労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  京都府労委令和元年(不)第2号
京都地の塩会不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(組合)・個人X2・個人X3 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和3年4月13日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、
①就業規則変更等について組合との間で実施した団交(平成29年7月26日(「団交1」)、30年4月11日(「団交2」)、同年8月29日(「団交3」)、令和元年5月15日(「団交4」))に誠実に対応しなかったこと
②平成30年4月1日に組合との労働協約に反した給与規程の変更を行い、変更後の同規程を組合員である申立人X2及びX3に対し適用したこと(「本件変更」)
③X2らに平成29年4月からキャリアアップ手当を支給していないこと
④X2の教育職員検定の申請に係る実務調査書に勤務状況がやや不十分である旨の、また人物に関する証明書に教育職員として適当な人物であることを証明しかねる旨の記載を行ったこと(「本件記載」)
が不当労働行為に当たる、として組合並びに個人X2及び個人X3から救済申立てがなされた事案である。
(団交1に係る申立てついては、その後取り下げ)
 京都府労働委員会は、①の一部について労働組合法第7条第2号及び第3号、④について同条第1号及び第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し組合への文書交付を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。 
命令主文  1 法人は、下記内容の文書を申立人X1組合に交付しなければならない。
 年 月 日
X1組合
  執行委員長 A
Y法人
理事長 B
 当会の行った下記の行為は、京都府労働委員会において、(1)については労働組合法第7条第2号に、(2)については、同条第1号及び第3号に、それぞれ該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合との間で実施した平成30年4月11日及び同年8月29日の団体交渉において、同年4月1日に行った給与等支給規則の変更に関し、その内容や変更理由及び当該変更と平成29年3月22日付で貴組合と締結した確認書との関係等について、十分な説明を行わなかったこと。
(2)平成31年4月25日付けで作成した貴組合の組合員X2の教育職員検定申請の必要書類である実務調査書に勤務状況がやや不十分である旨の、また、同じく必要書類である人物に関する証明書に教育職員として適当な人物であることを証明しかねる旨の記載を行ったこと。
 (注:年月日は文書を交付した日を掲載すること。)
2 組合らの申立てのうち、被申立人が平成30年4月1日に行った給与等支給規則の変更に係る申立て及び平成29年4月から平成30年3月までのキャリアアップ手当に係る申立てを却下する。
3 組合らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団交2、本件変更及び平成29年4月から30年5月までのキャリアアップ手当に係る申立ては労組法第27条第2項の申立期間を徒過したものか(争点1)
 本件団交2は本件団交3と、平成30年4月及び5月のキャリアアップ手当の支払は6月以後の同手当の支払と継続する行為と認められ、申立期間内に申し立てられたものとして取り扱うことができるが、本件変更及び同年3月までの同手当に係る申立ては申立期間経過後になされたものであるから、これを却下する。 
2 本件団交2、本件団交3及び本件団交4における法人の対応は誠実であったか(争点2)
(1)本件変更に関する法人の説明義務
 法人が本件変更についてどのような説明を行うべきであったかを検討することは、本件団交2及び本件団交3における誠実性を判断する上で重要であるところ、法人には、本件確認書の締結の経緯も含め、本件変更について、組合に説明する義務があったと認められる。
(2)団交2及び団交3について
 団交2及び団交3における主たる協議事項は本件変更であったとみるべきである。そもそも、法人は本件確認書の締結の経緯も含め、本件変更について組合に対する説明義務を負担していたものであり、本件変更についての協議を組合側から打ち切るなど組合の態度に問題があったとしても、それは、本件変更や本件確認書と本件変更の関係が判然としないために交渉事項の特定等の組合の対応に混乱があったことに由来すると考えられる。
