労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和2年(不)第5号
くろえクリニック不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和3年1月21日 
命令区分  却下 
重要度   
事件概要   本件は、組合の令和2年1月7日以降3回の団体交渉申入れに対し、法人が鹿児島市以外では団交に応じないとして団交開催に応じなかったことが、労働組合法7条2号に該当する不当労働行為であるとして、大分市又は福岡市での団交応諾を求めて申し立てられたものである。
 福岡県労働委員会は、申立てを却下した。 
命令主文  本件申立てを却下する。 
判断の要旨  〇資格審査決定書の「適合しない理由」
1 (1) 労働組合法2条は、同法でいう「労働組合」を、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」と定義している。
 まず、労働組合法2条の労働者が「主体となって」というのは、当該団体の構成員中、その大部分の者が労働者であって(量的面)、しかも、その団体の主要な地位を労働者が占めている(質的面)こと、すなわち、労働者が量質ともにその団体の構成員の主体とならなければならないという趣旨である。
 したがって、労働者でない者が、量質いずれにおいてもその構成員の主体とならない限度において、労働組合に加入することは差し支えないわけであるが、逆に、例えば、労働者でない者がたとえ数的にはその構成員の大部分を占めない場合であっても、それらの者が実質的に当該団体の中心的地位を占め、その主体をなしているというような場合には、当該団体は、労働組合法にいう労働組合とは認められないことになる。
 そして、労働組合法3条は、同法でいう「労働者」を、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」と定義している。
 労働組合法上の労働者は、単に雇用契約によって使用される者のみに限定されず、組合契約、請負契約、委任契約等によって労働に従事する者であっても、他人との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督の下に労務に服し、労働の対価として報酬を受け、これによって生活する者である。
(2) 本件における組合の実態をみると、組合役員は、執行委員長と書記長の2名であり、執行委員長であるAは、C会社の代表者であることが認められる。
 そうすると、A執行委員長が、上記の「他人との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督の下に労務に服し、労働の対価として報酬を受け、これによって生活する者」に該当すると認めることはできない。
 このように、組合において、労働組合法上の労働者とは認められない者が、組合役員の2名のうちの1名、しかも執行委員長の地位にあって、そうした者が実質的に当該団体の中心的地位を占め、その主体をなしているものというべきである。
(3) したがって、組合は、労働者が主体となっているものとは認められず、労働組合法2条の規定に適合するとは認められない。
2(1) 労働組合法2条でいう「自主的に」とは、労働者が自ら進んで労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として労働組合を結成することをいうのであって、政府、政党、使用者等の外部の者の支配介入を許さず、また、組合幹部の独裁によらず、組合員の総意によって民主的に組織運営されることを要するのである。そして、組合幹部の独裁を排し組合の民主的運営を確保するために同法5条等の規定を置いている。労働者が組合の組織・運営に関して自主的でなければならないということは、具体的には、少なくとも、①外部の者の支配干渉を排除して自主的であることを指し、さらに、②組合幹部など一部の者の独裁に対する関係で自主的であることも求められるというべきである。
(2) 本件における組合についてみると、組合においては、一般の組合員には議決権や役員選任の投票権はなく、一般の組合員は組合の運営にかかわっていない実態がある。
 さらに、組合は、平成29年8月1日の東京都労働委員会による法人登記のための資格審査適合決定後、同年9月1日に規約を改正し、組合大会の議決権を「執行部に所属し、予め組合より議決権を有するものと指定された者」に制限する内容に改めている。
 ここで、労働組合法5条2項9号の規定によると、規約は組合員(全国的規模をもつ労働組合の場合は、その組合員の直接無記名投票により選挙された代議員)の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこととされている。とすれば、東京都労働委員会から資格審査適合決定を受けた当時は、組合の規約改正に係る規定は同号に適合した内容であったものと考えられる。
 しかしながら、組合によると、その改正手続は、執行部所属組合員及び協力組合員で手分けして、組合員に電話連絡を行った上で規約改正の同意確認を行い組合員過半数の支持を得たとの方法によるとのことである。このような方法が直接無記名投票であるとは到底いえない。このように、組合は一部の幹部によって所定の手続を踏むこともなく規約を変更することができ、実態として、議決権や投票権を一部の者に限定して運営しているものと認められる。
 以上の状況を踏まえると、組合は、実態として、公称組合員11万人(実際は、令和2年10月1日時点で72,826人)を有する組合の連営を役員2名のみで行っており、組合の運営に対して、役員以外の一般の組合員の意思を反映させることは困難であるといわざるを得ず、組合幹部など一部の者の独裁に対する関係で自主的であるとはいえない。
(3) また、本件における組合の決算書をみると、(令和元年6月1日から令和2年5月31日まで)をみると、組合の支出は40,000円のみということになるが、組合は、一般事務用品や書面印刷代等の事務経費、労働委員会の期日出頭等の旅費及び宿泊費等の組合活動に係る経費は発生しているものの、それらの不足する経費は、有志や各組合員の寄付等の負担によって維持されているとして、決算書に記載がないと主張する。また、組合は、組合事務所については、令和2年3月10日の福岡市への移転前の東京都においても、移転後の福岡市(福岡市においても令和2年12月4日付けの報告によると福岡市博多区から南区に移転)においても、組合の活動に賛同する個人や企業から最小限の事務所スべースを無償で提供されていると主張する。
 であるならば、実際には、組合の運営に当たって決算書よりも多くの経費が必要であるにもかかわらず、決算書からは組合の会計の実態が明らかではなく、結局、外部の者を含む一部の者の出捐によりその経費がまかなわれていたものと認められる。このように、多くの支出を外部の者を含む一部の者の出捐によっている組合財政は、外部の者や組合幹部の多大な影響を受けるものであり、外部の者の支配干渉を排除しているものとは認められず、組合幹部など一部の者の独裁に対する関係で自主的であるとはいえない。
(4) 上記(2)及び(3)のとおり、組合は、労働者が自主的に組織する団体とは認められず、労働組合法2条の要件を欠いているといわざるを得ない。
3 上記1及び2で検討したとおり、組合は労働組合法2条の要件を欠いている。
 よって、同法5条2項の要件を検討するまでもなく、組合が、労働組合法に規定する手続に参与し、同法による救済を受ける資格を有するものであると認めることはできない。
 
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