労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第87号
アゼリヤ会不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「地本」)・X2組合(「分会」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和2年10月6日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   地本及び分会(併せて「組合」)の組合員A3は、平成6年4月、法人の運営するC1施設に看護師として入職し、同年10月に組合に加入し、21年からは分会の執行委員長を務めていた。
 組合と法人とは、17年に施設の運営がC4区の委託事業から法人の自主事業となって以降、賃金体系の改定や職員配置の問題等で対立した。
 28年11月23日の団体交渉後、組合が団体交渉の報告文書を分会の掲示板に掲示したところ、法人は、これに取消し線を書いたり、書き込みを行ったりした。
 29年10月の団体交渉で、法人は、C2施設の認知症対応型通所介護事業をC2施設の一般の通所介護事業(「サービスセンター」)に一体化する構想(「本件一体化」)を説明したが、組合はこれに反対した。
 A3は、30年3月末日で65歳の定年を迎え、再雇用を希望していたが、法人は、定年を理由として同人を再雇用しないこととした。
 3月、組合がA3の再雇用を要求して団体交渉が行われたが、法人は、組合側の発言者の人数を法人側の出席者数と同じ5名に絞るよう述べ、また、団体交渉の会場で組合員の写真を撮ろうとした。
 7月、組合は、法人が10月から本件一体化を行うとしていることについて、人員の十分な補充等を求め、団体交渉を申し入れたが、法人は、文書で回答したものの、団体交渉には応じられないとし、以後、これに抗議する組合との間で書面のやり取りが続き、結局、法人が団体交渉に応じたのは、9月27日であった。
 そして、法人は、10月から、本件一体化を実施した。
 本件は、①法人がA3を定年後再雇用しなかったことが、組合活動を理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か、②法人が、30年3月13日及び27日の団体交渉を開始するに当たり、組合の参加者や発言者の数を制限するよう求めたこと及び組合の参加者を写真撮影しようとしたことが、支配介入に当たるか否か、③組合が30年7月23日付け、8月6日付け及び同月23日付けで行った団体交渉の申入れに対する法人の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否ないし不誠実な団体交渉に当たるといえるか否かがそれぞれ争われた事案である。
 東京都労働委員会は、法人に対し、①について不利益取扱い及び支配介入並びに③について正当な理由のない団体交渉拒否に当たる不当労働行為であるとして、再雇用したものとした取扱いとともに、文書の交付・掲示を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人法人は、申立人地本及び同分会の組合員A3を平成30年4月1日付け、31年4月1日付け及び令和2年4月1日付けで非常勤の看護職員として再雇用したものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合らに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートルX80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、C1施設、C2施設及びC3施設の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
 地本
 執行委員長 A1 殿
 分会
 執行委員長 A2 殿
法人       
理 事 長 B
 当法人が貴組合らの組合員A3氏を定年後再雇用しなかったこと並びに貴組合らが平成30年7月23日付け、8月6日付け及び同月23日付けで行った団体交渉の申入れに対する当法人の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注;年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
3 被申立人法人は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人がA3を定年後再雇用しなかったことが、組合活動を理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か(争点1)
 法人が主張する本件運用方針(「法人では、従前から、定年退職者の再雇用はその後任が新規採用できなかった場合に限り本人に打診することとしている」とする取扱い)が実際に執られていたとみることは到底できず、法人では、定年退職者が再雇用を希望する場合には、それを尊重する運用がなされていたとみるのが相当である。それにもかかわらず、法人がA3の再雇用を認めなかったのは、当時分会の執行委員長として、法人の方針に反対する分会活動を主導していたA3を再雇用しないことにより同人を職場から排除し、もって組合の勢力を減殺するためであったといわざるを得ない。
 したがって、法人がA3を定年後再雇用しなかったことは、同人の組合活動を理由とした不利益取扱いに当たり、また、組合の運営に対する支配介入にも当たる。
