労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成30年(不)第5号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年10月30日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合から、会社が行った次の行為が労組法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事案である。
①平成29年9月15日に定年退職した組合員のA2を嘱託乗務員として再雇用しなかったこと、②A2組合員の再雇用等を議題とする29年10月23日の団体交渉で組合が要求した過去3年間の65歳定年後に再雇用を希望した乗務員の再雇用者数等を明らかにする資料(「再雇用資料」)を提示しなかったこと、③29年10月13日付け文書で、組合掲示板の掲示文書の内容に抗議して掲示の即時中止を求めたこと及び組合掲示板の撤去を求めたこと。
 北海道労働委員会は、会社に対し、②について労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、文書の掲示を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、次の内容の文書を、縦1メートル、横1.5メートルの白紙に楷書で明瞭かつ紙面いっぱいに記載し、被申立人本社の正面入ロの見やすい場所に、本命令書写しの交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。
 当社が貴組合に対して行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにします。
 平成29年10月23日の団体交渉で、貴組合が過去に再雇用を希望した乗務員の再雇用者数等の提示を要求したことに対し、これに応じなかったこと。
令和 年 月 日(掲示する日を記入すること)
 組合
  執行委員長 A1 様
会社        
代表取締役 B
2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、A2組合員を定年退職後に嘱託乗務員として再雇用しなかったことは、法第7条第1号及び第3号に該当するか。(争点1)
(1)定年退職者を再雇用する際の使用者の裁量
 使用者には、法律その他による特別の制限がない限り、採用の自由が認められているところ、一般的には、雇用するか否かは、使用者の裁量に委ねられているということができる。しかしながら、新規採用ではなく、既に雇用関係にある組合員を定年退職後再雇用する場合であって、当該組合員が再雇用を期待することも無理からぬ事情がある場合には、使用者の裁量は一定の制約を受けるものと解すべきである。そして、再雇用されることが労使慣行若しくは通例(「労使慣行等」)となっていたり、組合員が再雇用されることについて合理的な期待を有していたりするにもかかわらず、当該組合員の組合活動を理由に再雇用を拒否するといった不利益な取扱いを行ったような場合には、法第7条第1号の不当労働行為が成立する。
(2)定年退職者を再雇用する労使慣行等の有無について
 本件において、会社の就業規則等には定年退職後に再雇用する規定はない。そこで、定年退職者を再雇用する労使慣行等が認められるか、以下検討する。
 民法第92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、①同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと、③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、④使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定し得る権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要すると考えられる。
 この点、組合は、A3組合員、A4組合員及びA5組合員に関する団体交渉時のやりとり及びその交渉結果から、組合と会社との間では、65才以上の乗務員の雇用(再雇用)について、70才までの継続雇用が確認されていたと主張するが、これらの交渉はすべて有期雇用契約である嘱託乗務員の雇用に関するものであって、正社員の定年退職後再雇用に関するものではない。組合から正社員の再雇用問題についての申入れは、A2組合員の再雇用が問題となるまで一度もないことが確認でき、会社はA2組合員の再雇用要求に対して定年退職者全員を再雇用することは考えていないと文書で回答している。
 以上の点を考慮すると、組合が主張する定年退職者を再雇用するという労使慣行等を認めることはできない。
(3)A2組合員の再雇用への期待の合理性の有無について
 A2組合員の再雇用への期待が合理的なものであったか、以下検討する。
 まず、A2組合員は、定年退職した乗務員が嘱託職員若しくは特約乗務員として再雇用されていることを把握しており、現に、本件審査開始後に会社が提出した再雇用資料等によれば、会社は26年1月から29年9月までの間の再雇用希望者29名のうち24名を再雇用し、乗務員の33%は65才以上であった。会社が定年退職者の再雇用手続を乗務員に知らせていなかったことを合わせ考慮すると、限られた情報しか入手できなかった組合が、定年退職後の正社員は特段の問題がなければ再雇用されるのが会社の一般的な取扱いであると理解していたとしても仕方のないことであったということができる。
