労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成31年(不)第3号
冨二本工業所等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和3年1月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、Y1会社及びY2会社に対して、平成31年1月8日付けで組合員A2の労働問題に係る団体交渉を申し入れたところ、両社がこれに応じなかったことが、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 神奈川県労働委員会は、Y1会社に対し、労組法第7条第2号の正当の理由のない団体交渉拒否に該当する不当労働行為であるとして、誠実な団交応諾とともに、文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y1会社は、組合が平成31年1月8日付けで申し入れた団体交渉について誠実に応じなければならない。
2 Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を組合に交付しなければならない。
 当社が、貴組合から平成31年1月8日付けで申し入れのあった団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  
令和3年 月 日
  組合
   執行委員長 A1 殿
Y1会社         
代表取締役 B1 印
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合の団体交渉申入れに対するY1会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点1)
 組合の31.1.8.要求書は、Y1会社の下に到達しており、その内容も、組合がA2組合員の解雇問題等について、同社に団体交渉を申し入れていることは十分に理解できるものであるから、これに対し同社が、組合に対して何らの応答もせずに団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
2 Y2会社は、A2組合員との関係において、労組法第7条の「使用者」に当たるか否か。また、同社が労組法第7条の「使用者」に当たる場合、組合の団体交渉申入れに対する同社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点2)
ア 労組法上の使用者とは、原則として、労働契約上の雇用主をいうところ、A2組合員はY1会社に雇用され、Y1会社の従業員として勤務していたのであり、A2組合員とY2会社との間には直接の雇用関係がないことから、Y2会社は、労働契約上の雇用主には当たらない。
イ もっとも、労組法第7条が、労働組合の団結権侵害に当たる一定の行為を排除、是正して、正常な労使関係秩序の回復を日的としていることからすれば、一定の条件の下においては雇用主以外の者であっても、労働者との関係において「使用者」に当たると解する余地はある。
 すなわち、当該労働者の労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、当該労働条件等に係る交渉事項の限りにおいて、労組法第7条の「使用者」に当たると解される。
 したがって、組合がY2会社に申し入れた団体交渉事項のうち、A2組合員の労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定している場合には、Y2会社が労組法第7条の「使用者」に当たるといえるので、以下検討する。
ウ Y2会社とY1会社は、製造委託基本契約を締結しており、この契約をみれば、Y2会社はY1会社に製品を発注し、Y1会社はこれを請け負って完成品を引き渡し、Y2会社はこの完成品に対する代金を支払うこととなっていることから、両社は請負関係にあることが認められる。
エ 組合は、Y2会社とY1会社との関係は、請負の形式をとりながらも実態としては労働者派遣と変わらない偽装請負であると主張し、その根拠として、
 ① A2組合員の業務にY2会社が指示をしていること
 ② Y1会社の従業員はY2会社が所有する機材を使用していること
 を挙げている。
 ①については、Y1会社は、Y2会社のC工場において、Y2会社やその下請会社とともに、Y2会社から受注した製品を製造しているところ、作業現場は会社ごとに壁で仕切られており、Y2会社からY1会社の従業員に業務上の指示をすることはなく、Y1会社のB2工場長が直接指示していたことが認められる。
 Y2会社は、月に1回、朝礼を主宰しているが、その内容はC工場を使用する労働者に対する職場の安全衛生に関わるものであり、法律上の義務を果たしているにすぎない。以上より、Y2会社が具体的な業務指示を行っていたとは認められない。
 ②については、Y1会社の従業員が作業に使用している溶接機等の機材は、同社自らが所有していることが認められる。
 組合の上記主張は、いずれもその前提を欠いているので、採用することができず、Y2会社とY1会社が請負関係にあることを否定する事実も認められない。
オ Y2会社とY1会社が請負関係にあることを前提に、Y2会社が労組法第7条の「使用者」に当たるかについて、さらに検討する。
 組合は31.1.8要求書でY2会社に対し、
 ①A2組合員の解雇問題
 ②休憩時間の問題
 ③雇用契約書の未交付問題
 ④年次有給休暇の未付与問題
 ⑤社会保険未加入等の問題
を交渉事項として、団体交渉を要求している。
 ①A2組合員の解雇問題については、Y2会社とA2組合員との間に直接の雇用関係は存在しない上、A2組合員がC工場に出勤せず、事実上退職するに至った過程においてY2会社が何らかの関与をした事実は認められない。
 ②休憩時間の問題については、31.1.8要求書によれば、B2工場長が許可をしないために休憩を取ることができないことを問題にしているのであって、Y2会社は関与する立場にない。
 さらに、③雇用契約書の未交付問題、④年次有給休暇の未付与問題、及び⑤社会保険未加入等の問題については、Y2会社とA2組合員との間に直接の雇用関係がない上、Y2会社がこれらに関与していた事実は認められない。
カ 以上のとおり、組合がY2会社に求めた団体交渉事項について、請負契約上の発注者であるY2会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定していた事実は認められない。
キ したがって、Y2会社は、A2組合員との関係において、労組法第7条の「使用者」に当たらない。
 よって、その余については検討するまでもなく、組合の主張には理由がない。 
掲載文献   

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