労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  千葉県労委令和元年(不)第2号
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年7月27日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、X組合の団体交渉申入れに対し、Y法人が、①質問事項への文書での回答を団体交渉実施の条件としたこと、②組合執行委員長の組合活動に対し、いつ、どこで組合活動を行ったのか回答を求めたこと、③X組合とY法人との交渉状況等が記載された文書を給与明細に同封し、Y法人の全職員に配布したこと、④Y法人の施設の施設長が職員に申立外D1組合へ加入するよう指示したこと、⑤団体交渉において、D1組合の組合員が同席し、X組合側出席者に対して応対したこと、及びX組合側出席者が幹部職員に見解の表明を要求したことに対するY法人の対応、⑥Y法人施設にある掲示板に、Y法人名で、X組合及び組合執行委員長等を誹謗中傷する文書が掲示されたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 千葉県労働委員会は、①及び⑤について労働組合法第7条第2号、②及び③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、Y法人に対し、(i)X組合が申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠意をもって応じなければならないこと、(ⅱ)職員に対し、X組合と組合に加入していない職員・Y法人とを対立させる内容の文書を配布することによって、X組合の運営に介入してはならないこと、(ⅲ)X組合との団体交渉において、X組合の同意なくX組合以外の労働組合の組合員を同席させ、同組合員に応対させることにより団体交渉の円滑な進行を阻害するなど、X組合に対して不誠実な対応してはならないこと、及び(ⅳ)文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y法人は、X組合が令和元年11月6日及び同月16日に申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠意をもって応じなければならない。
2 Y法人は、職員に対し、X組合とX組合に加入していない職員・Y法人とを対立させる内容の文書を配布することによって、X組合の運営に介入してはならない。
3 Y法人は、X組合との団体交渉において、X組合の同意なくX組合以外の労働組合(労働組合法に適合する労働組合に限らない。)の組合員を同席させ、同組合員に応対させることにより団体交渉の円滑な進行を阻害するなど、X組合に対して不誠実な対応をしてはならない。
4 Y法人は、縦60センチメートル、横80センチメートルの白紙の全面に下記内容を明記し、これをY法人が運営する全ての施設の見やすい場所に、それぞれ7日間、本命令書受領の日から7日以内に掲示しなければならない。
X組合執行委員長
A様
    年 月 日
(注:年月日は掲示の日を記載すること。)
Y法人    
理事長 B
 当法人が行った下記の行為は、千葉県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような不当労働行為を繰り返さないようにします。
1 2019年秋季統一要求に係る団体交渉の開催要求について、正当な理由なく応じなかったこと。
2 全ての職員に対し、貴組合と貴組合に加入していない職員・当法人とを対立させる内容の令和元年12月20日付「大切なお知らせ」を給与明細と共に配布したこと。
3 貴組合の組合員の解雇撤回にかかる令和2年2月21日の団体交渉において、貴組合以外の組合員を同席させ、貴組合からの見解表明の要求を含む団体交渉について同組合員に応対させたことにより団体交渉の円滑な進行を阻害し、不誠実な対応を行ったこと。
4 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 2019年度秋闘統一要求に係る団体交渉の開催要求について、法人が応じなかったことは、労組法第7条第2号(団体交渉拒否)に当たるか(争点1)
(1)組合が11月6日、同月16日、同月18日と再三にわたり2019年4月統一要求に係る団体交渉を実施するよう法人に申し入れているのに、法人はいずれも年末一時金要求に係る資料の提出を団体交渉設定の条件としていることが認められ、かつ、団体交渉が現実に行われていないことを併せ考えると、法人において団体交渉を拒否しているものといえる。
(2)法人が文書による回答を団体交渉設定の条件としていることは明らかであり、このことが団体交渉拒否の理由であったと認められる。しかしながら、組合の団体交渉の要求事項について、その趣旨、理由、根拠並びに正当性(均衡の原則、経済原則)等を団体交渉の前提としてあらかじめ文書で説明しておかなければならないとする根拠はなく、また、その文書による説明がなければ団体交渉をすることができないというものでもない(大阪高裁判決平成元年8月18日大阪赤十字病院事件)。したがって、組合が年末一時金の要求の根拠について文書で回答しないことを理由に団体交渉を拒否することはできず、拒否理由は正当なものと認めることはできない。
(3)以上のとおり、法人が2019年秋闘統一要求に係る団体交渉に応じなかったことは、団体交渉を拒否したものであり、拒否したことに正当な理由も認められないから、労組法第7条第2号に当たる不当労働行為である。
2 B3事務局長が、令和元年11月19日付け電子メールにて、A1委員長に対し、組合活動を、いつ、どこで行ったか報告を要求したことは、労組法第7条第3号(支配介入)に当たるか(争点2)
(1)一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するために労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として正当なものということができない(最高裁判決平成元年12月11日済生会中央病院事件)。そして、本件において、法人及び組合は、労働時間中の組合活動が禁止されていることについて、争いはないと認められる。