 また、A2組合員は、21年7月に入社して以来、アルコール検知歴や懲戒処分歴はなく、売上げに問題があったということもなかった。
 以上のことを考慮すると、A2組合員の再雇用への期待は、合理的なものであったと認めることができる。
(4)不当労働行為の成立に係る検討
 不利益取扱いの不当労働行為は、①使用者が、労働者が労働組合の組合員であること若しくは労働組合の正当な行為をしたことの事実を認識し、②その事実の故にその労働者に不利益な取扱いをしようとの意欲を持ち、③その意欲を実現するという行為である。かかる行為に該当するか否かは、間接事実から総合的に判断される。
 この点につき、B社長は、常務就任時から多くの団体交渉に出席していたため、A2組合員が組合の中心人物の一人で、組合活動の先頭に立って活動していたことを認識していたことは明らかである。
 また、前記(3)のようにA2組合員の再雇用への期待は合理的なものであったと認められるところ、会社は、A2組合員を再雇用しないという不利益な取扱いを決定している。
 そこで以下では、上記②に関し、会社が、A2組合員が労働組合の組合員であること若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故に不利益な取扱いをしようとの意欲を持ったと評価できるかどうか検討する。
ア 会社の意思決定に係る検討の対象
 会社は、定年退職を迎える乗務員から再雇用の希望があった場合、運行管理者から再雇用に賛成か反対か意見を聴いた上で、再雇用するかどうかにつき最終的な判断をしてきた。そして、A2組合員についても、運行管理者の意見を聴いたところ、再雇用すべきという意見はなく、この結果をもとに会社は、再雇用しないという最終的判断を行った。その際、運行管理者が再雇用に反対した具体的な根拠までは聴いていなかった。
 この点につき、会社は、単に運行管理者の意見に従ったに過ぎないのであるから、反組合的意識に基づきなした判断とはいえないと主張する。しかしながら、再雇用可否の判断に際し、会社において上記のような手続が採られていたのであれば、会社が形式的に運行管理者の意見に従って最終的に判断したことのみを取り上げて、不当労働行為意思の有無を判断するのではなく、運行管理者の判断から会社の最終的判断に至る一連の過程を会社の意思決定とみるべきであり、運行管理者の判断も検討の対象として不当労働行為意思の有無を検討するのが相当である。
イ 運行管理者の判断について
 連行管理者がA2組合員の再雇用に反対した根拠を示す資料として、乙2 号証が当委員会に提出された。
 以下、乙2号証の記載内容に基づき、運行管理者の不当労働行為意思の有無について検討する。
 乙2号証に記載されたエピソードには、組合と会社の対立が背景にあるものが多いが、C係長を始めとする運行管理者は、組合の活動内容やA2組合員が組合で担っていた役割を捉えて再雇用の判断をしたものではなく、A2組合員の態度や言動を重視して、職場秩序を乱す問題行動の多い人物と判断したものであると認められる。また、アルコールチェック問題では、C係長が運行管理者として新労組(A2組合員が、A3,A4,A5及びA6とともに、24年に結成し、29年に解散)の取組を応援していたことはA2組合員も知るところであり、このことからもC係長ら運行管理者が新労組や組合を普段から嫌悪していたということもできない。
 したがって、運行管理者が、A2組合員が労働組合の組合員であること、若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、A2組合員の再雇用に反対したとまではいうことはできない。
ウ その他の事情について
 本件再雇用拒否における会社の意思決定やその他の事情を検討した結果、会社が、A2組合員が労働組合員であること若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、不利益な取扱いをしたと認めることはできない。
 また、同様の理由により、本件再雇用拒否は、支配介入には当たらない。
(5)争点1小括
 前記(1)から(4)のとおりであるから、会社が、A2組合員を定年退職後に嘱託乗務員として再雇用しなかったことは、法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当しない。
2 29年10月23日の団体交渉で、組合が過去に再雇用を希望した乗務員の再雇用者数等の提示を要求したことに対し、会社が応じなかったことは、法第7条第2号に該当するか。(争点2)
(1)団体交渉応諾と誠実交渉の義務
 使用者が団体交渉を行うことを法によって義務づけられている事項は、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものである。また、使用者には労働者の代表と誠実に交渉に当たる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。
(2)団体交渉等への会社の対応と再雇用資料の必要性
