事件番号・通称事件名 |
愛知県労委令和元年(不)第3号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年9月28日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社の平成30年3月21日から平成31年4月23日ま
でに開催された計8回の団体交渉における運転業務に従事する運転手の特別作業手当についての議題に係る対応、平成30年4月
1日以降に地域及び職種が限定された無期雇用契約を締結した従業員(「新限定社員」)と平成29年4月1日に地域が限定され
た無期雇用契約を締結した従業員(「旧限定社員」)との間の賞与の差異に合理性があるか否かについての議題に係る対応並びに
従業員の共済会である「二葉会」及び「よつば会」(「両会」)の決算等についての議題に係る対応が、それぞれ労働組合法第7
条第2号に該当する不当労働行為であるとして、令和元年5月7日に組合によって申立てがされた事件である。
愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 第1回から第6回までの団交における「職場限定のある運転手の
有給休暇の日額から特別作業手当を控除すること」との議題(「特別作業手当の取扱いに関する議題」)に係る会社の対応は、労
組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点1)
ア 会社は、第1回団交から第4回団交までにおいて、特別作業手当は運転手が実際に運転業務に従事した日に支払われる手当で
あって、運転手が有給休暇を取得した際には運転業務に従事していないため支払わない旨及び有給休暇を取得した際に特別作業手
当が支給されないことを理由として運転手が有給休暇の取得をためらうことを避けるため、有給休暇を全て取得した場合であって
も基準となる有期雇用時の年間の賃金総額を下回らないように無期雇用となった後の基本給の金額を増額して調整している旨を繰
り返し説明したことが認められる。
イ 会社は、平成30年11月30日付けでC労基署から、運転手が有給休暇を取得した際にも特別作業手当を支払うよう是正勧
告を受けたことから、第5回団交において、特別作業手当の取扱いについては社内で協議した上で年明けに組合に対して回答する
旨述べ、平成31年1月11日に組合に対し、C労基署の是正勧告の内容のとおり特別作業手当の取扱いを変更する旨通知したこ
とが認められる。
ウ 第6回団交においては特別作業手当の取扱いに係るやり取りがなかったことが認められる。
エ 上記ア及びイからは、第1回団交から第4回団交までにおける会社の特別作業手当に係る説明は、当時における特別作業手当
の支給対象の設定及び特別作業手当の支給対象となる運転手への賃金の面での配慮について具体的に説明したものであって、その
内容自体も明らかに不合理なものとはいえないことからすれば、不誠実なものとはいえない。また、第4回団交の後にC労基署か
らの是正働告が出され、会社が当該是正勧告の内容のとおりに特別作業手当の支給対象の設定を変更したことをもって、第1回団
交から第4回団交までにおける会社の特別作業手当に係る説明が不誠実なものとはいえないとの判断が覆るものではない。
オ 上記イからは、第5回団交がC労基署からの是正勧告から数日後に開催されていることからすれば、会社が当該是正勧告に係
る対応について、社内で協議した上で後日に回答する旨述べたことは、当該是正勧告に照らし、特別作業手当の取扱いについて再
度諸事情を総合的に検討する必要があったことを勘案すれば理解できるものであることから、当該団交における会社の対応は不誠
実であるとはいえない。
カ したがって、第1回団交から第6回団交までにおける特別作業手当の取扱いに関する議題に係る会社の対応は、労組法第7条
第2号の不当労働行為に該当しない。
2 第7回及び第8回の団交における「新旧限定社員のボーナスの格差に業務上・人事考課上合理性があるか否か」との議題
(「新旧限定社員の賞与の差異に関する議題」)に係る会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点
2)
ア 第7回団交において、会社は、新限定社員と旧限定社員のそれぞれの賞与の基準額を回答した上で、旧限定社員の基準額につ
いては個別の労働契約に基づいて決定している旨説明したことが認められる。
イ 第8回団交において、組合は、新限定社員と旧限定社員との間の賞与の差異に係る資料の提示を求めたが、会社は当該資料の
提示をすることなく、新限定社員と旧限定社員はもともとの契約が異なり、あらかじめ指示された定型業務を行う新限定社員より
も当該業務に加えて事業所の運営的な業務に携わる旧限定社員のほうが業務の幅が広い旨説明し、これを受けた組合が、具体的な
資料の要求や当該議題を理解するために資料が必要であることの主張をすることなく、当該説明を踏まえた発言をしたことが認め
られる。
ウ そうすると、第7回団交及び第8回団交において、会社は、新限定社員と旧限定社員の賞与の差異の根拠について一定の説明
を行ったと評価でき、また、当該説明を受けた組合は、具体的な資料の要求等をすることなく、当該説明を理解した上での発言を
していたといえることから、両者の差異の説明に資料が必要であったとまではいえない。よって、当該2回の団交における会社の
対応が不誠実なものであったとはいえない。
エ したがって、第7回団交及び第8回団交における新旧限定社員の賞与の差異に関する議題に係る会社の対応は、労組法第7条
第2号の不当労働行為に該当しない。
3 第8回団交における両会の決算等についての議題に係る会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。
(争点3)
ア 会社は、第7回団交及び第8回団交において、両会の構成、目的、会員からの徴収額と会社からの補助金の額、平成29年度
の決算の詳細、解散の理由、平成31年4月1日現在の残高及び2012年度末から2018年度末までの残高並びに「よつば
会」の共済給付の種類や詳細について書面を提示することなく説明し、これを受けた組合は、数度書面の提出を要求したことは
あったが、やり取りにおいて会社の説明を路まえた質問や発言をしていることが認められる。
イ そうすると、第8回団交における両会の決算等についての議題が義務的団交事項であるかどうかはおくとしても、会社は当該
議題について組合に対して一定の説明をしていると評価でき、また、当該説明を受けた組合は、当該説明を理解した上での発言を
していたといえることから、説明に資料が必要であったとまではいえない。よって、当該議題に係る会社の対応が不誠実なもので
あったとまではいえない。
ウ したがって、第8回団交における両会の決算等についての議題に係る会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該
当しない。 |
掲載文献 |
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