労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成29年(不)第16号
不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和3年3月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が組合との合意のないまま賃金規定の改定を強行したこと、②組合からの申入れにもかかわらずその後の団交の開催を遅らせたこと、③改定前及び改定後における団交において、虚偽の説明を行い、また、組合らが求める資料の開示も拒否し続けたこと等が不当労働行為に当たる、として救済申立てがあった事案である。
 北海道労働委員会は、③のうち改定後の団交における資料の開示要求への対応が労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、①賃金規定に係る団交における誠実な対応、②団交において不誠実な対応を行うことにより組合らの運営に介入してはならないこと、③文書の掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、平成28年12月1日以降に適用している賃金規定に係る組合らとの団体交渉において、大半の従業員は同規定による賃金の方が従前より上がっているとの会社の趣旨や根拠について、具体的な資料に基づき組合に十分に説明をするなど誠実な対応をしなければならない。
2 被申立人は、前記1の団体交渉において不誠実な対応を行うことにより、組合らの運営に介入してはならない。
3 被申立人は、次の内容の文書を縦1メートル、横1.5メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、会社本社の正面玄関に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。

 当社が行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。
 貴組合との間の平成28年12月1日以降に適用している賃金規定に関する団体交渉において、大半の従業員は同規定による賃金の方が従前より上がっているとの会社の趣旨や根拠について、具体的な資料に基づき組合に十分に説明をするなど誠実な対応を行わなかったこと。
   年 月 日(掲示する日を記入すること)
X1労働組合
 執行委員長 A1 様
X2労働組合
 執行委員長 A2 様
Y会社    
代表取締役 B

4 申立人らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団交等における会社の対応について(争点1)
(1) 一般に、団交において使用者は、誠意をもって団交に当たらねばならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張のの根拠を、必要な資料を提示するなどしながら具体的に説明することが求められており、結論において労働組合の要求に対して譲歩することができないとしても、その理由を示して説明したり、反論するなどの努力をすべき義務を負っている。
(2)新賃金体系導入前の団交等における会社の対応
 組合らは、会社が賃金規定の変更の必要性や影響について説明するに当たり、新賃金体系によれば多くの従業員が増額になるかのように虚偽の説明を行い、組合らが検討するための資料を提供しなかったと主張するが、会社は、新体系の説明に当たって乗務員30名についての賃金の比較表を提示しており、その表において新体系による賃金額の方が減少している乗務員の数は、「完全にマイナスになる」35万円の足切りにいかなかった者(9名)を除けば30名中7名であり、Y2部長がそれを踏まえて「だいたいプラスになるはず」と発言をしたとしても、意図的に事実に反する説明をしたとはいえず、会社が虚偽の説明をしたとすることはできない。
 また、会社は新体系に基づく賃金の計算方法及び上記の賃金の比較表を提示しており、組合らが検討するための資料を会社が全く提供しなかったと評価することもできない。
(3)新賃金体系導入後の団交における会社の対応
ア 組合らは、会社が平成29年5月9日の団交の後、組合らからの度重なる団交申入れに応答せず、8月16日に開催されるまで、団交の開催を拒否し続けたと主張するが、会社は、この間に、組合らの求めに応じ、一部の資料を提出していることや、結局は、団交申入れに対し、期日には遅れたものの応じていることを踏まえると、団交を拒否したとまではいえない。
イ 組合らは、従業員から個別に取った「賃金改定の同意書」、従業員代表選出の同意書及び労使協定の写しの提出を要求したにもかかわらず、会社はこれを拒み続けたと主張するところ、非組合員の意思表示である「賃金改定の同意書」をその了解を得ることなく組合に示すことは適当とは言えず、組合らから不正な手段で同意を得たなどの具体的な事情を明らかにした上での開示要求などがなされたものではないことから、これらを提示しないことが不誠実な対応であったとはいえないことなどから、会社の対応が不誠実であったとは認められない。
ウ 組合らは、会社が新賃金体系導入後の団交において、具体的な根拠を示さずに賃金が良くなっているとか、人件費が上がっているなどと虚偽の説明を行ったり、求められた資料の提出を拒み、賃金改定の合理性や正当性について何らの説明もせずに改定の撤回を拒否し続けたと主張するところ、会社は、5月9日の団交において、組合らが、組合員など28名のうち23名が保証賃金を受けているなどと指摘したのに対し、Y2部長は、残業をまるっきりしない人は下がるかもしれないという話はしていると述べつつも、乗務員の賃金が上がっているとの説明をしている。
 会社は、6月16日までに数名分の賃金台帳のサンプルを提出した後、9月20日及び10月5日に組合員分の賃金台帳を提出したが、同年8月16日及び10月13日の団交において、自らの「大半が良くなる」との主張について説明することはなかった。
 会社は、同年8月16日の団交以降、個人情報の関係上、非組合員の賃金台帳は提出できないと主張し、全従業員の同意書などを組合らに取得するよう求めている。しかしながら、組合らが求めていたのは、氏名を消すなど、個人情報が閲覧できないようにしたもの又は賃金台帳に代わるものでもよいということであったから、会社は、賃金台帳に固執することなく、例えば、保証賃金の支給実績といった、旧賃金体系と新体系が比較できる数値を抽出した資料を作成するなどし、そうした具体的な資料に基づき自らの主張を十分に説明すべきであった。会社は、そのような説明をすることなく抽象的な説明に終始しており、自らの主張の趣旨や根拠について十分な説明を行っていたとは言い難い。
 したがって、新賃金体系導入後の会社の対応は、不誠実なものであり、法第7条第2号の不当労働行為に該当すると言わざるをえない。

2 支配介入について(争点2)
(1)賃金規定の改定の労使協定を締結するための従業員代表の選出の同意書について、他の事項と一緒に1枚の同意書にしたことにつき、事項ごとに代表者を選出すべきであるとの考えは首肯し得るものの、組合らが過半数組合ではないことから、会社が従業員代表を選出することは必要な手続であり、その際、3つの事項に係る代表者の選出を1枚の用紙で行ったこと自体に、組合の弱体化につながる支配介入行為があったとは言い難い。
 また、会社が乗務員から「賃金改定への同意書」を求めたのは、平成28年10月18日のX2労組との団交等において、会社が11月4日までに回答が欲しい旨及び同日から非組合員に対し個別の同意書を取る旨を述べていたにもかかわらず、X2労組が何らの意見も表明しなかったなどの経緯があったからであって、会社が組合らを無視して進めたものではないから、組合らの弱体化につながる会社の支配介入行為があったとは認められない。
(2)組合らは、会社が組合らとの間で合意ができていないことを認識していながら、賃金規定の改定を強行した上、その後の団交の開催を遅らせ、組合らの求める資料の開示も拒否し続けたことが組合らに対する不当労働行為であると主張するところ、
①会社は、改定に当たり組合らの同意は得ていないが、団交等の中で会社がX2労組に意見を出すよう促したにもかかわらず、同労組は何ら具体的な反対意見を述べることはなかったこと等から、会社が新賃金体系の導入に踏み切ったことについて、組合らを無視して強行したと評価することはできない。
②しかしながら、新体系導入後の会社の対応は、不誠実なものであったと認められるのであるから、会社のそれらの対応は組合らに対する支配介入にも該当するものであり、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約549KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。