労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  京都府労委平成31年(不)第1号
ヨーク不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年12月9日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①技能実習生に係る団体交渉についての会社の対応が、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に、また、②会社が、技能実習生に対し、組合からの脱退に関する干渉をしたことが、労組法第7条第3号の支配介入に、それぞれ該当すると組合が主張して、平成31年3月4日、当委員会に救済申立てを行った事案である。
 京都府労働委員会は、会社に対し、①について団体交渉拒否及び②の一部について支配介入に当たる不当労働行為であるとして、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、下記内容を記載した文書を、申立人に手交しなければならない。
 この度、京都府労働委員会から、当社が、貴組合からの団体交渉の申入れに対して団体交渉に応じなかったこと及び貴組合の組合員A2に対して貴組合からの脱退に関して干渉したことは、不当労働行為であると認定されました。
 ついては、今後このような行為をしないことを誓約します。
   
 年 月 日
 組合
執行委員長 A1 様
会社        
代表取締役 B
2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合からの団体交渉の申入れに対する会社の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉の拒否に該当するか。(争点1)
ア 組合は、7月2日付け申入書により、①未払賃金を支払うこと、②会社における休日を記したカレンダーのとおり休日を付与すること、③バスポートを返還すること、④強制貯金を返還すること、⑤健康保険証及び年金手帳を返還することを交渉事項として、団体交渉を申し入れた。
 このうち、①及び②は労働条件に関する事項であり、③ないし⑤は労働関係における労働者の取扱いに関する事項であり、いずれも使用者に処分可能なものであるから、7月2日付け申入書によって交渉事項とされたものは、全て義務的団交事項に当たると解される。
 また、会社は、8月14日付け申入書により、①未払賃金の支払、②A2組合員の残業禁止措置をやめること及び同人の実習先変更の策動をやめること、③労働条件通知書を交付すること、④給与明細を交付すること、⑤就業規則、寄宿舎規則及び36協定を開示すること、⑥有給休暇の取得方法を周知すること、⑦不当労働行為を行わないこと、⑧技能実習生の居住スペースの確保、⑨新たな実習先を希望する者への対応を交渉事項として、団体交渉を申し入れた。このうち、①ないし⑥は労働条件に関する事項であり、⑦ないし⑨は労働関係における労働者の取扱いに関する事項であり、いずれも使用者に処分可能なものであるから、8月14日付け申入書によって交渉事項とされたものは、全て義務的団交事項に当たると解される。
 したがって、7月2日付け申入書及び8月14日付け申入書による団体交渉の申入れに対して、会社は、正当な理由がない限り、これを拒否できない。
イ 会社は、団体交渉を拒否する正当な理由がないにもかかわらず、組合が団体交渉開催の申入れを行ったことに対し、これを拒否した。このような会社の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉の拒否に該当する。
2 会社は、次の行為を行うことにより、労組法第7条第3号の支配介入を行ったか。
(1)A2組合員に対して、組合からの脱退に関して干渉すること。(争点2(1))
ア 組合は、平成30年8月5日及び8月6日の会社の一連の行為が、組合弱体化を意図した組合脱退工作であると主張する。
 しかしながら、8月5日の本件A2脱退届にA2組合員が署名・押印した経緯については、会社の事務所において、A2組合員、送出機関の者と称するC1、広島県所在のC2会社社長の3者の面談が行われた際、C1が、本件A2脱退届に署名をしないと広島に移籍できないとA2組合員に説明をして、これへの署名を促した結果、同組合員が署名・押印したものであり、この経緯に関して、会社は直接関与するものではなかった。
イ 一方、その後の経緯においては、前記3者の面談終了後、会社は、C1から本件A2脱退届を預かった。
 その翌日の8月6日、会社は、昼の休憩時間及び終業後、A2組合員を事務所に呼び出し、本件A2脱退届を組合に送るための封筒に宛名書き等をさせようとした。その際、A2組合員が拒否しようとしているにもかかわらず、C1やA3実習生に説得させたり、平仮名による見本を示したり、翻訳ソフトで本件A2脱退届の内容を説明しようとしたり、さらには、本件A2脱退届がないと広島の会社に移籍できないと説明するなど、会社の行為は、執拗に同組合員に宛名書き等を迫るものであった。そして、このように迫った理由は、A2組合員本人が宛名書き等をしなければ、会社が無理矢理書かせたことになるとの認識を会社は持っていたからであった。
 また、8月6日の会社による一連の説得をする前には、一旦、A2組合員に残業をさせる予定であったにもかかわらず、A2組合員が宛名書き等を拒んだところ、会社は、再び、「今日から残業なしになる」と残業させないことを示唆し、最終的にA2組合員が説得に応じなかった結果、「もう今日残業ありません」と現に残業をさせないこととした。
 さらに、終業後の面談の途中に、A2組合員は本件A2脱退届を返すよう求めたが、会社はこれを拒否した。
ウ 前記アで判断したとおり、本件A2脱退届にA2組合員が署名・押印した経緯に関して、会社は直接関与するものではなかった。しかしながら、労働組合からの脱退に関する干渉は、団結権という憲法第28条が保障する最も根源的な権利の行使に対する介入行為であるところ、前記イにおいて判断した会社が行った、①本件A2脱退届を預かるという行為、②執拗に宛名書き等を迫る行為、③本件A2脱退届の返還を拒否した行為は、いずれも組合脱退に関する明白かつ直接的な干渉行為であり、④本件A2脱退届を送付しないと残業させないことの示唆及び実行も、支配介入であることの補強事実と評価できる。
 そして、前記イにおいて判断した会社による、⑤A2組合員本人が宛名書き等をしなければ、会社が無理矢理書かせたことになるとの認識は、会社が脱退工作による組合弱体化の意図を有していたことを示す事実である。
 そうであれば、これら、①本件A2脱退届を預かるという行為、②執拗に宛名書き等を迫る行為、③本件A2脱退届の返還を拒否した行為、④本件A2脱退届を送付しないと残業させないことの示唆及び実行から成る会社の一連の行為は、A2組合員の組合からの脱退に関して干渉することにより支配介入を行ったと評価すべきものである。
(2)A3実習生らに対して、組合からの脱退に関して干渉すること。(争点2(2))
ア 組合は、会社が、A3実習生らに対し、組合を脱退し、組合への再加入も行わずに帰国に至ることを条件に、1人当たり少なくとも15万円以上の金銭を支払うことを約束する内容で、組合脱退工作を行ったと主張する。
 たしかに、平成30年9月15日、会社は、A3実習生らに賞与の給付を約束し、同日、A3実習生らの組合員脱退届が作成された事実が認められる。しかしながら、会社が、A3実習生らに組合脱退等を条件として金銭を支払うと約束した証拠はない。
 また、このほか、会社が、A3実習生らに対して、組合からの脱退に関して干渉したという事実は認められない。
イ 以上のとおりであるから、会社は、A3実習生らに対して、組合からの脱退に関して干渉することにより、支配介入を行ったとは認められない。 
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