労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委平成31年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社・Y3会社 
命令年月日  令和2年9月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社及びY3会社の代表取締役並びにY2会社の監査 役であるB1社長の組合の組合員らに対する発言が労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、平成31年2 月7日に当初申立てがされ、その後、同年4月20日に開催された団体交渉(「本件団交」)において、Y3会社の取締役である B2取締役が虚偽を述べたことが同条第2号に該当する不当労働行為であるとして、令和元年5月7日に追加申立てがされた事件 である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y3会社の使用者性について
ア 労組法第7条の使用者とは、労働契約上の雇用主のほか、雇用主以外の事業主であっても、労働者を自己の業務に従事させ、 その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と少なくとも部分的に同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定すること ができる地位にある者をいう。
イ A1組合員はY2会社、A2組合員はY1会社と、それぞれ雇用契約を結んでおり、Y3会社には組合の組合員はいない。
ウ Y1会社、Y2会社及びY3会社はいわゆるグループ会社であり、B1社長及びB3取締役がY1会社、Y2会社及びY3会 社の役員を兼務しているが、株式保有等を通じてY3会社がY1会社及びY2会社の組合の組合員の労働条件等に現実的かつ具体 的に支配力を有しているとの疎明はない。
エ したがって、争点1から3までにおいてY3会社は使用者ではなく、Y3会社とした組合の申立てには理由がない。
2 平成30年9月19日、B1社長は、組合の組合員でありY2会社の従業員であるA1組合員に対して「リストに載ることに なる」と発言したか。当該発言は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点1)
ア B1社長は、Y2会社の監査役であるが、Y2会社の従業員に対して業務に関する指示をすることがある旨証言していることからすると、労使関係においては使用者側というべき である。また、Y1会社の代表取締役でもある。
 したがって、B1社長の発言は、Y2会社及びY1会社の発言といえる。
イ 組合員に対する使用者の威嚇的発言により組合からの脱退を促し、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合には支配介入 になるというべきであるが、使用者の発言が不当労働行為に該当するかどうかは、発言の趣旨・内容のみならず、発言者の意図、 受け手である組合員への影響、発言のあった時期、場所、機会等の諸般の事情を総合的に判断し、当該発言が組合員に対して威嚇 的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合には支配介入になるというべきである。
ウ 平成30年9月18日、C1労働組合の副執行委員長を含む組合員16名が威力業務妨害の容疑により逮捕されたことが認め られ、また、C1労働組合の組合員らの逮捕の翌日、B1社長がC1労働組合の組合員でもあるA1組合員に対して「リスト」に 載る可能性について言及する発言(「本件発言①」)をしたことが認められることからすると、本件発言①というのは、自身の所 属する労働組合の幹部を含む相当数の組合員の逮捕の翌日に聞いたA1組合員にとって、本件発言①に係る「リスト」がいかなる ものであるかは判然としなかったとしても、一般には警察が保有するものでA1組合員自身の逮捕につながるものではないかとの 思いに至らしめ、これを恐れたA1組合員が組合からの脱退を考える契機になりえたものといえる。
エ B1社長が休態室にいたところ、休憩のためにやって来たA1組合員がB1社長に気付いて話しかけたことから雑談が始ま り、その中でC1労働組合の組合員の逮捕が話題となった際に本件発言①がなされたことが認められ、A1組合員は、B1社長が 本件発言①をしたことについて「僕のことも心配してくれているんじゃないかということも正直言って思いました。」「正直なこ とを言いますと、僕のほうのこともいろいろと考えてくれておるのかなと。リストというのは勝手に自分が変なイメージで思って いたもんですから。」と証言している。
 当時、組合とY2会社との間の労使関係は安定しており、また、A1組合員とB1社長との関係もおおむね良好であったことが 認められる。
 そうすると、本件発言①は、A1組合員とB1社長がたまたま出会って雑談する中でなされたものであり、脅し付けたような様 子もうかがえず、労使関係がおおむね円満であった中でなされたものであることから、B1社長が、A1組合員の不安をあおり組 合脱退を促す意図をもって発言したものとはいえない。
オ 本件発言①があった時、A1組合員はB1社長に対し、何の「リスト」なのかについて確認せず、本件発言①をしたことにつ いて何らの抗議もしなかった上、後日、本件発言①について組合の執行委員長に伝えた際にもB1社長へ抗議するよう依頼しな かったことが認められることからすると、A1組合員は本件発言①中の「リスト」について何か漠然とよくない「リスト」だと考 えたので心配になった旨証言しているものの本件発言①を問題視していたとまでは認められず、本件発言①はA1組合員に対して 格別の影響を与えなかったと評価するのが相当である。
カ 以上を総合的に判断すると、本件発言①が、不用意な発言であったことは否めないものの、A1組合員に対して威嚇的効果を 与え、組合からの脱退を促す発言であったとはいえない。
キ したがって、Y2会社及びY1会社の発言としてのB1社長による本件発言①は労組法第7条第3号の不当労働行為に該当し ない。
3 平成30年12月26日、B1社長は、組合の組合員でありY1会社の従業員であるA2組合員に対して「毎月2,400円 の組合費を支払うのは大変だろう」と発言したか。当該発言は、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するか。(争点2)
