概要情報
事件番号・通称事件名 |
三重県労委令和元年(不)第1号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年12月21日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、組合が、令和元年8月5日付け、同月16日付け及び同年9月9日付けで、会社に対して、団体交渉を申し入れたところ、会社が団体交渉に応じなかったことが労働組合法第7条第2号に該当するとして、当委員会に救済申立てがあった事案である。
三重県労働委員会は、会社に対し、一部について労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する不当労働行為であるとして、文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、本命令書受領の日の翌日から起算して15日以内に、下記内容の文書を申立人に交付しなければならない。
記 年 月 日
組合
執行委員長 A1 様
会社
代表清算人 B
貴組合から令和元年8月16日付け及び同年9月9日付けで申し入れられた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為であると、三重県労働委員会において認定されました。不当労働行為を行ったことについて、陳謝します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
2 申立人のその余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 争点1(第1回団交申入れに会社が応じなかったことに正当な理由がなかったか。)
(1) 第1回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項
会社は第1回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項を、具体的には「本件聞き取り調査を実施したこと」であると理解したと解するのが相当である。
(2) 第1回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項は、義務的団交事項か否か
ア 義務的団交事項
使用者が団体交渉を行うことを労働組合法によって義務づけられている事項(いわゆる義務的団交事項)とは、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうとされている。
しかし、その性質上使用者の労務指揮権に委ねられているものについては、義務的団交事項ではないとされ得る。
イ 本件聞き取り調査について
本件聞き取り調査は、売上金額にかかる乗客とのやりとりに関するドライブレコーダーの記録と、運行日報に記載された金額が食い違っていたことから、事実確認を行うために実施されたものである。運賃の受領において、不明瞭な事象が生じた場合に、事実確認を行うことは、タクシー会社にとって当然かつ必要な行為であるのだから、A2組合員に対して本件聞き取り調査を実施したことは、会社の労務指揮権の範囲内として委ねられている事項であり、業務に付随して通常予定されている労務指揮権の範囲を超えるものではないと解せられることから、第1回団交申入れの交渉事項として会社が理解した「本件聞き取り調査を実施したこと」については、義務的団交事項には該当しない。
ウ 会社の対応について
(ア) そもそも、いかなる事項を団体交渉事項とするかを具体的に明らかにすることは、団体交渉申入れに際しての当然の前提であり、また団体交渉の開始にあたって、最小限必要なことでもある。団体交渉申入書に適切な記載がなく、それまでの経緯からも推し量ることもできない状況で、これに適切に対応する義務が使用者にあると解し、使用者の判断に誤りがあった場合には不当労働行為の成立を認めるとするのは、使用者に過大な義務を課すものとなる。
(イ) 組合が団体交渉申入書とは別に具体的な説明をしていたり、要求をしていたりしていたのであれば別であるが、本件においてはそのような事情は認められず、会社が団体交渉申入書の記載から、組合の求める交渉事項が、「本件聞き取り調査を実施したこと」と理解したことはやむを得ない。
(ウ) そして、そのように理解したことから組合に交渉事項を改めて確認しなかったことも無理からぬことであり、会社の対応が誠実さに欠けるとまでは言えない。
(3)結論
以上のとおりであり、会社が義務的団交事項ではないと理解して、第1回団交申入れを拒否したことは、正当な理由がないとまで言うことはできない。
2 争点2(第2回団交申入れに会社が応じなかったことに正当な理由がなかったか。)
(1)第2回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項
団体交渉申入れ事項として明記されていたのは「7月31日、貴社並びに弁護士が行ったA2組合員に対する聞き取り調査について(本書面の当労組の見解に基づけば労働条件に関わることは明白です)」であるが、より具体的には、本件聞き取り調査におけるドライブレコーダ一の利用方法について、団体交渉の申入れがあったものと認められる。
(2) 第2回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項は、義務的団交事項か否か
(ア) 義務的団交事項とは、前記1(2)アに記したとおりである。
使用者に就労状況をどのように把握されるのかということは、労働環境に関する事項であり、労働条件の一つと言うことができる。そして、ドライブレコーダーの記録によって使用者から就労状況を把握され得る労働環境に置かれたタクシー運転手は、使用者から監視されているかもしれないという危惧あるいは緊張感とともに業務を遂行せざるを得なくなるかもしれず、少なくともその可能性がない場合と比べて精神的負担をより強く感じることになることは想像に難くない。
(イ) 本件においては、現にドライブレコーダーの記録を活用して、就労状況を把握したうえで本件聞き取り調査が行われている。このことと、上記(ア)に記したタクシー運転手の精神的負担をあわせて勘案すると、本件聞き取り調査におけるドライブレコーダーの利用方法は、労働環境に関する事項であり、労働条件の一つと言うことができるので、義務的団交事項である。
(4)結輪
以上のとおりであり、義務的団交事項ではないことを理由に、第2回団交申入れに会社が応じなかったことに正当な理由がなかったと認められる。
3 争点3(第3回団交申入れに会社が応じなかったことに正当な理由がなかったか。)
(1) 第3回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項
会社が、組合が本件聞き取り調査におけるドライブレコーダーの利用方法を問題視して、団体交渉を申し入れてきたことを、理解していたことは明らかである。
(2) 第3回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項は、義務的団交事項か否か
上記(1)のとおり、第2回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項と第3回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項は同一のものと認められ、両者の間で判断を区別する特段の事情も見受けられないことから、第3回団交申入れにおける団体交渉申入れ事項も義務的団交事項にあたる。
(3) 結論
以上のとおりであり、第3回団交申入れに会社が応じなかったことに正当な理由がなかったと認められる。
|
掲載文献 |
|