労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  新潟県労委平成31年(不)第1号
株式会社魚沼運輸不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和3年1月6日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、平成31年2月27日に会社に申し入れた団体交渉に対して、会社が正当な理由なく応じなかったことが、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 新潟県労働委員会は、会社に対し、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる不当労働行為であるとして、団交応諾とともに、文書の交付・掲示を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が平成31年2月27日付けで申し入れた団体交渉に応じなけれはならない。
2 被申立人は、以下の内容の文書を、本命令書受領の日から1週間以内に、申立人に交付するとともに、同一内容の文書をA2版の白紙に楷書の黒い文字で大きく記載し、被申立人会社の従業員が見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
 組合
  分会長 A 様
会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合から平成31年2月27日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、新潟県労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  1 組合は、労組法上の適合組合に当たるか。(争点1)
 会社は、組合が労組法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合せず、申立ては却下されるべきであると主張している。
 しかしながら、本件救済申立ては、労組法第 27 条の不当労働行為救済制度に基づく申立てであり、労働組合が救済申立人になる場合は、労組法第2条及び第5条第2項の要件に適合するとの資格審査を受けなければならないとされている他に格別の要件を満たす必要は存せず、組合は、当委員会が実施した資格審査において労組法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合するものと認められ、その旨決定された。
 よって、会社の主張は採用できず、組合は労組法上の適合組合であると認められる。
2 会社が組合からの平成31年2月27日付け団交申入れに応じないことに正当な理由があるか。(争点2)
 団交は、労使間の関係確立及び安定化を図り、労使関係に関する合意形成とその運用を図る労使自治の手段である他、労使間の意思疎通を図るための手段であって、労働組合にとって重要な意味を持つ交渉手段であることに照らせば、使用者が労働組合の不誠実な行動を理由として団交を拒否することが許されるのは、団交が正常に開催できないなど正当な理由がなければならないと解するのが相当である。
 会社は、団交の前提となる信頼関係が構築できていないことを理由に団交に応じることができないとし、その原因として、以下アないしクを挙げているため、それぞれについて、団交に応じない正当な理由があると認められるか検討する。
ア 組合が労組法上の適合組合であるかについて
 会社は、組合が労組法第2条及び第5条第2項の規定に適合していないため、相手方と認めることが可能か否か不明であると主張するが、前記1のとおり、組合は、当委員会が実施した資格審査において労組法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合する旨決定されており、会社の主張は採用できない。
イ 労働組合の自主性について
 会社は、組合は、上部団体が主導している団体であり、労働組合の要件として自主性を欠いていると主張している。
 ところで、労組法上の労働組合であるためには、労働者が自主的に組織した団体でなければならず、とりわけ使用者からの自主性の確保が重要であり、労組法第2条ただし書においても、使用者の利益代表者の参加を許すもの、及び使用者から組合運営のための経費援助を受けるものは労働組合に当たらないとされている。
 本件では、組合は、当委員会が実施した資格審査において労組法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合する旨決定しており、他に使用者からの自主性を欠くと認めるに足る証拠もない。
 よって、組合は労働組合としての自主性を有しており、会社の主張は失当である。
ウ 団交の相手方について
(ア) 組合等(組合、地域労働団体であるC1及びC2並びに上部団体であるC3)は連名で、平成28年2月21日付けで、組合結成通知を送付していることから、その時点で、会社は、C1、C2及びC3が、組合と何らかの関係にあることは認識可能な状態にあったことが窺える。
(イ) また、第1回団交の時点で、会社は、組合側に上部団体等の者が出席しており、それらの者が組合から委任を受けていたことを認識できていたと言える。
 実際、第1回団交に先立ち、社長は、会社側出席者に対し、上部団体が変わったので、とりあえずどういう要求があるか話を聞いてきてもらいたいと指示をしていたことから、会社は、上部団体の存在についての認識があったことが窺える。
(ウ) さらに、団交の相手方が不明であれば、団交の中で確認を行うことが可能であったにもかかわらず、会社側出席者は第1回団交及び第2回団交の中で、C1、C2及びC3を含む交渉当事者や交渉担当者について、何ら質問をしていない。
(エ) 以上のことから、交渉の相手方が全く不明で、交渉が成り立つ前提を欠いているとする会社の主張は失当であり、団交に応じない正当な理由とはなり得ない。
エ 団交時の組合等の言動について
(ア) 第1回団交及び第2回団交において、組合側出席者には、適切であるとは言い難い言動があったと言わざるを得ず、この点は組合等としても自省すべきところである。
 このため、会社が第2回団交の後に、交渉時間、交渉場所及び出席人数等の団交開催の条件を提案したことは理解できるところである。
(イ) しかしながら、組合側出席者の言動は、第2回団交で、会社側出席者が組合側出席者の質問に対し、自らの権限を超えている旨発言するなど、明確な回答を避けるような会社側出席者の姿勢に起因する面もあったことは否定できない。
 また、第1回団交及び第2回団交のいずれにおいても、団交は途中で打ち切られることなく終了しており、団交が全く継続できないような事態に陥ったとは認められない。
 さらに、団交が労働組合にとって重要な意味を持つ交渉手段であり、第2回団交から3年近く経過していることを踏まえれば、平成31年2月27日付けの本件団交申入れに応じないことに正当な理由があるとは認められない。
オ 確認書への署名・押印について
 第2回団交の確認書の内容に合意があったとは認められず、その作成行為自体は配慮を欠いていたとしても、会社が主張するような、署名・押印の強要があったとは認められないことから、団交が正常に開催できない状況に至ったとは言えず、団交に応じない正当な理由があるとは認められない。
カ 組合等による街宣活動等について
 組合等による街宣活動、社長室での抗議行動及び会社関係先への要請行動は、いずれも団交が正常に開催できない程のものとは言えず、団交に応じない正当な理由があるとは認められない。
キ 民事訴訟が係属していることについて
 複数件訴訟が係属中であり、対立していることをもって、団交に応じられないとする会社の主張は認められない。
ク 裁判における分会長の発言について
 会社は、裁判における分会長の事実に反する発言が、信頼関係の破綻を継続させたと主張している。しかし、発言の当否は当該訴訟において判断されるべきものであり、もとより当該発言は本件申立ての後にされたものであることから、会社の主張は失当である。
ケ 小括
 以上、アないしクで判断したとおり、会社が団交申入れに応じないことに、正当な理由があるとは認められない。
 よって、それらをもって信頼関係が構築できていないとし、団交に応じられないとする会社の主張は採用できない。



 
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