 法人は、本件団交2及び本件団交3において、両交渉を通じ、本件変更について誠実に説明義務を尽くしたとはいえず、法人の態度は不誠実であったと判断される。
(3)団交4について
 団交4においては、①本件規則の全文コピーを組合に提示しての説明、②本件3項目〔注. 要求事項のうち、就労に関する内容の変更、夏季休暇及び有給休暇の管理に関する項目〕及び③本件規則のコピー返却を求める理由が交渉事項となっていたと認められるところ、経過を踏まえれば、①②について不誠実な対応があったとは認められず、また、③についての法人の説明については不十分であったとは認められるものの、それが不十分なままにとどまったのは、組合の交渉姿勢にも起因するものと判断される。
 そして、園長は本件規則について説明しようとする姿勢を示していたことや平成31年変更についての交渉自体はその後継続して実施されていることも考え併せれば、本件団交4における法人の態度が不誠実であったとは判断されない。
3 本件変更及び本件変更後の給与規程のうち調整手当に係る規定を法人がX2らに対して平成29年4月から適用し続けていることは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか(争点3)
 1で判断したとおり、組合らの申立てを却下する。
4 法人が、平成30年4月からキャリアアップ手当をX2らに支給していないことは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか(争点4)
 法人の通知において、キャリアアップ手当が活用することとしている加算Ⅱは、技能・経験を積んだ職員に係る追加的な人件費の加算を行うものとされ〔注.保育士の処遇改善を図るための公的制度〕、加算対象職員として副主任保育士や職務分野別リーダー等の職員の発令や職務命令を受けている職員を例示していることが認められる。また、園においても、変更後の給与規程上、キャリアアップ手当について「以下の職位にある者に対して支給する。(1)副園長・主任、(2)副主任」等と規定しており、特に恣意的な指定がなされているとは認められず、具体的な対象職員の選定についても恣意的な運用がなされているとは認められない。
 園に9名の正職員が在籍しており、組合員以外にも3名の職員はキャリアアップ手当の支給を受けていないことが認められることからすれば、X2らにキャリアアップ手当が支給されないのは、同手当の支給対象となるような職位についていないことがその理由であると認められ、組合の組合員であることや組合活動を行ったことが理由とは認められないから、労組法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為には該当しない。
5 法人が、本件記載を行ったことは、労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか(争点5)
(1) 法人は、合理的裁量に基づきX2の勤務状況や勤務態度を正当に評価し、本件調査書等を作成した旨主張するが、法人としてそのような評価を行わざるを得ないことは平成30年5月の〔注.申請の要件である〕特例講座の受講推薦の時点で既に明らかであったはずであるのに園長は推薦を行っているのであるから、X2の勤務状況や勤務態度を評価して本件調査書を作成するに至ったとの法人の主張は採用できない。
 受講の推薦を行って以降本件調査書を作成するまでの期間は、団交3での本件変更についての交渉の決裂、組合からの法人を非難する趣旨の書面の提出など法人と組合の緊張関係が高まっていた時期に当たっていたことが認められ、また、本件調査書の作成日翌日に〔注.X2・法人間の〕訴訟において和解が成立し法人の規模や財政状況からみて決して小さいとはいえない解決金の負担を余儀なくされている。法人が本件記載に及んだのは、これら事情を背景として、法人が、園における組合の中心人物であるX2に対する嫌悪感を募らせたことが主たる原因であると認めるのが相当である。
(2)一方、確かに、X2に日常の勤務状況や勤務態度等については園長からみて問題があると考えられる事象が多数存在したものと判断され、園長が本件記載に及んだのは、いわばX2個人に対する嫌悪感を主たる原因とするものだったと考えられなくもないが、そのような勤務状況や勤務態度はほとんどが特例講座の受講の推薦以前からのものであって、上記の組合からの書面の提出や解決金支払を含む和解の成立がなければ、園長が本件記載を行ったとは認めがたい。
(3)したがって、法人が本件記載を行ったことは、X2に対する労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及びこれを通じて組合の活動に制約効果を及ぼす同条第3号の支配介入に該当する。 
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