2 法人が、30年3月13日及び27日の団体交渉を開始するに当たり、組合の参加者や発言者の数を制限するよう求めたこと及び組合の参加者を写真撮影しようとしたことが、支配介入に当たるか否か(争点2)
 3月13日及び27日の団体交渉は、それまでの団体交渉と比較して組合側の出席者数が極めて多く、それまでの団体交渉に出席していなかった友誼団体の役員等も出席していた。したがって、法人が、平穏な団体交渉が行われるのかという懸念を抱いたとしても無理からぬものがあるといえる。
 そして、一般に、法人が団体交渉の参加人数や発言者数について組合に希望を述べること自体が直ちに不当労働行為に当たるわけではない。また、組合に写真撮影してもよいかと尋ねたことは、団体交渉の円滑な進行に水を差すものであったとはいえ、やはり、それ自体が直ちに不当労働行為に当たるとまではいえない。
 また、法人は、団体交渉が開始された後は、組合側の参加人数や発言者数についてこれを制限するよう求めるなどしておらず、団体交渉の進行が実質的に妨げられた事情もないし、写真撮影についても組合がこれを拒否すると、撮影を強行するなどの行動には出ていない。
 そうすると、法人が、30年3月13日及び27日の団体交渉を開始するに当たり、組合の参加者や発言者の数を制限するよう求めたこと及び組合の参加者を写真撮影しようとしたことは、支配介入に当たるとまではいえない。
3 組合が30年7月23日付け、8月6日付け及び同月23日付けで行った団体交渉の申入れに対する法人の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否ないし不誠実な団体交渉に当たるといえるか否か(争点3)
ア 組合は、法人に対する7月23日付要求書で、本件一体化を10月に控え、人員の募集の現状と今後の計画を明らかにすること等を要求し、要求に対する回答及び団体交渉の開催を求めた。これに対し、法人は、7月26日付回答でいずれの要求も団体交渉を義務付けられている事項に当たらないとして、団体交渉には応じられない旨を回答している。しかし、組合は、法人の7月26日付回答に対し、8月6日、職員の補充がその減少に追い付かない状況は組合員の労働条件に関わる問題であるとして、団体交渉に応じない法人に抗議し、改めて団体交渉を申し入れていることからすると、組合は、本件一体化を控え、法人に対し、喫緊の極めて重要な問題として職員の補充を始めとする職場の労働条件や労働環境に関わる諸課題について要求していることがみて取れる。
 それにもかかわらず、法人は、8月15日付けの書面で、人員確保に係る組合の要求が判然としない、定年退職や契約更新の上限となる職員を除き雇止めしないということは労使間で交渉済みであるとして、団体交渉に応ずる必要性がないと主張した。これに対し、組合は、8月23日付けの書面で、人員配置について詳細に質問事項や要求事項を記した上で団体交渉を申し入れたが、法人は、9月4日付けの書面で、組合の質問事項や要求事項に書面で回答するも、団体交渉の要求については触れてすらいない。
 9月12日に、組合が、サービスセンターの人員補充等について改めて団体交渉を申し入れたところ、法人は、翌日、同月4日の書面で回答済みであるとしつつも、同月27日であれば団体交渉に応ずることが可能であるとようやく回答するに至った。
 そして、団体交渉が行われたのは、本件一体化の実施の直前である9月27日であって、7月23日の申入れから数えて2か月以上経過した後であった。本件一体化を目前に控えた時期に団体交渉を行い、労使で協議をしても、現場の体制の見直し等を行うことは極めて困難であり、実際に、9月27日の団体交渉では、それまでの職員募集の取組に係るやり取りに終始し、本件一体化に伴う現場の体制についての具体的な交渉は行われていないが、法人はそうした状況の下で10月に本件一体化を実施した。
 以上のような法人の一連の対応は、むしろ、本件一体化の直前まで交渉の機会を引き延ばし、事実上、組合の要求をくむことなく本件一体化の実施に踏み切ろうとしていたと評価されても致し方ないものであるから、団体交渉の拒否に当たるといわざるを得ない。
イ 法人は、組合が議論を求める本件一体化そのものは経営事項であるから、義務的団体交渉事項に当たらないと主張する。しかし、組合が7月23日付要求書において説明や回答を求めたのは、①人員の募集の現状と今後の計画、②職員が業務に忙殺される状況についての法人の協力、③サービスセンター利用者の家族への説明の時期と方法等であり、上記①及び②は、本件一体化によって職員の配置が変わることに伴い、現場の業務をどのような職員の構成でいかほどの職員負担で行うのかという正に組合員である労働者の労働条件その他の待遇等に直結する問題である。上記③も、本件一体化について利用者やその家族からの問合せ等に対応する現場職員の労働条件に関連した質問と解される。したがって、組合が団体交渉を求めたのは、本件一体化によって影響を受ける組合員の労働条件その他の待遇等に関する事項であり、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。
ウ そうすると、組合が30年7月23日付け並びに8月6日付け及び23日付けで行った団体交渉の申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるというべきである。 
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