(2) 11月17日午後8時29分の〔B3事務局長による、組合が年末一時金として一律3.0か月分の支給を求める根拠を書面で求める旨の〕電子メールの要求を受けてから同月18日の勤務時間を避けて回答書意見を作成するには、同月17日の就寝前や翌18日の出勤前、休憩時間及び勤務時間後に作成するほかないが、回答書意見が2ページにわたることからすれば、A1委員長が時間的に回答書意見の作成を同月18日の勤務時間内に行っていたのではないかとB3が疑問を抱くことには一定の合理性が認められる。
(3)さらに、同月19日のB3事務局長の電子メールには、A1委員長はデイサービスの管理者として重責を担っているとし、11月のデイサービスの売上げに関し暗雲が覆っているので、A1が勤務時間内に組合活動を行っているのであれば問題視せざるを得ない旨の記載があった。
 このことからすれば、A1委員長の組合活動を牽制する意図がB3事務局長にあったのでないかとの疑いが生ずるが、上記の疑問を抱くことには一定の合理性が認められること、「15日の業務時間終了後とのことですので良かったです」との電子メールを返信していることからすると、B3の意図は勤務時間中の組合活動の確認にとどまり、組合活動を妨害する意図までは認められない。
(4)よって、B3事務局長が、組合活動を、いつ、どこで行ったか報告を要求したことは、労組法第7条第3号に当たる不当労働行為とはいえない。
3 法人が、12月20日文書を給与明細に同封し、法人の全ての職員に配布したことは、労組法第7条第3号(支配介入)に当たるか(争点3)
(1)組合に対する法人の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、弁論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威圧的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合は支配介入となる( 東京地裁判決昭和51年5月21日プリマハム株式会社事件)。
(2)これを本件についてみると、法人は、B1理事長名で12月20日文書を給与明細と共に全職員に配布した。そして、当該文書は、①「真摯に業務に励まれる職員の皆様」を対象としているが、全職員に配布した事実のもとでは全職員を対象にしたといえ、②記載内容は組合を批判し、組合と組合に加入していない職員・法人とを対立させるものであり、③給与明細とともに全職員に配布され、④配布時期は、本件不当労働行為救済申立てがなされた後であり、⑤文書の内容をみるに、当該文書は、組合の要求内容及び活動は不適当であり、当該要求が受け入れられた場合は組織が衰退し消滅するとの印象を法人職員に与え、組合への不信感を抱かせるものであるから、法人職員の組合への加入を抑止し、組合活動への支持を失わせるとともに、組合の活動を萎縮させる効果を生じさせるものといえる。
 これらのことから総合して考えると、12月20日文書の配布は、組合員に対し威圧的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすものであるといえる。
(3)以上のことから、法人が12月20日文書を給与明細と共に、法人の全ての職員に配布したことは、支配介入に当たり、労組法第7条第3号に当たる不当労働行為である。
4 令和2年1月頃、B4施設長が、Cに、D1組合へ加入するよう指示したか。また、加入指示を行っていた場合、労組法第7条第3号(支配介入)に当たるか(争点4)
 B4施設長が、職員Cに〔申立外〕D1組合へ加入するよう指示したと認めるに足りる証拠はないから、労組法第7条第3号に当たる不当労働行為があったとまではいえない。
5 令和2年2月21日の団体交渉において、D2が同席し、組合側出席者に対して応対したこと及び組合側出席者がB2常務ら幹部職員に見解の表明を要求したことに対する法人の対応は、労組法第7条第2号(不誠実団交)に当たるか(争点5)
(1)法人は、D2〔申立外D1組合の組合員〕が団体交渉に出席することを認め、法人側の出席者として同席させて、D2に団体交渉の中心的役割を担わせていたものと認められる。
 また、法人はD2の出席を事前に組合に通知することのないまま第4回団体交渉に出席させ、組合に応対させたものと認められる。また、D2の発言内容も組合やA1を非難するものと認められる。このような状態に対して、組合は、法人に抗議するとともにD2の退席を求めたにもかかわらず、法人は、引き続きD2に応対をさせたことにより、第4回団体交渉の円滑な進行を阻害したものといえ、誠意をもって団体交渉に当たったとは到底認められない。
(2)A2書記長がB2常務らに発言を求めても、同人らはD2と話すよう促す旨の発言を繰り返し、D2の退席を求められても応対させ続けたことが認められるから、B2及びB3事務局長の態度は、組合の要求を真摯に受け止め、これをよく検討した上、組合の要求に応じられないことを納得させようとする態度が見られず、誠実性を著しく欠く態度と言える。
(3)以上のとおり、令和2年2月21日の団体交渉において、D2が同席し、組合の出席者に対して応対したこと及び組合側出席者がB2常務ら幹部職員に見解の表明を要求したことに対する法人の対応は、いずれも不誠実であるから、労組法第7条第2号に当たる不当労働行為である。
6 令和2年5月7日以降、C施設の職員休憩室にある掲示板に、D1組合名で、組合及び組合委員長等を誹謗中傷する内容の文書が掲示されたことは、法人による労組法第7条第3号(支配介入)の不当労働行為であるか(争点6)
 C施設の職員休憩室にある掲示板にB4施設長及び職員B5がD1組合名の文書を掲示した事実は認められず、また、D1組合名の文書の発行・掲示を法人の行為と評価することまではできないから、労組法第7条第3項に当たる不当労働行為があったとはいえない。 
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