 組合は、29年9月25日付け要求書で再雇用資料の提出を要求したが、会社は、同年10月2日付け回答書で同要求を拒否した。そして、同月23日に開催された団体交渉において、会社は、「其の部分につきましては、持ち帰って、ちょっと改めて、A7さんの方にお出しします。」と回答し、再雇用資料を提出する姿勢を示したものの、その後、同月30日付け文書で、再雇用資料の提出を拒否した。
 この点につき、会社は、定年退職者の再雇用について労使慣行等はないため、A2組合員を再雇用するかどうかは、同組合員を新規採用するかどうかの問題に等しく、同組合員を採用(再雇用)しなかった理由を説明する必要はないと主張する。しかしながら、前記1(3)で判断したように、再雇用に対するA2組合員の期待は合理的なものであり、A2組合員の再雇用問題は義務的団交事項であったといえるものであるから、会社には組合が求める必要な資料を提出する義務があったというべきである。
 しかも、団体交渉では、会社が定年退職者を再雇用していた実態が争点となっていたのであり、組合が、過去の実績を客観的に示す資料として再雇用資料を要求したことには合理性と相当性が認められる。
 また、本件審査開始後すぐ、会社が再雇用資料を証拠として提出しているように、同資料に高度な機密が含まれていたわけではないし、資料作成が困難であったわけでもなく、この要求は無理なものではなかったと考えられる。
(3)争点2小括
 前記(1)及び(2)のとおりであるから、29年10月23日の団体交渉で、組合が過去に再雇用を希望した乗務員の再雇用者数等の提示を要求したことに対し、会社が応じなかったことは、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
3 会社が、組合に対し、29年10月13日付け文書で、組合掲示板への掲示を即時中止すること及びA2組合員の退職を前提に組合在職者がいなくなるとして組合掲示板を撤去することを要求したことは、法第7条第3号に該当するか。(争点3)
(1)会社が組合掲示板の掲示物の撒去を求めたことについて
ア 組合掲示板の掲示物に係る考え方
 組合掲示板からの掲示物撤去の可否は、労働協約に基づく組合の利用権を前提にしての利用条件に関する解釈の問題である。そして、掲示の内容が事実に反し、職場秩序を乱す等のときは使用者が掲示物を撤去できるといったルールの定めがない場合には、掲示物の扱いをその都度労使間で協議して解決していくべきである。
イ 会社が組合に掲示物の撤去を求めた行為が支配介入に当たるか否か
 組合は、会社との合意に基づき組合掲示板を設置したが、合意書では、掲示物の具体的なルールについての取決めはなされていない。そして、本件では会社が、組合の掲示文書が「事実に反するばかりか、事実誤認に基づいていたずらに労使紛争を煽る内容であり看過でき」ないと文書で組合に抗議して掲示の中止を求めた後、本件を議題とする団体交渉や文書の往復が行われている。したがって、本件について、合意には至らなかったものの、会社は労使間で協議して解決していこうという姿勢を示していたといえる。
 また、会社は、掲示物を撤去することなく、当時の状態のまま残置している。
 以上の点から、会社が、組合に29年10月13日付け文書で組合掲示物の掲示を中止するよう求めたことのみをもって、組合運営に対する介入が行われたとまでは認めることはできない。
(2)会社が組合掲示板の撤去を求めたことについて
ア 組合掲示板設置に係る労使合意
 組合掲示板の設置は、労働協約たる合意書を根拠としている。同合意書には、「労使双方からの改善の意思表示がない限り、1年毎に自動更新するものとする。」との規定がある。そのため、期限を定めず効力を存続する旨の定めがある労働協約ということができ、当該協約を解約する場合には、法第15条第3項及び第4項に規定された手続によるべきである。
イ 掲示板の撤去要求とその後の交渉
 本件において、会社は、平成29年10月13日付けの抗議文書において、組合員在籍者は0名と推測される中で組合の団体性は喪失していると考えて組合掲示板の撤去を要求した。これに対し、同月23日に団体交渉が行われ、その後、会社と組合との間で、文書のやり取りがなされた。
 この点につき、まず、会社が、組合掲示板を一方的に撤去したわけではなく、組合に対して文書により組合掲示板の撤去を要求し、その後、会社と組合との間で団体交渉や文書のやり取りが行われたのであるから、会社の要求は、合意書にいう「改善の意思表示」に当たるとみなすことができ、実質的には、合意書の改善を巡る労使交渉が行われていたということができる。
 しかも、組合掲示板は撒去されずに同年9月末頃に組合が掲示した文書もそのまま掲示されている。
 以上の点から、会社が当該文書で組合掲示板の撤去を求めたことのみをもって、組合運営に対する介入が行われたとまでは認めることはできない。
(3)争点3小括
 前記(1)及び(2)のとおりであるから、会社が、組合に対し、29年10月13日付け文書で、組合掲示板の掲示の即時中止及び組合掲示板の撤去を要求したことは、法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。
 
掲載文献   

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