、第2回団体交渉において、賃金台帳、タイムカード及び給与支払明細書等を準備したにもかかわらず、B3書記長が、左手で拒否し、一瞥もしなかった旨主張する。
 しかし、第2回団体交渉の議事録からは、法人が主張するようなB3書記長の行為を認めることはできず、そのほかにこれを認めるに足る証拠はない。
 したがって、組合が団体交渉において不誠実であったとの主張は前提を欠くほか、仮に、団体交渉における組合の対応に不誠実な面があったとしても、法人が説明を尽くすことなどにより団体交渉を進める余地はあったと解されるから、団体交渉における組合の対応のことのみでは、団体交渉拒否の正当な理由とは認められない。
(3)上記のとおり、法人が主張する団体交渉打切りの理由について、いずれも団体交渉を拒否する正当な理由とは認められないから、法人が、令和2年2月25日付け文書で組合から申入れのあった団体交渉を、同年3月6日付けで拒否したことは、労組法第7条第2号に当たる不当労働行為である。 
掲載文献   

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