労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委令和元年(不)第25号
オーツカ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年11月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が会社に対し、組合員であるA2の業務上の疾病による健康被害への謝罪や補償等の問題、及び元従業員の健康管理等の問題を交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、会社が、A2が平成21年に退職したこと等を理由に団体交渉を拒否したことは労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、令和元年11月18日に救済申立てのあった事件である。
 その後、組合は、令和2年5月12日付けで元従業員の健康管理等の問題に係る交渉事項に対する会社の団体交渉拒否について申立てを取り下げた。
 神奈川県労働委員会は、会社に対し、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる不当労働行為であるとして、誠実団交応諾とともに、文書の手交を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が令和元年9月17日付けで申し入れた、申立人組合員A2の業務上の疾病による健康被害への謝罪や補償等を交渉事項とする団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
 当社が、令和元年9月17日付けで貴組合から申し入れられた交渉事項のうち、A2組合員の業務上の疾病による健康被害への謝罪や補償等の交渉事項について、組合員が既に退職していることなどを理由に団体交渉を拒否したことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  
令和 年 月 日
 組合
  執行委員長 A1 殿
会社         
代表取締役 B 
 
判断の要旨  1 争点1(組合は、会社との関係で労組法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たるか否か。)
 会社は、A2が平成21年5月頃に会社を退職しており、現に雇用契約関係はなく、退職時に退職の効力や雇用契約に基づく権利義務を巡り紛争が発生した事実はないため、同人は「使用者が雇用する労働者」には当たらないから、組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しない旨主張するため、以下判断する。
 労組法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者」とは、使用者との間に現に労使関係が存在する労働者をいい、かつて労使関係があったにすぎない者は原則として含まれない。しかし、解雇された労働者が解雇そのものを争っている場合などのほか、労使関係が存在していた期間の清算されていない労働関係上の問題を巡って争われているような事情が存在する場合には、これらの労働者は「使用者が雇用する労働者」に該当すると解するのが相当である。
 元.9.17要求書は、組合が、会社に対してA2が会社での勤務時にアスべストにばく露したことを原因として本件業務上の疾病を発症したとして、アスべスト健康被害による補償について問題解決を求めている。
 加えて、A2が退職後、同種の業務を営む別の会社に動務していたとしても、同人が申請した労災保険請求書は、会社の事業主証明を経て支給決定されており、会社に労働災害の責任があるか否かはともかくとして、同人と会社の間には労使関係が存在していた期間に清算されていない労働関係上の問題が存在していたというべきである。
 以上のとおり、A2は「使用者が雇用する労働者」に該当するから、同人の加入する組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」である。
2 争点2(組合が令和元年9月17日付けで申し入れた、A2の業務上の疾病による健康被害への謝罪や補償等を交渉事項とする団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。)
ア 会社は、組合の求める交渉事項が義務的団体交渉事項ではないと主張する一方、組合は、交渉事項については義務的団体交渉事項であると主張するので、以下判断する。
 義務的団体交渉事項とは、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものであり、賃金、労働時間、安全衛生、災害補償、教育訓線などが労働条件の代表的なものである。
 組合は、元.9.17要求書のうち、A2の従事した全現場やアスべストばく露実態の調査及び資料提供、アスべストによる業務上の疾病の発生及び責任を認め謝罪すること、並びにその損害についての賠償を求めている。会社は、組合の上記交渉事項は、A2が会社勤務時の作業によりアスべストにばく露したとの事実関係に基づくものであるが、かかる事実関係の存否は、労使間の交渉によって相互に譲歩を検討しながら解決を目指すという団体交渉になじむ事柄ではなく第三者機関で認定されるべきであり、義務的団体交渉事項に当たらない旨主張する。
 しかし、元.9.17要求書に記載された交渉事項は、労働災害に関わるものであり、その前提となる事実関係については、まずは労使間で認識を明らかにしたうえで、A2の災害補償に関して協議を行う等して、自主的な解決を目指すべきであるから、義務的団体交渉事項と解するのが相当である。
イ 会社は、元.9.17要求書による団体交渉の申入れが、合理的期間内になされていない、具体的にはA2が会社を退職して10年、組合に加入して4か月の期間が経過してから団体交渉の申入れがされたことには、合理性がないため、団体交渉拒否には正当な理由がある旨主張する。
 しかし、アスべストに起因する疾病はアスべストばく露から長い潜伏期間を経て発症するところ、A2の退職後10年が経過して本件業務上の疾病が発生したことに別段不合理な点はない。また、会社は、A2の組合加入から4か月が経過した団体交渉申入れについて、問題視しているが、これについても、労働基準監督署による判断を待って団体交渉の申入れを行ったとする組合の主張に不合理な点はない。以上のことからすれば、組合の団体交渉申入れは、令和元年5月に組合加入、同年8月14日にC労基署による業務上の疾病との認定、その認定を受け、翌月の9月17日付けで団体交渉の申入れという経過から、社会通念上、合理的期間内になされたと解するのが相当であり、団体交渉を拒否したことに正当な理由があるという会社の主張は採用できない。
ウ 会社は、組合の元.9.17要求書に対し、元.10.15回答書で文書回答した上、本件審査手続きにおいて、組合の求める調査報告書に相当する法人代表者の陳述書を提供している上、A2の業務上の疾病に関する事実関係が明らかにされていない中で、損害賠償の請求には応じられないことから、団体交渉の実施は必要ない旨主張する。
 しかしながら、使用者には、組合との間の当該交渉事項に関する見解の相違の有無にかかわらず、義務的団体交渉事項について団体交渉における誠実な対応を通じて、合意形成の可能性を模索する姿勢が求められており、結審日現在も会社は、団体交渉を行っていないのだから会社の主張は採用できない。
エ 以上のとおり、組合の求める交渉事項は、義務的団体交渉事項であり、団体交渉の申入れも合理的期間内になされているといえる。
 さらに、団体交渉を開催する必要性は失われていないから、会社は組合の申し入れた団体交渉に応じる義務があり、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。


 
 
掲載文献   

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