ア B1社長の発言がY1会社及びY2会社の発言であることは、上記2アのとおりであり、当該発言が不当労働行為に該当する かどうかについては、上記2イに記載した諸般の事情に基づいて総合的に判断すべきである。
イ 平成30年12月26日、Y1会社及びY2会社の事務所の外に設置されている自動販売機付近でB1社長とA2組合員とが 偶然出会い、数分間立ち話をしたなかで、小遣いが少なく組合費の支払いが大変である旨のA2組合員の発言に応じ、B1社長が 「大変だなあ」との発言(「本件発言②」)をしたことが認められる。
 本件発言②について、組合は、B1社長がA2組合員に対して、自ら組合費の月額を示したうえで当該組合費の支払いが大変で ある旨発言をしたと主張し、A2組合員も、B1社長がたまたま出会ったA2組合員に対してなんの前置きもなく突然「組合費 2,400円だろう」「それを支払うのは大変じゃないか」と発言した旨証言しているが、B1社長が組合の組合費について特に 関心を持っていたことをうかがわせる事情もないことからすれぱ、出合頭にそのような発言をすることは不自然であり、採用でき ない。
ウ B1社長が旧知の間柄であるA2組合員の義父からの依頼によりA2組合員のY1会社への入社を決めたことが認められるこ とからすると、B1社長はA2組合員に対し、少なくとも悪感情を持ってはいなかったと推認される。
エ A2組合員がY1会社に対して以前から小遣いが少ないためはつり手当の半額を現金で支給してほしい旨要求していたことに 加え、A2組合員が業務上起こした事故の弁償金の半額の負担をY1会社に要求していたことが認められることからすると、A2 組合員が日頃から小遣いに窮した状況にあり、B1社長もこれを認識していたものといえる。
オ 本件発言②に係るやり取りがあった当時、組合とY1会社との間の労使関係は安定しており、A2組合員とB1社長との関係 もおおむね良好であることが認められることからすれば、B1社長がA2組合員に対して組合からの脱退を促す動機も見当たらな い。
カ 本件発言②を受けたA2組合員がB1社長に対して抗議したとの疎明はなく、また、A2組合員は組合の執行委員長に本件発 言②について自発的に報告した形跡もないことが認められることからすると、A2組合員が本件発言②を重大視していなかったこ とがうかがわれる。
キ 以上を総合的に判断すると、本件発言②は、A2組合員が小遣いに関して窮状を述べたことに対するものにすぎず、世間話の 域を出るものではないというべきであり、また.、その他の事情を考慮しても、組合からの脱退を促す意図があったものとはいえ ない。
ク したがって、Y2会社及びY1会社の発言としてのB1社長による本件発言②は不当労働行為に該当しない。
4 B2取締役は、本件団交において、A1組合員のY3会社所有のバラセメント車への乗務に関する議題について虚偽を述べた か。当該行為は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点3)
ア 本件団交が開催され、本件団交当日に発生した事故により、急きょ、本来、Y1会社及びY2会社の責任者として出席を予定 していたB3取締役に代わりB2取締役が出席したこと並びにB2取締役がB3取締役に代わる一時的な説明者として本件団交に 臨んだことを組合の執行委員長も了知していたことが認められる。
イ 本件団交におけるバラセメント車の乗務員の採用・退職等に係るB2取締役の発言等
(ア) 本件団交において、B2取締役が、①バラセメント車の乗務員が求人により充足した旨、②平成31年4月7日時点で3 名の乗務員が決まっていた旨及び③従前からのバラセメント車の乗務員1名が病気療養のため休職中である旨述べたことが認めら れる。
 上記①から③までのB2取締役の発言は、実際のバラセメント車の乗務員の採用等の状況とを対比すると、①バラセメント車の 乗務員が求人により充足した旨の発言については、当該求人により採用したC2が本件団交時点においてバラセメント車の乗務員 として在籍していたことから、②平成31年4月7日時点で3名の乗務員が決まっていた旨の発言については、バラセメント車及 びバラセメントトレーラー車の乗務員としてC2、C4及びC3の3名が在籍していたことから、③従前からのバラセメント車の 乗務員1名が休職中である旨の発言については、C4が病気療養のため休職中であったことから、いずれもバラセメント車の乗務 員の採用等に係る客観的な事実に即したものであったといえ、虚偽を述べたとはいえない。
(イ) 本件団交において、「どうゆう、急に出た?3人いっぺんに辞めた?」と質問した組合に対してB2取締役が「だから、 ようは2人はバンバンと辞めちゃって、で1人はもう治療で今やってるもんで」と述べたのに続き、組合が「1人辞めたのはい つ?」と質問し、B2取締役が「先月いっばいだったと思います。もう4月の頭にはいないから」と答えたこと及び組合が「3人 目は?」「2人辞めたの?3人目はいつ辞めたの」と質問し、B2取締役が「3人目は、いつ辞めた、だから3人目が先月いっば いで」と答えたことが認められる。
 これらのB2取締役の発言は、従前からのバラセメント車の乗務員2名が平成31年3月末までに退職した旨を述べたと受け取 ることもできるところ、実際のバラセメント車の乗務員の退職の状況と対比すると、退職者が、同年4月9日に退職したC3と、 同月27日に退職したC5であったことから、正確性を欠いたものであるようにもみえる。
 しかしながら、当該発言は、当時、バラセメント車等の乗務員の採用・退職の状況が目まぐるしく変化していた中で、本件団交 におけるバラセメント車の乗務員の採用・退職等に係るやり取りにおいて、組合が、本件団交に急きょ出席することとなったB2 取締役に対し、整理し回答する間も与えず、退職者の状況をたたみかけるように追及したため、双方の議論がかみ合わないまま混 乱し整理されなかった結果としてなされたものであるといえることから、B2取締役が虚偽を述べたとまではいえない。
(ウ) そうすると、本件団交においてB2取締役は、A1組合員のY3会社所有のバラセメント車への乗務に関する議題につい て虚偽を述べたとはいえない。
ウ したがって、本件団交におけるY1会社及びY2会社の対応は不誠実であったとまではいえず、労組法第7条第2号の不当労 働行為に該当しない。 
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